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貴族の街にて

「さて、リーダーが居ると思われる街に来ましたが、どうやらこの街は貴族しか入れないようなのです」


 長く続く洋風の壁に門があった。その門前の無駄に装飾された柱に囲まれたターミナルで、ハルシオンとなぜかドレスに着替えているアルデハイドが話をしている。


「知ってるぜ? 有名だろ? あの魔法防壁」


 アルデハイトは門を指差し言った。

 その門は半透明で、まるで水面の様に揺れ動いていた。そしてアルデハイドはその長方形型の門の横の小さな器械に指を移し続けて言った。


「あの器械にカードを通し、魔法防壁を解除するんだぜ」


「詳しいですねー。どうにかして中に入る良い案は無いですかー?」


 二人がそう話している内に、一人の貴族が器械にカードを通し中へ入っていく。


「後ろに引っ付いて一緒に入るとか……」


 ハルシオンが駄目で元々で聞いてみる。


「リニモーターカーの切符と同じように一枚の切符で二人通れるものか。普通はな……」


「分かってましたよー」


 猫背になって答えるハルシオン。

 そんなハルシオンを他所に、アルデハイトは門に近づいて行く。


「ちょっとちょっと! まさか力ずくで通れるなどと言わないですよねー?」


「まぁ黙ってついて来いよ」


 アルデハイドは門前まで来ると、ポケットから取り出したカードを器械に通す。すると何事も無かったように魔法防壁は解除され、二人はあっけなく中に入れた。


「まさかあなたが貴族だと言うのですか……!」


「まっさかー。これは私の便利グッズの一つだ。ちなみに階級の高い貴族のカードは複数人通す事も出来るから覚えておくと良い。そんな事より、ここまでは予定調和。今すぐ行くべきなのは服屋だぜ」


「服屋さん……?」


「あぁ、そうさ。お前の今の服装は庶民臭過ぎるからな」


「なるほど……それであなたは前にお会いした時のいかにもな服装に着替えて来たわけですね」


 それから洋風の大通りをしばらく歩き、アルデハイドが不意に指差しを始めた。


「あの大きな店が私の唯一知る服屋だ」


「大きい……あれ? どこかで見たような……。もしかしてファッション誌などで良く見かける貴族の為に、で有名な……」


「そう。有名高級ブランド『ヴィヴィアージュ』だぜ」


「あー。やっぱり……って私そんなお金持ってないよー!?」


 アルデハイドは嫌がるハルシオンの手を無理矢理引き、強引に入店する。


『ようこそ、お越しくださいました!』

『ようこそ、お越しくださいました!』

『ようこそ、お越しくださいました!』


 一斉に放たれる店員の挨拶。二人は二列に並ぶ店員に囲まれてレッドカーペットの上を行く。


「馬鹿。堂々としてろ」


 挙動不審になるハルシオンにアルデハイドが小声で言った。

 そしてそのままカウンターまで移動する。


「お客様、カードのご呈示をお願い致します」


 アルデハイドはカードを渡す。店員はそれを受け取ると、器械に通し、カードを返却した後、二人を奥へ通した。

 

「見たか? 店員の奥で作業をしていたおっさん」


「えー……ちょっとだけなら」


「あの男がヴィヴィアージュのオーナーだ。ヴィヴィアージュはあの男の名だぜ」


「あなたはこの手の情報に強いですねー……」


「昔、貴族の元でメイドをした経験があるからな。このカードも既に無効になったカードを改造して無理矢理使っている状態だ。さて、服を選ぶぞ」


「あまり派手なのはー……ちょっとー……」


「分かった分かった」


 アルデハイドは目に付いた服を選び、ハルシオンに渡す。

 それは黒のドレスだった。膝を隠す程度の長さの裾で、最低限のフリルとシンプルなデザインだったが、それでもハルシオンからすればまだ派手だったのか、少し恥ずかしそうに試着を終えた。


「おぉ、これで良いだろう」


「まぁ……これくらいならー……」


「さて、先を急ぐか」


 アルデハイドはハルシオンの着ていた服を持ち、そう言って早々と出口へ向かう。


「あの、お支払いはー?」


「最初にカードを見せただろ? 後は自動精算だ」


「おー、便利ですねー」


 二人はまたもや店員に囲まれながら出口を抜けようとした瞬間、耳をつんざくような警報が鳴った。それと同時に、出口の自動ドアが鉄の扉によって何重にも厳重に閉められ、盛大に二人を驚かす。


「おっと、ビップがおかえりだと言うのにこの対応はいただけないなぁ」


 アルデハイドがそう言うと、先程奥で作業をしていたスーツ姿の渋い男が、警報を止める様に慌ただしく指示をしながら近づいてきた。


「これは驚かせてしまい、誠に申し訳ありません。セキュリティ異常による誤報だと思われます。お怪我はございませんか?」


「あぁ。まぁな」


「大変恐縮なのですが、防犯と言う意味で再度カードのご呈示をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 アルデハイドは無言でカードを渡す。

 すると男はカードを専用の器械で読み取ると、怪訝そうな表情を浮かべるも笑顔で話し出した。


「重ね重ねのご協力ありがとうございます。しかし、このカードからは本来読み取れるはずのデーターが一部読み取れないのですが、何か心当たりはありませんか?」


「さぁ? その器械が壊れているんじゃないか?」


「お客様、念の為、身分証明になる物のご呈示をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「……それは」


