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外伝「貴族の息子」

特に続く物でも無く、きまぐれで書いたものです。

お暇でしたらぜひ。

気が向いたら続くかも……

「父上、今日のテストの報告に参りました」


 長い髪を一つに括り上げた着物姿の少年が襖を開けると、そこは広い畳の間だった。

 その部屋の奥の奥、開けられた窓から外を眺める着物の男性が横目で少年を見ると、こちらへ来るように手招きをする。


「うむ、では聞かせて貰おう」


 少年は広い部屋を半ば駆け足で、それも表情に嬉しさを隠し切れないと言った様子で歩み寄っていく。

 そして男性の前の机の上に、背に隠し持っていた紙を躊躇いも無く広げた。

 

「ご覧ください!」


 男性はそっと紙を拾い上げると、まず上から下へ一瞥いちべつ

 そして内容の一部を音読する。


「なるほど、満点か。当然、順位は一位。それどころか学院始まって以来の逸材と……」


 そして視線を既に笑顔でいる少年へ戻すと、にかっと微笑んでから言った。


「良くやった! これほどの成績であればわしも鼻が高いぞ!」


「はい! ありがとうございます!」


「うむ、これからも精進するが良い。そして今日、七つ目の年を迎えるお前にこれを渡そう」


 男性は背後に飾っている刀を一つ持ち出すと、それを机越しに渡す。

 少年はその刀を受け取ると、その重みに思わず後退してまうが、すぐに体制を整え両手で抱える様に持ち替えた。


「父上これは……」


「家訓では、七つを迎えた時から剣の修行に励む。そうして名を守ってきたのだ、知っているだろう。お前なら大丈夫だ。きっとわしを越えられる」


「……はい! 頑張ります!」


「うむ、では下がるが良い」


 少年は深々と頭を下げると、またも広い間を抜け、部屋を後にする。

 そして襖を閉めた所で、召使いが少年を待って居た。


「お坊ちゃま。お褒めの言葉を頂いたのですね。おめでとうございます!」


 まだ20代であろう若いその召使いは胸元で小さくガッツポーズをしながら、まるで自分の事の様に嬉しそうに声をかけた。

 少年は頭を掻きながら返事をする。


「ありがとう! それであの約束、お願い出来るかな?」


「もちろんですよ! いつでも都合の良い時に声をお掛けください!」


「じゃあ、明日だね! 明日は父上が遠出なさる予定だったはず」


「かしこました。では明日の都合の良い時間に声をお掛けくださいね!」












 昼時。大きな池の水面が風で揺れる中庭で、少年と召使いが距離を取って向かい合っていた。


「あまり無理はなさらないでくださいね。お坊ちゃまがお怪我をなされてしまわれるといけませんので……」

 

「もちろん! 剣術は半人前でも魔法は学院一だからね。油断しない方がいいよ!」


 そう言って少年が駆け出す。その途中で刀を鞘から抜き、自分の顔の横に、切っ先を相手へ向ける形で構えた。

 対して召使いは、


「近代魔法『イマジナリーソード』」


 目前に現れた魔法陣から引き抜くように剣を出現させると、迫り繰る少年の一太刀を受け止める。

 しかしその剣は呆気なく破壊された。まるで割れたガラス様に散乱する中で、少年の持つ刀の切れ味に二人は思わず動きを止めてしまっていた。


「今、振り抜かれていたら、怪我をしていたのは私でしたね」


「危なかった……。思った以上だ……」


「続けますか?」


「当然そうしたいけど、これはさすがに怪我をさせてしまうよ」


「私の身を案じてくれるんですか。でも大丈夫ですよ。こう見えて、私は強いんですよ」


「ほんとに大丈夫?」


「もちろんですよ!」


 召使いが折れた剣を構えると、つられて少年も刀を構える。

 そして召使いはまた魔法名を呟くと、


「近代雷魔法『サンダーソード』」


 折れた剣先から、雷を纏う剣が突き出る様に現れた。

 そして今度は召使いから駆け出すと、少年へその剣を振るう。

 対して少年はそれを刀で受け止めると、どう言う訳かまたしても雷の剣がガラス細工の様に砕け散っていった。


「これでも駄目ですか。でしたら……! 古代雷魔法『トネールエペ』」


 召使いの両手に、雷を強く纏う大剣が出現する。召使いはそれを強く握りしめると、少年では無く、少年の持つ刀目掛けて振り払った。

 金属がぶつかり合うような甲高い音が響く。そしてそれは見事に少年の刀を弾き飛ばしていた。

 しかし召使いは喜ぶ素振りも無く言った。


「良いですか。刀を柔軟に扱うのは当然ですが、しっかりと握らないと駄目ですよ。こうして武器を弾かれてしまいます」


「はーい! でも今度は折れない魔法武器を作ったんだね! すごいね!」


「いやいや、折れてましたよ――」


 召使いは大剣を顔の前まで持ち上げると、刃が大きく欠けた箇所を見つめながら続けた。


「――お坊ちゃまがもし刀をしっかりと握られていましたら、この剣が四方八方に砕かれていましたよ。凄まじい切れ味ですね。これじゃあ剣術の稽古に付き合えませんよ」


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