桁違い
「あの薬ー……のせいだよねー……?」
なかなか寝付けない夜、ベットで独り言を零すハルシオン。
今日の昼の出来事を思い出しては、自己嫌悪に陥る。
そしてため息をついて枕に顔を埋めたと同時に、事件が起きた。
「えっ?! なに!?」
突然の爆発音にハルシオンは思わず飛び起きた。
窓に視線を向けると煙が上がっているのが確認できる。
慌てて部屋を出ると、あろう事か一階の広間ではメイド達が見知らぬ集団と戦闘を始めていた。
「おい! 大丈夫か!」
アルデハイドが慌ててハルシオンと合流する。
「私は大丈夫だけどー。これはどういう事ー?」
「さぁな。私が聞きたい位だ。とりあえず、どこかの組織に攻撃されている事だけは間違いないようだぜ。前に揉めた貴族か? 服装に統一感が無い事から堕落者の線もあり得るし、全く関係ない奴らかも知れないな」
ハルシオンは再び広間を見下しながら答えた。
「まー、とりあえずこんな時はどうしたら良いのかなー?」
「決まってるだろ。屋敷を守る為、適当に戦っとけば良い」
「あー……なるほど」
ハルシオンは俯く。
「嫌なのか? だがいざって時は、自分の身は自分で守るしかないぞ」
アルデハイドがそう言い終えると、二人の間を裂くように巨大な岩が広間から飛んできた。
二人はそれを間一髪に回避するが、その岩により廊下は完全に隔ててられてしまった。
「とりあえず、無事な事を祈る! ひとまずは主の無事を確認してくれ!」
岩の向こうからアルデハイドが遠ざかって行くのを感じる。
ハルシオンは尻餅を付いた重い腰を起こすと、広間へ続く階段を駆け下りた。
そしてハーシャッドの部屋の方へ走り出すが、案の定邪魔が入る。
敵は刃物を所持している者も居れば、拳銃を発砲している者も居た。
ハルシオンは拳銃を所持している者を特に警戒し、迫り繰る火の粉だけを払い、この人混みに潜んでハーシャッドの部屋を目指した。
「確かー、ここからは食堂を経由するのが一番近かったはず……」
そうしてやっとの思いでハルシオンは食堂へ続く扉を開ける。
意外にもここでは戦闘を行われてなく、見知らぬ男が静かに、それも一人で食事を取っていた。
「誰ですか? 私の食事の邪魔をするおバカさんは」
ハルシオンの正面の机に座っているその人物は、膝にのせているナプキンで口元を拭き取りながら言った。
「あなたこそ誰なのー?」
「まったく……なってませんね。言葉の使い方が。これだから貧相な人間と話すのは苦手なんだ!」
その人物は、甲高い声で返事をすると、抑え込んでいたであろう魔力を一気に解放した。
その際に発生した衝撃で、ハルシオンは大風に吹かれたように尻餅を付いてしまう。
「……これで分かったでしょう? 今、あなたが置かれている状況と、とるべき行動が」
「うん……嫌だけど分かったよー」
ハルシオンは錠剤を飲み込み、小さな釘を宙に投げた。
「ハーシャッド式科学魔法展開」
そして握れるほどの大きさの釘を二本、その人物へ投射した。
あっという間の流れるようなその攻撃を、その人物は手に持っていたフォークであっさり弾き返した。
「ほう。変わった武器を扱うのですね。でしたら私も対抗してみましょうか。このフォークで」
その人物はそう言って、座ったまま机を蹴り飛ばす。強すぎる勢いで迫る机に対してハルシオンは思わず飛び上がった。
そしてハルシオンは机が勢い良く壁にぶつかり木端微塵になるのを確認した所で、再び謎の人物へ視線を移す。が、その人物はハルシオンが飛び上がる事を予想していたのか、先読みするように打ち出されていた複数のフォークにより、メイド服が壁に打ち付けられ、ハルシオンは高い位置で壁に固定されてしまう。
「聞きたい事があります。おバカさん」
「……」
「返事は?!!」
謎の人物の目が不気味に光る。
すると、見えない力で圧迫されているのか、ハルシオンは苦しそうに話し出した。
「なん……ですかー」
「無益な争いは好みません。私は。ですのでその為の協力を仰ぐのですが……」
「主の場所とかですかー……?」
「いえ、そんなものに興味はありません。ましてや私がするような仕事でもない。私が聞きたいのは食事を終えた私が一番快適な睡眠が取れる場所……それがどこなのか尋ねたいのです」
「広間へ抜けて階段を上がってすぐの部屋。その部屋が一番だと……思います」
「誰の部屋ですか? そしてその部屋を選んだ訳は?」
「私の部屋で……す。自慢じゃないですけど、睡眠に関しては私ほどの探究者は居ません。アロマなども完備……してます」
「なるほど。無理矢理ではありましたが有益な情報、感謝しますよ」
その人物が部屋を出ると同時に指を鳴らすと、ハルシオンが地面に落ちた。
そして咳をしながらふらふら歩き始める。
「桁が違う……。ハーシャッドさん無事ですかねー」




