異世界からの訪問者
土曜日の夜中に目を覚ました。
さすがに、あれだけ寝ていたのだから眠れないよね。
窓からの月明かりか外の街灯か、部屋はそれなりに明るくて。レースのカーテンしか閉めていなかったなぁと窓を見れば、仄かな灯りに五十嵐颯也の横顔がまるで綺麗な一枚の絵のように映っていて。
彼はそこに静かに立っていた。
あまりに綺麗なその様子にしばらくぼーっと見とれてしまう。
昨日のおじさんの神さま2号が言っていた、『実は彼女を助けたのが、異世界からの転生者でして、能力がこの世界でのチートで…』という言葉が不意に蘇った。
あれは夢ではなかった。
夕方に、自分の中に今まではなかった『記憶』を自覚して、魔法と呼べる能力を認識した。火・風・水、たぶん土、呪文がある訳ではない。私が思ったように火が、水が、風が、操れた。ただ、疲れる。気を失うぐらいに、頭痛で吐き気がするぐらいに。とても気軽には使えない。
でも、それはとても楽しくて、私の優越感を刺激して、ほの暗い喜びが私を支配していた。
もう、退屈しない。
お子さまな神さま1号に感謝。異世界は残念だったけど、この世界にない『魔法』はチートな能力だ。
私はもう、みんなとは違う。
そう、夢ではなかったのなら。
それは、五十嵐颯也が異世界からの転生者で、チートな能力を持っているってこと、だよね。
「目、覚めた?起きてるかなと思って来たんだけど…。待てば起きるかなと思って待ってた。」
とりあえず、体を起こして、掛け布団を胸元まで引きあげる。さすがに夜は寒く、布団の上においてあったカーディガンを羽織る。
五十嵐くん、私とあなたはただの顔見知りですよね?何故ここに?乙女とは言えないけど、女の子が一人で寝ている部屋に、夜も更けてから、何しに来た。とばかりに五十嵐颯也を見る。
私の胡乱の目に、五十嵐颯也は、
「たぶん、僕に聞きたいことあるかなと思って。みんなの前では話せないことを、ね。僕も確認しておこうかなと思ったし。」
いつもの素敵な王子さまスマイルで話した。
コレはアレだよね。『僕は異世界から来た』とか『きみも異世界に行きたかった?助けてごめんね。』か?
返事を迷って五十嵐颯也を見る。
窓を背に立つ五十嵐颯也の顔は影になっていて。その表情はわからないはずなのに、すごく悪い笑顔をしていると思った。
そう、怖い。
蛇に睨まれた蛙ってこんな気持ちじゃないかな、と。寒さすら感じる。
私の前の彼は、五十嵐颯也、ではなかったか。
いつもの五十嵐颯也は優しい顔で、笑顔で、王国の王子さまの代表格だった。紗枝に言わせると、独裁体制の皇帝と宰相閣下が『鞭』で、笑顔の優しい王子さま五十嵐颯也は王宮の癒やしで『飴』らしい。その他の役員は皇帝と宰相閣下に使い倒される近衛兵だそうだ。
そんないつもの印象とはまるで違う。
神さま2号はなんと言っていたか。
『貴女を助けたアイツですが、無理でしょうが、関わらないことをお勧めします。えぇ、もう全力で逃げてください。』
私の本能が逃げろと警告する。頭の中でアラームが鳴り響いた。




