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魔法

「やぁ。さっき振りだね。元恩人。親しみを込めて、これからはハルシオンと呼ぼうかい?」

 気が付けば目前には、ピンピンとする桜渦が立っていた。

 そしてここはいつか夢で見た、見渡す限り真っ白で何も無い空間だった。

 怪訝な表情を浮かべるハルシオンを、桜渦は笑う。

「ここはオレゴンの心の空間だ。私がずっと閉じ込められてた場所。ひいては、君の心の空間でもある。背後を見てごらん」

 言われるがままにハルシオンは背後を確認する。

 そしてそこで見た物は、灰色の刀に心を貫かれて立ち尽くすオレゴンだった。

「リーダー!!」

 桜渦を無視して駆け寄るハルシオンは、そのまま刀を抜き取る。

 そしてその瞬間、オレゴンの瞳に光が戻っていった。

「ハルシオン……? 俺は何を……」

「リーダー……! 良かった……」

 オレゴンの温かい手を握り、ハルシオンは安堵する。

 しかしオレゴンはすぐにハルシオンを背後に隠すと、桜渦を強く睨んで言った。

「ハルシオン。安心するのにはまだ早い」

 その言葉を桜渦は笑って肯定する。

「そうだよ。ハルシオン。これからが本番だよ」

 桜渦が灰色の刀を構えると同時に、オレゴンもハルシオンから灰色の刀を受け取り、そのまま構えた。

 そしてハルシオンは手に、釘を固く握り締める。

「行くぞ!」

「はい!」

 駆け出すオレゴンの後に、ハルシオンが続く。

 そして笑って待ち構える桜渦へオレゴンが一太刀浴びせようと、刀を振り抜いた。

 しかし桜渦はそれを高く跳ねて回避すると、迫るオレゴンの肩に触れて倒立し、そのまま落ちる勢いを利用してオレゴンへ刀を降り下ろす。

 それをハルシオンが釘を投げて桜渦の刀へ的中させ、刀の軌道を逸らさせると、桜渦はすぐに標的をハルシオンへと変えて刀を振るった。

 ハルシオンはそれを新たに出現させた釘で受け止める。そして続く桜渦の連撃を次々に防いでいく。

 刀と釘が衝突する甲高い音が鳴り響き、ハルシオンが手に伝わる痺れに表情を曇らせていると、オレゴンが桜渦の背後から刀を突き刺した。

「危ないねぇ……」

 桜渦の余裕そうな声が響く。

 そして次の瞬間には、桜渦はその場から消えていた。

 ハルシオンとオレゴンが慌てて周囲を見渡す。

 次に桜渦が姿を現したのは、天からだった。あまりにも突如として落ちてくるように現れた桜渦は、そのままオレゴンの後頭部を鷲掴みにすると、力任せに地面に顔面を叩き付ける。

 そしてその衝撃によるものか、真っ白の地面がガラスのように砕け散り、三人は真っ暗闇の世界へと落ちていった。

 それでも不思議なもので、お互いの姿はハッキリと認識できる。

「くそ! お返しだ……!!」

 どれほどの高さがあるのか想像もつかなかった。そんな中でオレゴンは体を捻らせると、背後へと腕を回して桜渦の下顎を鷲掴みにし、そのまま体を回転させるように桜渦を地へ投げ飛ばす。

 桜渦はそんな状態でもオレゴンへと人差し指を向けると、

「古代風魔法『クウガ』」

 魔法名を口にし、空気の刃を指先から発射した。

 さすがにオレゴンも油断していたのか、それを腹部に受けてしまう。

 途端に走る激痛に表情を険しくさせるオレゴンを桜渦は嘲笑う。

 しかし油断していたのは桜渦も同じだったようで、急接近するハルシオンに腹部を蹴り飛ばされ、桜渦は落ちる速度をさらに速めていった。

 それでも笑みを崩さない桜渦。

 そこへハルシオンは手のひらを桜渦に向けて標準を合わせると、大量の釘を出現させて桜渦へと放なった。

 連なる釘は大蛇の如くうねりを上げて、桜渦を飲み込もうとする。

 しかし桜渦も負けじと、それらを刀で弾き飛ばすと、まだまだ迫る釘の合間を狙って刀をハルシオンへと投射した。

「終わりだ! ハルシオン!」

 声を大にして桜渦は叫んだ。

 ハルシオンが必死に抗おうとするが、空中で上手く身動き出来ないのかただその場でもがく事しか出来なかった。

 しかし、

「昆血魔法『アニマ』!」

 オレゴンがそう叫ぶと、合わせてハルシオンも、

「昆血魔法『コル』!」

 禁断の魔法を詠唱する。

 そして次の瞬間、二人の体が共鳴するように淡く光輝き、迫る桜渦の刀を弾き飛ばした。

 それには思わず桜渦も、煩わしそうに表情に怒りを浮かべる。

 そうして反撃とばかりにオレゴンが刀を突き刺し、桜渦へ急接近するが、落ちる速度が速い桜渦にはその刀が届かなかった。

「残念だったね、辻風」

 先程までとは打って変わって、桜渦が勝ち誇った表情を浮かべる。

 そして両腕を広げて続けた。

「もうすぐ果てに落ちる。そこは心の果て。ひいてはお前の心の奥底に眠る私の場所。そこで私とお前は完全な融合を果たす……。時間切れだよ。……さぁ桜渦オレゴンの復活だっ!」

 桜渦はこれ以上に無く楽しげに笑う。正しく極上の笑顔だった。

 それに伴い、オレゴンの表情が曇っていく。ハルシオンはオレゴンの刀を握る手の甲へと手を重ねると、首を小さく横に降って言った。

「諦めるにはまだ早いですよー? リーダー」

 その言葉にいち早く反応したのは桜渦だった。

「今更、お前に何ができる? 所詮は、借り物の力で威を借りていた分際が」

「……信じる事が出来ます。ねぇ? リーダー」

 尋ねるハルシオンに、オレゴンは瞼を閉じて考え込む。

 そしてすぐに答えた。

「……あぁ。そうだな」

 そして目を見開くとハルシオンと顔を見合せ、刀を二人で強く握り締めた。

 すると徐々に桜渦との距離が縮まっていく。

 桜渦は慌てて心の果てを確認すると、冷や汗を流して言った。

「もう間に合わないさ!」

「どうかな!! 今だ! ハルシオン!」

「はい!」

 ハルシオンが余った方の手を突き出し、連なった釘を放出する。

 それは桜渦の顔の隣を過ぎて行くと、すぐに甲高い音を鳴らした。

「なんだ!!?」

 桜渦の表情が動揺で崩れていく。

 オレゴンは意気揚々として答えた。

「今のはハルシオンの力が心の果てとやらに突き刺さった音だ!」

「だからどうしたと言うんだ! 辻風!!」

「分からないのか? ハルシオンはお前よりも先に俺の心の奥底へと辿り着いたんだ!」

「だから……なんだ……?」

「お前の負けだ!」

 オレゴンがその連なった釘を掴み、一気に引き寄せた。

 するとその反動でオレゴンとハルシオンは一気に直進し、心の果てに触れる直前と言う所で、桜渦の心を刀で突き刺した。

 そして心の果てへと衝突する三人。

 次の瞬間、意識は戻っていた。

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