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雨芽の関係

「あんたは弱ってる、お嬢ちゃんのお得意のドーピング剤も切れてる。この戦いもろたで!」


 青年は駆け出した。

 そしてナイフを突き出した。

 同時に勢い良く伸びる刀身は間一髪で身を逸らしたオレゴンの頬をかすめていく。

 ハルシオンはその刀身を叩き折ろうと槍を勢い良く振り下ろすが、ナイフの先が地面に当たり甲高い金属音を鳴らすだけで折れる事は無かった。


「頑丈ですねー」


「感心している場合じゃないぞ!」


 オレゴンもすぐさま青年との間合いを埋めようと駆け出すが、その横でオレゴンよりも速くナイフが青年の手元に戻っていく。

 そしてまた突き出され、オレゴンへ襲い掛かるナイフ。

 オレゴンはまたもそれを回避するものの、それ以上は近づけない様子だった。


「連撃やで。動かれへんやろ」


「でも私は自由ですよ」


 青年のすぐそばからハルシオンの声がする。

 青年は慌ててそちらへ振り返ると、意気揚々としたハルシオンが今まさに槍を突き出そうとしている所だった。


「しまったぁ!」


 青年がそう叫ぶが、地面から突如、勢い良く突き出されるナイフ。

 生えてくるように現れたそのナイフにハルシオンは太腿を切り裂かれ、片足で飛び跳ねる様に後退する。


「罠……ですかー」


 溢れ出る血を押さえながらハルシオンは言った。


「人聞き悪いなー。冗談みたいなもんやでこんなん」


「それにしてもただの堕落者とは思えない実力ですねー」


「せやろ」


 青年は追い打ちを掛けようと第一歩を踏み出した所で、突如背後へ切りかかる。


「あんたは殺気出し過ぎやで。すぐ気付いてもうて地面からナイフ生やす必要もあらへんかったわ」


 切られた肩を押さえ後退りするオレゴン。


「一人に気を引かせつつ忍び寄る二人のコンビネーションはええけど、演技がわざとらしいでほんま」


「お前……ただの堕落者じゃないな……?」


「さぁ? それはそうと、おしゃべりする余裕は無いんとちゃう?」


 青年はナイフを構え、オレゴンに狙いを定める。

 それを阻止しようとハルシオンは駆け出そうとするが、片足が言う事を気付かず倒れこんでしまう。

 オレゴンもその場で神経を集中させるしかなかった。

 そして放たれる。銃弾。

 皆が一斉に銃声の元へ視線を向ける。

 と、同時に


「いっ……たぁっ……!」


 一人は胸部を押さえ、声にならない声を上げて地面に膝をついた。


「良かった。当たった……」


 倒れて行く青年を確認し、マスケット銃を構える全裸の少女が安堵して腰を降ろした。

 そしてすぐにハルシオンが叫ぶ。


「リーダー! 見ちゃいけませんー! 堕落者を見張っていてくださいー!」


 オレゴンはハッとして青年へ視線を向ける。するとそこには胸から雪崩の様に吹き出す血を懸命に手で抑える青年が息苦しそうに、倒れこんでいた。

 その様子にオレゴンは見苦しそうにする。

 そして少しでも気を紛らわらせる為か、背後の二人に話かけた。


「雨芽 エルさんだな?」


「どうしてボクの名前を……?」


「白いオカマに聞いた。知り合いか?」


「……そいつも、そこで苦しそうに倒れている奴もボクをこんな目に合わせた敵……。それ以外の何者でもない」


「でもあんたも昔俺たちを裏切りましたよね? 上官。覚えてますよね?」


「……も、もちろん覚えているよ。でも……。でも! あれは君たちを救う為に!」


「俺たちを救う為……?」


「ねぇ……お願い。聞いて。ほんとに裏切ったんじゃない。あのまま戦っても絶対に勝てっこ無かったから……。ボクたちはほんとに捨て駒の予定だったから……。上官であるボクだけが犠牲になってみんなをあの場から遠ざければ助けてあげられると思って……。信じて」


「だったらその事を打ち明けるのは駄目だったのか?」


「そんな事したら、全員裏切り者扱いだよ。嘘じゃ無いよ? でもボクもひどい目にあったんだよ? あの後、吊るし上げられたボクはその戦場で戦うはずだった奴ら……。君の見たオカマの人と、そこで倒れている人。そしてメイド服を着た金髪の女の子に捕らわれたんだ。そしてボクは……」


 エルはそこまで話すと、口を閉ざし俯いてしまう。


「リーダー……。メイド服を着た女の子って……」


「いや、まだ確定した訳じゃない」


「でも今回もここに居ましたよー……」


「だとしても、一体何が起きているかさっぱりだ……。ひとまずはそこの堕落者も連れて後退しようか。まだ息はある。何か聞き出せるかもしれない。一度、本部へ連絡を入れてみる」


 オレゴンは通信機を取り出すと、耳に当てる。

 そして繋がったと同時に突如、街の中心部から爆発音が鳴り響き、その衝撃で強風がオレゴンたちを襲った。 

 皆が思わず一斉に視線を中心部に向ける。

 すると建物の奥から煙が上がり、赤く淡く光っていた。


「どういう事だ。通信機からも爆発音が聞こえたぞ。ナンバー5はあそこに居るのか?」


「やっぱり様子を見に行った方が良いですかねー?」


「しかし堕落者と全裸の女性を置いて行くわけには……」


 そこへエルが割り込んだ。


「あ、ボクは大丈夫……。全裸じゃないよ」


 その一言にハルシオンが振り返る。


「リーダー……振り返っても大丈夫ですよー」


 そしてオレゴンも振り返る。

 すると黒いドレスを着たエルが暗い声で言った。


「魔力で作ったドレスだよ。それとボクはここで待機してるから君たちは様子を見てきたら?」


「しかし……」


「リーダー、行きましょう。ナンバー5さんもそこに居るかもみたいですし、何が起きているのか余計気になりますよー」


「……分かった。どちらにせよ本部へ連絡が取れないなら仕方ないか」


 そう言ってオレゴンとハルシオンは顔を見合わせると、街の中心部へと駆け出した。

 そして死にかけの青年と残されたエル。


「それにしても便利な武器だったね」


 エルは青年の傍らに転がっているナイフを拾い上げて言った。

 青年は音を鳴らして呼吸をするだけで何も答えない。

 

「君が一人目だよ。オカマは何をしても全然死ななかったし、逃げられちゃった」


 エルは刃先を青年に向けた。

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