切り裂かれジャック
「お待ちなさい」
電灯頼りで雨上がりの闇夜を走る二人の前に、極端に細身の色白な青年が立ちふさがる。
「敵か……」
オレゴンはその場で構えると、間髪入れずに殴りかかった。
青年はそのオレゴンの拳を握り、いとも簡単に受け止める。そして長い足で蹴飛ばした。
「まぁまぁ、焦らないの。あなたたちぃこれより先に行っても何も出来ないわよ」
青年は綺麗な顔にかかる長い白髪を耳にかけながら言った。
「オカマさんですかー」
転ぶオレゴンの前に立つようにしてそう言うハルシオン。
「そうよ。なにか? 分かったら帰りなさいよ。これだからお子様は嫌いだわ」
青年は腕を組みながら言う。
「残念だがそうもいかない。道を開けないなら強行突破するまで。悪いが殺める許可も出ている。近代魔法『イマジナリーソード』」
立ち上がったオレゴンはそう言うと魔法名を呟き、手の平に現れた魔法陣から剣を出現させた。
それ見たハルシオンも小さな釘を宙に投げると、
「ハーシャッド式科学魔法展開」
魔法名を呟き、落ちてくる巨大な釘をそれぞれ両手に握る。
「……あら~? そうなの? こっちは誰一人も死亡者は出すなと言われてきたのよ」
「だったらオカマさんに私達は殺せないですねー」
「油断はするな。嘘かも知れない」
「オカマは嘘つかないわよ。……けど、そっちがその気ならこっちもただ殺される訳にはいかないわね」
青年は白いスーツの懐から大きな釘を出現させ、その先を二人に向けた。
「あれ? その武器ってー……」
「行くわよ……」
青年が駆け出し、釘を薙ぎ払う。
それを二人は背後へ距離を取って回避する。が、青年は執拗にオレゴンを追い、さらに釘を突き出した。
対してオレゴンはそれを剣で弾いた。闇夜に甲高い音が響き渡る。
そして次に、青年の肩を背後からハルシオンの釘が貫いた。
軽い血飛沫が、ハルシオンの手を染める。
「優しいのね」
首を回してハルシオンを見つめる青年。
あまりにも余裕の態度にオレゴンとハルシオンは一瞬硬直した後、思わず距離を取った。
そこで青年は続けて話し出す。
「今の一撃で私の心を貫けたはず……。あなたって優しいのね」
ハルシオンは何も言えずに、警戒する。
青年はそんな様子のハルシオンを鼻で笑った。
「ふふふ、そんなに怖がらなくても良いじゃない。でもその優しさは、時にはあなたに牙を剥くわよ……!」
青年が両手の釘をハルシオンに投射する。
それをハルシオンは転んで回避すると、青年はまたもや懐から、今度はオレゴンが持っている剣を出現させた。
そして距離を詰めてハルシオンを叩き割るように、剣を振り下ろす。
「お前……どういう能力だ……」
それを動揺しながらもそう呟くオレゴンが間一髪の所で受け止めた。
「良いコンビネーションよ。でも甘いわ」
青年はその剣をオレゴンの足の甲を目掛けて突き刺そうとする。それをオレゴンは体勢を崩してでも回避すると、青年は地に刺さった剣をあっさり諦めて新たに出現させた剣をオレゴンへ向けて払った。
体制を崩したオレゴンがその攻撃を回避出来る訳も無かった。しかしどう言う訳か、オーラを纏ったハルシオンがその攻撃を釘で受け止めていた。
「お前……まさか薬を……!」
「このオカマ……只者じゃありませんよー」
「あらー? どうやら奥の手みたいね」
「えぇ、そーですよー」
ハルシオンは青年の剣を弾き飛ばすと、手の平を青年に向ける。すると、ハルシオンの背後から現れた大量の釘が雪崩の様に青年へ襲い掛かる。ガチャガチャと音を立てる釘は周囲に散乱しながらも確実に青年へ向かって行った。
しかし青年もまた、手の平をハルシオンに向けると背後から現れた大量の釘がハルシオンに向かい、ぶつかり合う大量の釘が甲高い連続音を響き渡らせた
「同じ……?」
「あなたの焦ってる顔、可愛いわー」
ハルシオンは青年を睨みつけると、錠剤をもうひとつ口に運び、駆け出した。そして噛み砕く。
対して青年が釘を構えた時、既にハルシオンは青年の頭上で逆立ちの体勢で青年の頭を両手で掴んでいた。そしてそのまま首を捻る。
完全に折れた音が鳴った後、ハルシオンは着地すると共に、釘で青年の心臓を背後から貫いた。さっきよりも勢い良く血が溢れ、ハルシオンを赤く染め上げる。
「ハルシオン……! 落ち着け!」
ハルシオンに駆け寄るオレゴン。
「二錠も勝手に……! 大丈夫か……!?」
「えぇ。最高の気分ですよー」
ハルシオンは青年を眺める。
そこには膝を付き、今にも倒れ込もうとしている青年があろう事か踏みとどまり、首を片手で元に戻していた。
そして元気そうに言った。
「あなた~大丈夫? 顔色悪いわよー?」
「……それどころか元気であふれてますよー」
ハルシオンは青年に、反応出来る前に腹部を釘で突き刺した。
そして続けて青年の片足を釘で打ち付け、地面に固定すると、力の限り青年の顔を蹴り飛ばす。
すると足が固定されたいたにも関わらず、青年は血飛沫を上げながら吹き飛んだ。その結果、その場に片足が残ってしまった。
「悪趣味な攻撃ねー。美しくないわ」
しかし青年は残された片足で平然と立ちあがった。もう片足からは噴水の様に血が溢れている。
それを見たハルシオンはまたもや駆け出した。
しかし今度は青年がいとも簡単にハルシオンの頭を掴み、そのまま宙に浮かせた。
「もうこれ以上は手が残されて無いようね」
青年の腕を掴み必死に抵抗するハルシオン。
ハルシオンはうめき声を上げながらも釘を青年を取り囲うように出現させ、そして発射し、大量の釘が青年の体を簡単に貫いた。だがそれでも青年は血を流しながらも平然としている。
しかし次の瞬間、青年は体勢を大きく崩し、地面に倒れ込んだ。と言うのも、オレゴンが青年のもう片方の足を切り飛ばしたからだった。今も足は血で円を描きながら吹き飛んでいる。
「あなたも意外と過激なのね……!」
しかしそれでも青年は片手で逆立ちすると、平然と言った。
そして残ったもう片方の手で懐から義足を取り出すと、それを装着し再びに両足で地面に立った。
「あ、そうそう私の名前、知ってるかしら? 結構有名なのだけど」
オレゴンはハルシオンに肩を貸し、青年を睨むだけで何も言わなかった。
対して青年はその様子を鼻で笑うと、
「知らないようね。そう、私は切り裂かれジャック……! オシャレでしょう? 覚えておいてねん」
無機質な義足、破れたズボンの裾、血塗れのスーツ、釘だらけの体で両手を広げて言った。




