プロローグ
どこから話せばいいのだろうか。後ろを着いてくるナオトの気配を背に感じながら、頭を悩ませていた。
「ナオト、英雄の昔話を聞いたことはあるか?」
「オウスイとトアの話しだろ」
ナオトは、兄のヒロトから教えてもらった、と一言おいて、昔話を大雑把に、それも取扱説明書のように口にした。
覚えていないのだから仕方がない。彼は、自分の母親であるオウスイがどれだけ壮絶な死を遂げたかを知らない。だから、サキに母親だと告げられても、自覚がないのも頷ける。
「実は、僕が知る昔話と少し違うんだ」
「どんな風に?」
「物語の登場人物がオウスイとトアだけじゃない。別の生き物もいる」
「そっちが正しい昔話ってことなのか?」
「いや、両方とも真実だろう。語り継がれているのは、王家が切り取って公にした部分なんだ」
彼らには、人間と化け物を明確に区別する必要があった。理由は単純だ。人間を守りたいからだ。
「ユズキが知っている昔話はどんな内容なんだ?」
とくに興味がない様子のナオト。だが、全てを知ったとき、こいつは今と同じ態度でいられるだろうか。
とにかく、それは後で話すとしよう。
「それも大事だけど、まずは僕自身のことからにしようか」
そう言うと、ナオトの声が若干明るくなったように感じた。
「すごい気になる!!」
態度にだして笑いそうになった。それをぐっと堪えて、懐かしいあの頃の僕を思い起こす。
ナオトはどう受け取るだろうか。事の始まりを僕のせいにするのか、あるいはそれ以前の問題で、僕を気味悪く思うのか。それとも別の感情を抱くのか。
どれに転んだって結末は同じだ。たとえ嫌われようとも、僕とナオトはまたどこかで必ず繋がるのだから。
「お前は幽霊の存在を信じるか?」
ナオトに振り返ると、なんともいえない間抜け面で僕を凝視していた。




