王子が魔王になりました
「僕も前世の家族とそこまで仲が良かったわけではないけどね。」
脈絡のなかった発言はスルーされて、脈絡のない話しが始まった。
ただ、さっきの涙を思い出して黙って聞くことにした。
★★★★★ ☆☆☆☆☆ ★★★★★
僕は剣と魔法のお決まりの世界で生きていた。
洋風ではなく、中華風な国だ。皇帝が父親で…
『王子は前世も王子だったのね。
ニートでも転生で勇者になれるのではないのか?現実は異世界に行ってもニートはニートなのだろうか?など、つまらないことを考えたが、黙っておく。彼は顔を見るにバレているみたいだけれど。』
ただ、僕のいた皇国とその周りの地域では魔法は極稀で、魔物が使うものとされていた。代わりに魔術を一部の人が使えた。
そんな蘭皇国の第三王子として産まれた。絶大な魔力と魔法の才能を持って…。
『転生前からやっぱりチートじゃないか。感じ悪いね。黙っておくけど。』
………。
そんな皇国で魔法を使えるわけもなく、魔術を研究し、魔術として魔法を使った。そして成人する頃にはもう皇国一の魔術士になっていた。
僕の母は隣国の王の娘だったが、周りの人とは違う綺麗な容姿で、貢ぎ物として父に献上された。母の母、僕の祖母は奴隷として隣国に連れて来られ、隣国の王のハーレムで母を産んだ。祖母は、皇国より西、山脈と砂漠を超えて遥か西国、魔法が当たり前の国々のさらに西の果て魔女の治める国の出身で、魔女の血脈を僅かに引いていたらしい。祖母も母も魔力は強くなくて、僕は隔世遺伝だった。
皇国とその周りでは、黒髪に黒い瞳が主流で金色の髪に翠の瞳の母はかなり珍しく、僕の魔術と相まって魔物扱いもされた。
でも、年の離れた二人の兄は、母と同じ僕の髪も瞳も綺麗だと誉めてくれて、僕を可愛がってくれた。
懐かしい話だ。誰にも話したことはない。話せない。
頭のおかしな子供だと不審な目で見られる。今なら極度の中二病だ。自分でも自分の頭を疑った。懐かしい。兄達がいて、母も笑っていて。子供のままなら、良かったのに。
椎名さんがまた何かくだらないことを考えてる。
成人した僕は、皇国一の魔術士として周りの国との戦争にも参加した。
皇国の周りは、母の祖国を含め小さい国や部族ばかりで、それらと戦争しながら領土を広げていた。
でも、その先は高い山脈とその向こうに広がる砂漠でそこまで戦火を広げることなく、皇国は内乱になった。
僕が戦争で王宮を離れている間に、皇帝が病を患い、母は皇帝に徒なす魔物として処刑された。僕はやり過ぎたんだ。
魔術を極め過ぎた、戦争で殺し過ぎた、兄達に可愛がられ過ぎた。皇帝の周りが、僕を敵としたんだ。
そして、叔父も帝位簒奪に動いた。後でわかったことだが、皇帝の側室の中に魔物がいた。彼女が暇つぶしに叔父を唆し、皇国を破滅へと誘った。
皇太子である兄が暗殺され、僕が犯人として叔父に捕まり。皇帝崩御。叔父が僕と次兄を秘密裏に殺して、僕の所為にして帝位につく計画を実行した。僕は牢から次兄に助けられ、次兄と共に、魔物と叔父に対峙した。結末は僕と魔物は相打ち。叔父と次兄の安否は不明。僕が先に死んだから。でも、叔父は魔物が死んだら狂ったように叫んで、吐血した。次兄は叔父の剣から僕を庇った時にかなり深い傷を負っていた。せめて次兄だけでも生きていて欲しい。
『あっ、話の一番山場を端折った。』
…。
★★★★★ ☆☆☆☆』 ★★★★★
…思った以上に重かった…のですが…。
片やトラックにひかれて、予定外。
片やドロドロの王宮陰謀で。
「僕も『予定外』って、言われたよ。」
ひっ!怒っている。笑顔だけど、怒っていますね。私でもわかります。
「僕は回復魔法も蘇生魔法も使えたんだ。『予定外』でこんな世界に来なければ、兄達二人とも助けられたんだ。人の心が分かるチートもあの時にあれば、魔物の正体がもっと早くわかったかもしれない。」
あぁ、彼は異世界なんて興味もないし、知りもしない、必要ない。元の世界で生きることがすべてだったのだね。
退屈だからと異世界転生を望むなんて、私は最低な人間だっただろうね。嫌がらせに助けたのかな?
「僕ね。本当に『この世界なんて壊れてしまえ』って思ったんだよ。」
くすくすと、いつもの五十嵐くんの顔でまた話しはじめた。
「でも、ここまで生きてきたら、この世界にも柵も愛着もできたし。椎名さん、見てて厭きないから、もう少しこの世界でもいいかなって思えるよ。だから椎名さん、この世界を救う為に、僕を楽しませてね。」
五十嵐くんは、この世界を壊すぐらい簡単に僕は出来るよ。と、言って、ドアから普通に帰って行った。
なんとあなく、窓から飛んでいったり、テレポート?消えたりするのかと思ったのに。
そして、私は彼が来ている間一言も声を出してなかったね。試しに声を出してみる。あー。って声は出るよ。良かった。
うーん。
ち世界を壊すのならば、彼は魔王でいいのかな?
異世界ではないけど、私は勇者のポジションってこと?
あんな話の後だけど、脳天気に、図太く、私の頭はどこまでも残念みたいだわ。




