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メイドの仕事

「さて、アルデハイドはどこだろー」


 ハルシオンは部屋を出てすぐの階段を発見するとそちらへ向かった。

 そこからは下の広間が一望でき、せっせと働くメイド達が見える。ハルシオンはその中で、大きな掲示板の前で立っているアルデハイドを発見した。

 どうやらアルデハイドもハルシオンが見えたのか、手を振っている。


「おーい! こっちだこっち!」


 ハルシオンは木製の手摺に手を置き、階段を素早く降る。


「おー、良く似合っているじゃないかー」


「ありがとー。ところで私は何をしたら良いのかなー?」


「なに、この掲示板を見てくれ。今日するべき仕事がずらっと並べられている。この中から好きな仕事を各々こなしていくんだ。もちろん仕事内容によって報酬は違うし、それこそ掃除洗濯買い出しの雑用から、庭の手入れ、見張り、日によっては主のボディガードや戦闘依頼まである。もちろんある程度主から実力が認められた者しか受けれないがな」


「なるほどー。それで最初は何をすればー?」


「手っ取り早く稼ぎたければ、戦闘依頼を受ければ良い。危険が高い分、報酬は良いし、この手の依頼は意外と多く、他のメイド達との競争率も低い」


「けど戦闘依頼と言われても誰と戦うの~?」


「それも様々。見張りが発見した侵入者や、周囲で悪事を働く堕落者、もっと危険なものになると貴族と戦う事もある」


 アルデハイドはコルクボードの掲示板から一つの押しピンを抜き、一枚の書類を持ち出し、そのまま中庭に出る。

 ハルシオンはその横に並んで歩いた。


「どうして貴族と戦う事に……?」


「それは例えば派閥間の争いに協力したり、領地の取り合いをしたり、またはそれに巻き込まれたり。特に主は比較的最近、上流貴族として認められたから色々と敵が多いのさ」


 二人は綺麗に整備された中庭にある噴水の近くの白い椅子に腰掛けた。


「でも私なんかじゃそんな依頼を受ける事が許されないじゃー……?」


「何言ってんだ。あの鎧の連中を倒した時点でそんな事は心配無用だぜ」


「でもー、それは薬の効果で一時的な物だったじゃないですかー」


「だからお前にはこれが配布されている」


 アルデハイドは紫色の小瓶を渡した。


「中には魔力増幅剤の錠剤が入っている。もちろん、前に使った物ほど効果は強くないが、ハーシャッド式科学魔法を展開する程度には十分だろう。あ、それと配布は今回が特別なだけで必要になったら自分で買ってくれ」


「はーい」


 ハルシオンは伸びをしながら答えた。


「ところで私はこの依頼を受けようと思うんだが……初めての仕事だし、一緒にしてやろうと思ってな」


 アルデハイドはハルシオンにさっきの書類を見せる。


「会合……? 護衛……?」


「一番大きな文字しか読んでないじゃないか! 要は主が参加する会合の会場に紛れ込み、主の護衛をするのが目的だ」


「なるほどー。お邪魔じゃななければご一緒しまーす」


「だったら話は早いな。じゃあ主の乗る車の用意をしておこうか」









 二人は地下の駐車場で待機していた。

 地上の雰囲気とは違い、そこはコンクリートの壁に覆われた無機質な場所だった。

 そんな中、二人は今日乗る予定の車の前で立ち話をしていた。


「ところでよう、お前は家族とか居るのか? もしかしたらお前が中々帰ってこないで心配していたりしてないか?」


「あー、それに関しては大丈夫ですよー。……両親は既に他界してますしー」


「兄弟や姉妹は?」


「三姉妹の内、一番上の姉も他界していると真ん中の姉に聞かされました。まぁ肝心のその姉も今や連絡すら取れないんですけどねー。まったくどこでふらふらしているのやらー」


「そうか。お前も苦労して来たんだな」


「いえいえ、自由な暮らしを満喫してきましたよー」


 気を遣うアルデハイドを他所よそに、ハルシオンはまったく気にしてない様子で答える。

 そんな中、地下室へと続くエレベーターの扉が開いた。

 静かな空間に、革の靴音が響き渡る。


「おはようございまーす」

「おはようございます!」


 ぴょんぴょんと跳ね、手を上げてアピールするアルデハイドに、軽いお辞儀で挨拶をするハルシオン。

 その様子を見たアルデハイドが慌ててハルシオンの頭を抑え込む。


「こらこら新人はもっと愛想良くしろよ!」


 その様子にハーシャッドは笑みを浮かべて言った。

 

「まぁまぁ、そんなかしこまらなくても。そんな事より、今日僕の護衛をしてくれるのは君たちだね? よろしく頼むよ」


「頑張りまーす」

「頑張ります!」


 二人はそう返事をすると、アルデハイドが後部座席のドアを開ける。

 ハーシャッドは車に乗車すると、今度はアルデハイドが運転席に、ハルシオンが助手席に乗車した。


「車の運転も出来るんですねー」


「まぁな」


 アルデハイドがシートベルトをしてそう答えると同時に、後部座席に誰かが乗車した。

 二人が一斉に視線を向ける。


「……わたくしの顔に何か?」


 しわだらけの顔に白髪を後ろで纏めた老婆がそこに居た。


「い、いえ、何もありません!」


 アルデハイドが慌てたように前へ向き直し、車を発進させた。


「所で、そちらの新人さんには自己紹介が済んでませんでしたよね?」


「あ、私はハルシオンですー」


「そう、覚えておきましょう。私は――」


 ハルシオンが自己紹介をして、すぐにハーシャッドが割り込んだ。


「――こちらはうちでメイド長をしてもらっている方だ。分からない事があれば彼女に聞くと良い」


 ハルシオンが返事をしてしばらく沈黙が続いた。

 気が付けば外では雨が降っている。

 なんとなく重たい雰囲気で一行は目的地に向かった。

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