プロローグ 「夢」
あの日、父さんと母さんは死んだ――。
小学生の頃、なぜだか「俺は強い!」って思い込んでいた。
幽霊の目撃談が後を絶たない場所で度胸試しをしたり、高い場所から飛び降りてみたり、とにかく無敵だと思っていたし、怪我をしても不思議な事に痛いと感じなかった。
そんな俺は、目つきが悪いせいで覚えられやすい顔をしている。近所では有名な悪ガキの一人でもあった。しかし、それはあくまで表向きの俺であって、何を隠そう根っからのビビリだ。
「置いていくな! 死ね!」
「早く来いよー!」
一人では怖い所にも行けないくせに、口だけは達者だった。でも、迎えに来てくれた母さんや、仕事を終えて帰ってきた父さんの顔を見ると安心した。
――俺の毎日は、たしかに幸せに満ちていたはずだったんだ。
中学校の入学式に両親は来なかった。前日、父さんはカメラのレンズを磨き、母さんは新品の制服を眺めながら心待ちにしていたのに、だ。
一人正門の前に立って、両親が来るのをずっと待っていた。しかし、やって来たのは、両親ではなく怖い顔をした知らないおじさんだった。
そして、両親が不慮の事故で亡くなったと告げられた。
しばらくは学校に通っていたけど、それも数ヶ月だけで引きこもるようになり、同時におかしな夢を見るようになった。
何かから逃げるかのように森をがむしゃらに走っていて、やがて視界が真っ白になり、そこで目が覚める。毎日、同じ夢を見ていた。起きると全身に汗をかいていて、まるで夢と現実の狭間を彷徨っているみたいだ。
それから俺は夢の続きを追うようになった。そこから先には何があるのか、誰かが待っているのか。とにかく続きが気になって仕方がなかったんだ。
だけど、目覚めるパターンはいつも決まっている。結局、答えのない日々を過ごしていた。
そんな生活を一年ほど過ごし、今夜は気分転換に外を歩いてみることにした。
夜道、俺が通る場所は小学生の頃を思い出させる。ふと、不規則に点滅を繰り返す電灯を見上げ、幽霊の存在が頭を過ぎった。
「たしか、この辺りだったよな……」
恐怖に身を震わせると、あの頃、どうして度胸試しが出来たのかと考え込んで眉をすくめた。
夕飯の支度を始める母さんや、新聞を片手に酒を飲む父さんはもうどこにもいない。俺がどれだけ怖い思いをしても、二人は死んでしまったんだ。
「そっか……」
俺はいつの間にか夢に振り回されていた。
現実逃避に明け暮れ、幽霊でもいいからと両親を探している。その証拠に今立っている場所は、母さんがいつも迎えに来てくれる所で、この道は家族でよく歩いた道だ。
夢の続きが気になるなんて自分を誤魔化しながら二人を求めている。
溢れ出る涙を堪えきれず、もう家に帰ろうと振り返る。そして、一歩踏み出したその時だった。
突然、激しい耳鳴りがし始め視界が真っ黒に染まったのだ。両手で耳を塞ぎ、地面に両膝をついた俺は飛びかける意識の中またあの夢を見た。すると、驚いたことに夢には続きがあった。
いつもだったら真っ白な世界になって終わるはずなのに声が聞こえてきたのだ。
「いつか、必ず迎えに行く……」
それはまるで、言葉を覚えたての大人が喋っているようだった。
その言葉を最後に夢は終わりを告げ、俺の身体は冷たいコンクリートの上に倒れ込み、視界は暗転した――。




