魔王降臨
「椎名さん、自分が死んだ後を考えた?」
五十嵐颯也の顔をした彼が静かに聞いた。
その声は、彼の後ろ、窓の外の月の光のような透明感がして、心に染みた。
朝、目が覚めたと連絡を聞いて、急いで来たらしい両親と兄。その顔は青く、目は腫れて、寝ていなかっただろうことはすぐに気づいた。心配をかけたんだな。
顔合わせことも少なくなって、連絡もスマフォの伝言板越しで。そんな関係でも気にもしてなかったのに。
「僕は、死にたくなかったよ。こんな世界に来たかったわけない。生きて、兄さん達と生きて、いたかったんだ。」
窓の灯りに照らされて、気づいてしまった。
彼の頬の涙に…。
私は死んだら家族に会えなくなる、という当然のことを認識していなかったのだ。
おいていく人は、新しい環境で頑張ったり楽しんだりするけど、残された人は、いつもいた人がいなくて寂しかった。
紗枝が中学から聖女に来て、私は公立中学で。小学校では、紗枝とずっと一緒だったから、中学は一人で置いていかれたみたいで、寂しかった。生きていて、会おうと思ったら会える、そんな別れでも、私は寂しかったのに。
Web小説には、残された人はいなかったなぁ、みんなそれなりに異世界を楽しんでいたなぁとのん気に思ってしまった。
「本当に君は嫌になるくらい脳天気で、図太いね。」
低い声が怒りをはらんで耳に入ってきた。
思わず膝に掛けていた布団を胸元で握りしめて、彼を見ると。
「座ってもいい?」
返事も待たずにベットの横の丸いすに座った。
「もう知っているみたいだから言うけど、僕には前世の記憶がある。ここではない別の世界の記憶が。」
五十嵐くんの声は少し震えていて、不思議な、感情の読み取れない声だった。
いつもの王子さまスマイルでもなく、先ほどまでの怖さもなく、怒りも、悲しみも。でも、無表情というわけでもなく。あぁ、諦めだ、たぶん。
「本当に君は、無表情なのに、わかりやすくて、心の中は顔と全く違うね。」
面白いよ。と、笑う。
まただ。怖い。
「そんなに怖がらなくてもいいのに」
何か話さないと、と思うが言葉にならない。
喉が渇いて声も出ない。
クスクスと笑いながら、部屋の中を横断して冷蔵庫から水のボトルを投げてくれた。貰うねと、もう一本取り出して、一口飲んでから戻ってきた。
「別に無理に話さなくていいよ。だいたい言いたいことはわかるから。」
さらりと、恐ろしいことを言った。
これは私の顔が言いたいことが全部書いてある、ということではない。私は昔から無表情で、『雅ちゃんって、何考えているかわかんない。』と女の子から敬遠されてきたのだから。イジメられて、荒んだ子供にならなかったのは紗枝がいてくれたからだな。まぁ、紗枝もイジメられたかもな性格だが、彼女は外見に似合わず逞しいから。
じゃなくて、コイツはテレパスか?心が読めるってこと?
「正解。この世界には『魔法』や『魔術』はなかったけど、神さまがくれたチートは面白いね。」
言葉が出ない。頭が真っ白だ。えっと…。
「いつも人の考えがわかるわけではないから、あまり気にしないで。」
気にします。気になります。無理。
「僕ね。この世界なんて壊れてしまえって思ったんだ。」
えーっと。
どんな脈絡でそうなった?




