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雷魔法

「まったく貴方達はっ! ハーシャッド様の挨拶中に何をしているのですか!」


「す、すみません……」


 会場の地下にある駐車場にメイド長の声が響き渡る。


「まぁ、今回は良いでしょう。少し理不尽な事だったと私も解釈しています。しかし、見張りとしてはまるで機能していなかった事に関しては反省しなさい」


「気を付けます……」


「さて、私はハーシャッド様の護衛に戻りますので、あなたたちもあの男に見つからない様に戻りなさい」


 メイド長がそう言って二人に背を向けると同時に、巨大な金属の塊が三人目掛けて飛び出してきた。


「最高位保安魔法『スパークウォール』」


 その事がまるで分っていたかのように静かに魔法名を口にするメイド長。

 そしてその金属の塊は、メイド長に衝突する寸前で爆音と共に空中で急停止し、激しく火花を散らした。

 慌てふためいた二人は、今まさに飛んできたその金属の塊に視線を向ける。

 それは車だった。今の衝撃でぐにゃりと歪に曲がってしまっていたが、確かに車だった。

 そしてそのまま視線をメイド長に移す。

 そのメイド長の前では激しく雷がほとばしり、メイド長を覆うように湾曲の壁が形成されていた。どうやらそれが車から身を守ったようだった。そしてそのメイド長が見つめる先には、スーツに身を包んだサングラスの集団が三人に歩み寄って来ていた。


「何者だ!?」


 アルデハイドが慌てて言う。

 

「どうやら逆恨みを買ったようね」


 メイド長が冷静に答えていると、スーツの集団は前衛と後衛に分かれて歩み寄ってくる。

 前衛はただひらすらに距離を詰めてくるだけだが、後衛はその場に留まり、皆で魔法を詠唱している様だった。


「混成魔法? 厄介な事。貴方達は私が時間を稼いでいる内にハーシャッド様に伝達してきなさい」


 そう言ってメイド長は雷の壁を静かに放電すると、宙に浮く車の横を過ぎて集団に歩み寄る。それに伴って空中で静止していた車が地に落ちた。


「早く!」


 アルデハイドはハルシオンの手を引っ張り、メイド長に背を向け駆け出す。

 スーツの集団が数人追いかけようと試みるが、メイド長はそれを止めるかのように片手を広げ、言った。


「あらあら。私を前にしてどこに行こうと言うのでしょうか」


 メイド長はそのまま親指を地面に向け、数回上下するをする。

 対してスーツ集団の一人がメイド長目掛けて駆け出した。

 そして、思い切り振り抜かれた拳がメイド長を襲う。それをメイド長は軽く屈み回避する。が、その瞬間には次の拳が迫っていた。


「遅いわね」


 メイド長は、後ろに跳ね少し距離を取る。

 対してスーツの人物は、距離を詰め、今度は回し蹴りで追い打ちを掛けた。だが、メイド長はまたもやそれを身を逸らし、簡単に回避する。そして勢い余ったその蹴りはコンクリートの柱に衝突すると、その柱を粉々に粉砕してしまった。


「中々の威力。褒めましょう」


 その砕かれた柱を見て言うメイド長。


「うるせぇ! ばばぁが!」


 苛立ちを見せるスーツの人物は、両手を広げてメイド長に突撃する。

 対してメイド長は、飛ぶように男に急接近し、胸部を力強く蹴り飛ばすと、静かに着地した。

 大きく吹き飛ばされ、何mも背中を地面に擦るスーツの人物。

 

「一斉にかかってきなさい」


 スーツの集団が顔を見合わせ、メイド長に一斉に飛び掛かった。

 中には魔法を詠唱している者もいた。

 そして、繰り広げられる連撃。火球から氷塊、砕かれたコンクリートの断片が勢い良く宙を舞い、地面を割り、隙を埋めるような連続打撃。

 しかしメイド長はそれを完全にさばき切り、一撃たりとも受けなかった。それでありながら、確実に反撃で一人一人ダメージを与えて行く。


「このばばぁ……何者だ」


 思わず漏らすように言った人物が次の瞬間、メイド長の空中回し蹴りにより、激しく吹き飛ばされた。そして車のボンネットに衝突し、まだ吹き飛ばされていく。

 そんな中、スーツの集団が一斉に距離を取った。


「どうしました?」


 首を傾げるメイド長。


「時間だよ」


 腕時計を指差ししながら答えるスーツの人物。そしてその人物が端の方に避難すると、メイド長の前方で混成魔法を今まさに放とうとしている後衛の集団がメイド長の視界に入った。


「上位混成魔法『メテオ』」


 そして放たれる巨大な火球。

 

