罪と罰
「私は何をー……」
白いベッドの上で目を覚ましたハルシオンは、そう呟きながら起き上がる。
周囲を見渡すと、隣にはもうひとつベッドがあり、そこにはオレゴンが座っていた。
そして正面には複数の人が冷めた目でハルシオンを睨んでいる。また、その間には鉄格子が挟まれており、集団とハルシオンたちを完全に隔てていた。
「なんですかー……これは」
「さぁな。だが一つだけ分かる事がある。それはどうやら俺たちはこいつらに良く思われていないという事だ」
「それくらい私にも分かりますよ……」
気怠そうに会話をする二人に、スーツ姿の集団から一人の老婆が歩み寄る。
「黙りなさい」
冷たく言い放ち、ハルシオンとオレゴンが黙り込んだ所で話を続けた。
「おはようございます。寝起きの気分はいかがですか? さぞ、気持ち良く眠れたことでしょう」
「何が言いたいのですか?」
ハルシオンも冷たく返事をする。
老婆は咳払いをすると、今度は小ばかにするような口調で続けた。
「少しあなたたちの事を調べさせていただきました。どうしてただの一般人がこんな所に居るのかと疑問に思っていたのですが、どうやらそちらの女はこの街に無断で忍び込んだとか。そのあと強盗を働き、あろう事か、殺人までも犯したと。残念ですが、あなたには一生、牢の中で暮らしてもらう事になりそうですわね」
「ハッ! 何を言ってる? ハルシオンがそんな事するはずもないだろう」
立ち上がり、必死に抗議するオレゴン。老婆はそのオレゴンに視線を移し、話を続ける。
「それとそちらの男性はよからぬ事を企む貴族に拉致され、挙句の果て記憶を喪失するほどに洗脳され、無理矢理戦闘を行わされていたと聞いております。本来ならば殺人者などと同じ牢に閉じ込めるべきでは無いと思うのですが、どうやらあなたたちは同じ組織の一員だと情報もございますので念のため、同じ牢にて監禁させて頂いております」
「念の為?」
オレゴンが質問する。
「えぇ、あなたたちの反応を見て本当に仲間かどうかを確認する為。聞いた話によると、あなたたちは同士討ちをしていたと報告があったものですから。お互い身に危険を感じているのであれば、今すぐにも牢を分けさせてもらいますが、何か意見はございますか?」
「どういう事だ……? ハルシオン……? お前は殺人などしないだろう? 同士討ちもあいつの虚言だろう……?」
オレゴンは視線をベッドに座り込むハルシオンに移し、話しかけるが、ハルシオンは俯いたまま何も答えなかった。
「特になしと解釈させていただきますね。結構、結構。実は詳しい内容こそまだ未定ですが、あなたたちをこれからどう扱うかの大まかな判断を示した紙を預かっております」
老婆は小さな紙を持ち出すと、それを適当に黙読し、少し怪訝そうな表情を浮かべて話し出した。
「オレゴンさん。あなたは街の中で好ましくない戦闘を行ったものの、それは致し方無いことだと上が判断しました故、特に罰を与えられる事無く厳重注意と言う形で釈放致します。この者を連れて行きなさい」
スーツを着た集団がオレゴンだけを牢から連れ出し、まだ抗議するオレゴンを無理矢理引っ張りこの部屋を後にした。
そうして老婆とハルシオンだけになった部屋に、老婆の声が響き渡る。
「ハルシオン囚人は殺人罪にて本来ならば牢の中で過ごしてもらうはずでしたが、保釈金が出てますので一時釈放となります」
「え……? 誰が保釈金をー……?」
鉄格子にしがみ付くハルシオンに、老婆は近くまで歩み寄り耳元で囁いた。
「保釈金など、表向きの表現だよ。お前は売買された。それだけの事だ」
「え、どういう意味ですか……?」
「保釈金も一時釈放なども建前。お前はもうここに戻ってくる事無く、保釈金を支払った貴族に受け渡される。そこからの生活は勝手に想像すると良い。もしかしたら孤独で痛く、苦しい生活がお前を待ってるかも知れんぞ。それこそここで罪を償っている方が遥かにマシだと思えるほどにな」
老婆は鉄格子から距離を取って続けた。
「話は以上です。ハルシオン囚人は迎えの者が時期に来るので待機していてください」
咳払いをして部屋を去る老婆。
「私……どうなっちゃうのかなー……」
残されたハルシオンの震えた声が、静寂な部屋に響いた。