新たな幕上げ
「お久しぶりです。今日あなたたちを呼んだのは依頼を受けて貰おうかと思いましてね……」
ハルシオンとオレゴンは、ナンバー5の組織へ招かれていた。
「はぁ。どう言った依頼でしょうか」
「話が早くて助かるよ。それで君たちはあの黒い髪の女を覚えていますね?」
「そりゃー。あんな事に巻き込まれましたからねー。忘れたくても忘れられませんよー」
ナンバー5は机に肘を付き、手を組んで続けた。
「また企んでいるみたいですね、良からぬ事を」
「そうなんですか」
オレゴンはあまり興味が無さそうに答える。
「そこでだ。協力して貰おうと思いましてね、あの女を良く知る君たちに」
「まぁこんな大きな組織からの依頼ですから断りはしませんけど……」
「良かった。実に良かった。もしかしたら既にあの女と内通しているかと思ったんですよ。それで返答次第では……ね?」
オレゴンとハルシオンは言葉を失う。そんな二人をよそにナンバー5は続けた。
「もう人が住んで居ない街があります。そこが臭うんですよ。私が直接向かえば早い話。ですが少し忙しくてね……。どうにも今回ばかりは嫌な臭いがするんですよ」
降りやまない雨。厚い雲で朧となった月明かりを浴びる廃墟と化したビル群。
人の気配は感じない。しかしなぜか電力は供給されているのか、並んだ街燈だけは寂しく淡く輝いていた。
「さて、仕事だな」
雨合羽を深く被るオレゴンが、街燈の光を頼りに大通りを走っていた。
その横ではハルシオンが同じく雨合羽を被り、並走している。
「ほんとにこんな薄気味悪い所に居るんですかー?」
「もちろんだ。豪雨により何も聞こえないが、戦闘は間違いなく開始されている」
木、街燈、木、街燈と綺麗に並ぶ道を、二人は時折、洋風の地面から露出した煉瓦に躓きそうになりながらもひたすら走る。
そして、異変は起きた。
「きたぞ! 敵襲だ!」
オレゴンが叫ぶと同時にビルの二階から突如、何者かがガラスを突き破り飛び出してきた。
砕けたガラスは街燈の淡い光をキラキラと反射させる。
そしてガラスが地に落ち、連続した軽い音が鳴り止む時には既にハルシオンとオレゴンは背を合わせ、構えていた。
「見張りが居たか。こいつら、コートの下には強化鎧を着ているようだ、気を付けろよ」
まるで姿を隠すように大きなコートを覆う何者かを睨みつけるオレゴン。
「そーみたいですねー。鎧を着ているかどうかなんて着地音ですぐ分かるのに間抜けな人たちですねー」
低い姿勢を取って返事をするハルシオン。
そしてコートの一人が走り出した。
それはオレゴンへ一直線に向かい、腰から剣を抜いた。雨を斬るその刃。それをオレゴンは屈んで回避すると、そのオレゴンを飛び越える様にハルシオンが現れ、コートの人物を綺麗に蹴り飛ばした。
対してオレゴンは、ハルシオン側から忍び寄っていた人物の前に、突如、足元から現れ、そのまま胸倉を掴み上げて背負い投げで地面に捻じ伏せる。
そして剣を奪い取り、そのまま力任せに胸元に突き刺し、さらに追加で襲い掛かってきた人物と剣を交えた。
「強いな」
その人物は呟くと、オレゴンの背後から伸びてきた剣先にあっけなく貫かれ、その場に倒れこんだ。
「これであと1人ですよー」
オレゴンに背後に立つハルシオンが呟く。
「そうだな」
オレゴンとハルシオンは残る人物に剣を向ける。
「諦めて降参してくれれば無用な争いをしなくて済むんだけどなー。やっぱり良い気分はしないしー……」
提案するハルシオンに、
「黙れ黙れ!」
その人物は叫びながら駆け出した。
そしてハルシオンは、その人物の初撃をいとも簡単に回避すると、剣の側面で思い切り顔面をフルスイングする。あまりの衝撃で立ち眩むコートの人物。
「旋転魔法『スパイラルショット』」
そのままハルシオンは魔法名を口にすると、コートの人物を腹部を拳で強打する。激しく回転しながら吹き飛び、街燈へぶつかるコートの人物。その衝撃でぐらぐらと揺れる街燈から、電球が抜け落ち、高い音と共に地面で散乱した。
「さて、先を急ぐか」
気が付けば雨は止んでいた。




