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「雅~。良かった~。私のせいで雅が死んだらどうしようかと思ったよ~。」
紗枝は私の顔を見ると泣き出した。昨日の夜は私が死んだ夢を見て眠れなかったらしい。
しかしこの病室、個室でソファまである高そうな部屋だ。
で、そのソファに見慣れた男が二人向かい合って座っている。
「紗枝。大丈夫だよ。椎名さんはトラックとはかすりもしてなかったじゃないか。颯に抱きしめられて眠りこけてだけだよ。」
っくっくっく。と笑いながら藤原一臣は言う。
そう、私を助けてくれたのは、五十嵐颯也。この病院、五十嵐総合病院の三番目の息子で、王国生徒会の書記だ。
しかもあの時、私を抱きかかえる形で助けてくれたのは、五十嵐颯也。トラックと私の間に入る形で。トラックは五十嵐颯也にすら当たらなかった。らしい。で、私はトラックにひかれたと思い気絶したみたい、です。
「でもなんで颯ちゃんはあんな格好してたの?」
「あぁ、アレね。罰ゲーム。あの格好で外まで買い出し行けって、コウがね。」
藤原一臣がコウと呼ぶのは、王国生徒会の会長さまだ。私達聖女の役員にはとても優しい人だが、王国では恐怖政治だとか独裁体制だとか言われている。主に部費が認めてもらえない部活動の人達に。部費が欲しければ結果を出せが皇帝命令だとか。
「颯ちゃん、美人だった」
紗枝が拗ねた声で頬を膨らまして五十嵐颯也を可愛く睨む。
あー、紗枝可愛い。けして私は女の子が好きなわけではありません。
紗枝は身長も152㎝でちまってしていて、髪もゆるふわのくせ毛で、笑うと右頬にだけえくぼができる。
私服もピンク色とかひらひら、ふわふわが多くて、似合うのだ。正確はかなり腹黒くあざとい天然だ。素で腹黒く発言をする。女の子に嫌われるタイプ、というか小学校時代はイジメられていた。本人は気にしていなかったようだが、寧ろ煽っていたかも…。あれ?紗枝、可愛いよね?
「そうか、あの筋肉質な胸なし美人は五十嵐くんか…」
ぼそっと、呟いた私の言葉を
「颯、胸なしだって、ウケ、る…」
とツボにはいったらしく、藤原一臣は涙を流して爆笑し始めた。
「ああ、くっくっ、学祭では…ふっふっ…胸て…くくく…創ろうな。あはははは」
とうとうソファを叩き出したよ。
そんな藤原一臣をニヤリとみて
「いいよ。そうなれば全校生の前で一臣と交際宣言してやるよ。」
「颯ちゃんが本命だったのね。私は遊ばれたんだね。」
「紗枝ちゃんと一緒に修羅場して、皆に無いこと無いこと言ってやろうよ。」
「やめろ。」
藤原一臣の嫌そ~な顔はちょっと楽しい。
「ねぇ、学祭って、舞台で?」
「あれ?燿子さんから聞いてない?男子生徒は椎名にって言ってたぞ?」
「聞いてないし、五十嵐くんが女の子なら身長差で無理があるよ。」
「あぁ、ごめん。学祭ではみゆき先輩がやるよ。」
また、くっくっくと笑う藤原一臣。
今度は何がツボだったのか。
窓からの風が涼しいから肌寒いに変わり、日差しも夕方の赤を仄かに感じたころ、三人は帰って行った。
開いた窓からの風でカーテンがひらひらと踊っているのを見ながら、昨日の夢が、夢でなかったことを考える。
ベットに寝転んで見る病室の天井は真っ白で、まるで夢の世界のようで、私の記憶を刺激する。
夢では、なかった。
私の手のひらで熱くない小さな炎が、踊るように揺れて、消えた。




