私の日常は変化する
「あー、紗枝ちゃん。良かったね、言いたかったこと言えて。」
廊下の窓に二人でもたれかかって話をする。
紗枝のあんな後だから、話辛い。
廊下にいると、特別教室棟の端でも、校内の音や声が遠くに聞こえてくる。
五十嵐颯也と二人でいると、不思議な感じ。いつも紗枝と藤原一臣が一緒だったから。
体を回転させ、窓の外を見る。るふりをして五十嵐颯也を見る。
五十嵐颯也は160の私より20㎝ぐらい背が高い。
けど、今は窓に背中をもたれかかっているので顔が隣にある。
「睫、ながい。」
つい、心の声が。
あぁ、どうせ一緒か。
でも、考えごとをしているのか、反応がない。聞かれてない?よかった。
『おー』だか『うぉー』だか、グランドの方から雄叫びが聞こえてくる。
聖女とは学校全体が違う雰囲気で、まるで異世界に迷い込んだ気がする。
「ねぇ、明日から暫く泊まりに来ない?」
不意に、五十嵐颯也の声が聞こえた。
聞こえた、が。
「学祭前で合宿とか口実で、って。違う、そうじゃない。」
私は自分でもわかるくらい、顔が赤くなっていて。
五十嵐颯也が慌てている。
そうじゃなくて、これではまるで、私が、五十嵐颯也を好きみたいで、何かを期待しているみたいで。
違う!違うから。
そう、学祭。
「今日中に台本覚えないと。」
ぼそりと呟いた自分の声に、頭が冷えた。
「本当、表情変わらないね。心の中と大違い。」
「だな。見てると、颯がフラレたようにしか見えんな。しかも自分のセリフに慌てるなんて、大笑いだ。」
いつの間にか紗枝と藤原一臣が出てきていた。
藤原一臣の背中に半分隠れて「ごめんね。」と照れる紗枝の頭に耳はなかった。
「で、颯也さまは泊まり込みで何するつもりかなぁ。」
「魔法の特訓、四大元素の魔法はこっち来てから、使えないから、研究したい。なんとなく僕にも使えそうな感じがする。前は使ってたし。」
「あー、研究、ね。魔法、ね。」
女の子のことも考えてみろよ。なんてボソッと言った。
「私も臣くんとお泊まりする。」
紗枝ちゃん?
「みんなで合宿しよ♡」
あっ、また変なこと考えるとこだった。
「今日は解散で、明日からだな。颯の家でいいか?」
「いいよ、紗枝ちゃんと雅ちゃんは同じ部屋でいいよね。一臣は僕の部屋ね。柏木さんに用意してもらっとく。」
「臣くんと一緒が良かったのに。一緒に寝ようよ~。」
「雅ちゃん、台本だけど、たぶん大丈夫だよ。一度読めば覚えられると思うから。」
「そっ、異世界クォリティー、だね。便利だよね。オレ、成績めっちゃ上がったよ。」
「いいな、私はさっぱりわからないよ。教科書全部記憶にあるのに使えないよ。」
「紗枝、教科書全部丸暗記?」
「うん、最初に神さまがいっぱい記憶くれたよ。三年生の教科書もあるよ。でも勉強は雅ちゃんみたいにできなかったよ~。」
「僕も自前の能力だよ。まぁ、前世から、必要なことは全部覚えていたからね。」
五十嵐颯也は負けず嫌いだ。