「まずい」


 咄嗟にそう言うメイド長。

 しかし、同時に火球はメイド長に衝突していた。それほどに火球の速度は凄まじく、激しい火花と共に、爆音を鳴らし、地下である駐車場はあっという間に黒い煙で視界が奪われた。


「任務完了だな」


 スーツ集団の一員がそう言うと、見えない視界の中、出口へ向かって行った。


「意外とあっけなかったな」


 スーツの集団の談笑が駐車場に響き渡る。

 その時、激しい風が吹いた。そして煙が徐々に晴らされていく。

 頭の上に疑問符を並べるスーツの集団は、その風の発生である場所に一斉に視線を向けた。


「おやおや、まだ戦闘中だと言うのに、どこに行こうと言うのでしょう」


 煙が晴れた場所で、メイド長が立っていた。そして激しく流れる雷に囲まれながら魔法名を口にする。


「中間位雷魔法『ライデン』」


 メイド長は片手をあげ、その手からタコの足の如く、地面を撫で回す様に流れる複数の雷を発生させる。あろう事か、その威力で雷が通った後は黒い焦げ跡が残り、金属の塊である車を不規則に震え動き、電灯は激しく点滅し音を立てて破裂した。

 そして独特な動きでうごめく雷は、読めない動きでスーツの集団に襲い掛かっていく。


「これはやばい! 逃げろぉ!」


 スーツの集団の一人がそう言って、メイド長に背を向けるが、同時に雷の通り道と被ってしまい、ビクビクと激しく体を震わせ、地面に倒れこむ。また、別の者は激しく振動しながら移動する車の下敷きになり、感電していた。

 次々に悲鳴を上げる事無く、倒れて行くスーツの集団。中には、悲鳴にもならない声を上げている者も居たが、恐らくそれは感電によって引き起こされたものだろう。

 しかし雷は勢いを弱める事無く、倒れているスーツの集団に追い打ちを掛けて行く。中には、衣服から煙を上げる者も存在し、無機質が焦げる臭いと合わさり、不愉快極まりない臭いが駐車場を充満していった。

 そうして、ほとんどの人間が地にひれ伏したところで、激しかった雷が徐々に勢いを弱め、綺麗に消えていく。


「雷魔法使いとはな……」


 残されたスーツの人物がコンクリートの壁に背を預けながら言った。


「あら、まだ意識がある者が居たなんて意外ですね。その運は褒めましょう」


 メイド長がその人物に歩み寄り話を続けた。


「あなたの雇主は?」


「それは言えない」


「命に代えても?」


「もちろんだ」


 過呼吸をしながら答えるスーツの人物。


「まぁ、良いでしょう。見当はついています」


 スーツの人物に背を向け、この場を去ろうとするメイド長。スーツの人物は、この機を逃さなかった。手にコンクリートの断片を握りしめ、冷や汗を流しながら機会を伺う。

 その時、メイド長の前にアルデハイドとハルシオンが走り寄ってきた。


「メイド長!」


 メイド長が歩みを止めたその瞬間、スーツの人物は飛び掛かった。


「うおおおおお!!!」


 声を荒げるスーツの人物。それを目の当たりにして、驚き、動揺するアルデハイト。しかし、彼は一瞬だけ走った雷に打たれ、あっけなく地面に転がった。


「馬鹿な事を」


 そう呟くメイド長は歩みを再開した。


「メイド長!? 無事ですか?」


 アルデハイドが心配をする。

 対してメイド長は顔色一つ変えずに答えた。


「えぇ、大変でしたよ。私の雷魔法にあなたたちを巻き込まないように遠くに行って貰うまでの時間稼ぎが」

 

 アルデハイドが苦笑いを浮かべる中、ハルシオンがぽつりと零す。


「雷……魔法ー……」


 それにアルデハイドが食いついた。


「そだぜ! メイド長は雷魔法使いなんだぜ!」


 ハルシオンは、見るも無残な駐車場を一望しながら言った。


「基礎でさえ、他の上位魔法より遥かに修得が難しいと言われる雷魔法……。その凄さはこの跡地が物語ってくれてますねー……」


「……ハルシオンと言いましたか?」


「はーい。なんですかー?」


「あなたには普通とは違う何かを感じます。その力、せいぜい他人に利用されない様に気を付けない」


「え?」


 メイド長は咳払いをして言った。


「もちろん、ハーシャッド様にきちんとこの事を伝えましたよね?」


「もちろんです! 彼女なら大丈夫だろうと言ってましたよ!」


 アルデハイドは胸に手を置き答えた。


「ならばよろしい。では行きましょうか」

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