 男の顔から笑顔が消え去る。


「出来ない……か。まったく、いつまでもこんな玩具が通用すると思ったら大間違いだ」


 男はアルデハイドから受け取ったカードを割り捨てると、内ポケットから取り出した杖を二人に向ける。


「君のカードには前々から疑問があったのだよ。決算の結果でも君が購入した分だけ狂いが出ていたのだ。だが、尻尾を掴めずにいた。しかし最近になってセキュリティシステムのアップデートがあってね。どうやらこれではっきりとしたようだ」


 対してアルデハイドも臆す事無く返す。


「あぁ、はっきりとしたぜ。この店の対応は変わらず悪いってな。私は機嫌が悪いので帰りたいんだが、このドア開けてくれるか? 出ないと力尽くで開けさせてもらう事になるが」


 アルデハイドは鉄の扉を手の甲でこつきながら言った。


「言い訳は牢で聞いてやろう。捕えろ」


 男が指示すると、男の背後から大男と若い女性が現れた。

 アルデハイドは、先制攻撃としてまだ余裕の様子の大男の股間を蹴り上げると、激痛が走った急所を抑え込む男をそのまま押し倒す。


「少女二人に随分とまぁ……お粗末な事……」


 口に手を当ててそう言ったアルデハイドに男は舌打ちをして言った。


「加減はするな」


 女は男に「はい」と一言冷静に返事をすると、杖を持ち出しアルデハイドへ向け、魔法を詠唱した。


「最高位氷魔法『フリージングフォース』」  


 女は杖をアルデハイドの足元に向ける。すると、一瞬の眩い光と共に、次の瞬間にはアルデハイドの両足が氷塊によって固定されていた。


「お!? 最高位魔法か」


 続けて女は杖をアルデハイドの顔へ向ける。するとまたもや光り輝くと、アルデハイドのすぐ後ろの扉が綺麗に凍り付いていた。


「あっぶねー……」


 アルデハイドは顔を逸らし、間一髪で回避するの事に成功していたが、次の攻撃が今まさに迫っていた。


「保安魔法『ファイアウォール』」


 そこへハルシオンが割り込み、魔法を詠唱する。するとハルシオンの手の平から炎の壁が現れ、二人と敵を隔てた。

 そして壁の向こうから眩い輝きが漏れる。すると、あろう事か炎の壁が綺麗に凍り付いて消滅し、魔法の詠唱者であるハルシオンの手の先から腕、胴体、頬付近までもが氷塊に覆われてしまった。

 痛みのあまり後退りをするハルシオン。


「あー……。これは効きますねー……」


「最高位魔法をそんな下級魔法で防げるとでも? 気をつけなさい。衝撃を受けると、あなたの体ごと、砕け散りますわよ? そうでなくても体の組織までも凍り付いているのだから数時間放置すれば死ぬでしょう。大人しく自首しなさい。まだ五体満足で居たいでしょう?」


 警告する女を無視してアルデハイドがハルシオンを案ずる。


「まぁ、なんだ。無理はするな。間違ってもその腕を角にぶつけたりするなよ」


「もちろんあなたの足も同じ状態なのですけどね」


 女が少し苛立ちを見せて言った。

 対してアルデハイドは笑みを浮かべると、氷塊から片足を引き抜こうとする。


「千切れるわよ! え……?」


 しかし、アルデハイドの足は無傷だった。


「そんな魔法で私を支配出来ると思わない事だな。さて反撃と行こうか」


 アルデハイドが女に向けて駆け出す。女がそれを受け止めようと構えるが、攻撃を受ける前に、肩を男に掴まれ無理矢理後ろに下げさせられる。


「最高位魔法を受けて無傷となるともはや只者ではない。私が出よう」


 アルデハイドはそのまま飛び上がり、男にかかと落としを仕掛けた。

 男はそれを交差させた腕で防ぐ。しかしその威力により、男の足元を中心に蜘蛛の巣の様に地面にひびがいった。


「中々の威力だ」


 男は余裕の表情で、そのままアルデハイドの足首を掴むとそのまま地面に叩き付ける。

 それをアルデハイドは地面に片手を付いて受け止めた。またも同じく地面にひびが入る。


「ヴィヴィアージュだっけ? やっぱ名門家系は違うねぇ」


 アルデハイドはそのまま激しく回転しながら片手で飛び上がる。

 男がやむを得ず、手を放すと、アルデハイドはそのまま解放された足で回転蹴りを仕掛ける。男はそれを数発防ぐと、アルデハイドの回転力が弱まってきた所で、回し蹴りを返した。

 さすがに空中で舞っていれば身動きが取れないのか、アルデハイドは腹部に蹴りを直撃してしまい、そのままハルシオンのすぐ横まで吹き飛び、鉄の扉に衝突してしまう。


「それなりの実力者だが、私からすれば戯れだな。遺伝魔法を使うまでも無い。違う形で出会いたかったものだ」


 アルデハイドはゆっくりと立ち上がると、魔法を詠唱する。


「強化魔法『ドーピング』」


 そして、背後の扉を一撃で蹴り壊した。湾曲になって外へ飛んでいく鉄の扉に外の人間が慌て逃げる。


「おっさんには喧嘩では勝て無さそうだから逃げる事にするぜ! 要は逃げるが勝ちって事だ!」


 アルデハイドはハルシオンの手を引き、笑みを浮かべて走り去っていく。

 残された男が言った。


「既に保安組織に連絡はしているな? 店を片付けるぞ」


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