召喚された勇者は帰れない?
「文字通り、中二の夏休みに勇者召喚された。」
藤原一臣が話してくれた。
私のびしょ濡れの制服は五十嵐颯也の『綺麗に』の一言でクリーニングから却っていたようになった。魔法、便利。
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お決まりの冒険ファンタジーの世界で、お決まりの魔王討伐をして。紗枝は、サーシェは向こうの世界で知り合って、魔王討伐も一緒にした仲間だった。一緒に旅をして、ずっと一緒だった。
魔王を倒して、なのに、これもお決まりで、召喚は一方通行で、帰れないって言われて。
そんな時もずっとサーシェは一緒にいてくれた。怒って、八つ当たりして、召喚した王様殴って、街ひとつクレーターにしかけたオレを止めたのもサーシェだ。
ただ、夏休み前に、五十嵐颯也が、『お前、きっと迷子になるから持っとけ。』って石の付いたペンダントを渡してきた。それまで、ただのクラスメートで仲が良かったわけでもない。変なヤツと思ったが、なんとなくペンダントはつけていたから、向こうにもそのまま持って行っていた。
向こうで10年ぐらい経ったかな?
ある時ふと、自分の首にずっとあるペンダントをみて、颯のことを思い出した。なんとなく石を触っていたら、颯の声が聞こえた。
『帰ってくる?それとも残る?』って。
びっくりしたよ。
もう諦めていたから、でも反射的に『帰る』って叫んでた。
突然、周りがぼやけて、音が消えて、何もわからなくなった。
『オミ!』ってオレを呼ぶサーシェの声が聞こえて、サーシェって手を伸ばして、気をついたら、サーシェを抱えて颯の家の裏庭にいた。オレは召喚された時のままの年齢で服装で。
颯はサーシェを見て、驚いていたけど。
それどころじゃなくなった。
また周りの景色が歪んで、今度は三人一緒に真っ白い空間にいた。
目の前に、
ひらひらの女の子?
いや、一瞬姿が歪んで、
オレンジの短髪のやんちゃそうな少年が現れた。
『おい、五十嵐颯也!お前、またヤリやがったな。今度は異世界から勝手に人…を…』『…。勝手に人を召喚してくるな!』
少年は颯の知り合いみたいで、ひどく怒っていた。
『こちらからは勝手に拉致されるのに?』
『申請書が出ていて、認可した。』
『拉致された友人を保護しただけですよ。僕は。』
『いつお前とコイツが友達だった?そんな関係なかっただろうが。』
そうだ、友達というような関係でなかった。オレの周りはサッカー部の奴らがいつもいたが、颯は大抵一人で、そこだけ独特の空間を作っていた。近寄りがたい、壁があった。
だから、夏休み前に声をかけられたのが、意外で、気になってペンダントを外せなかったのかもしれない。
『これから友達になるのに、異世界にいたら困るでしょう。』
オレが口を挟む隙もなく、二人の会話が続く。
『では、その猫耳はなんだ。』
『おまけ、です。おまけ。キャラメルとかお子さまセットとか、ついてくるでしょう。藤原くんは迷子になるお子さまですから、おまけがついたのです。』
『おい。』
『コイツ、いい大人になってなかったか?』
『あなたの目は節穴ですか?どう見ても中二のお子さまじゃないですか。藤原くんあなたの生年月日は?』
えっ。
急に話をふられて、驚く。
『○○年…』
答えを全部聞かずに、また二人の会話が始まった。
内容はオレとサーシェのことみたいだが、話を理解する前に会話が流れていく。
『ほら、僕と同じ年だ。』
『…。てめぇが、中二病のお子さま?』
『その言われ方は不本意ですが、自分で撒いた種ですから、えぇ、中二のお子さまであることは受け入れますよ。患っていませんが』
『ふん。で、そのおまけは?』
『そうですね。藤原くんが異世界で魔王を倒したご褒美ってことで処理できませんか。』
『…自分で世話しろよ。飼えませんっても、保健所は引き取り無理だぞ。』
確かにサーシェは猫だった。オレが拾った時は。
『人ですよね?彼女。』
はじめて五十嵐颯也が狼狽した。サーシェは今は猫耳の13才くらいの女の子だ。でもオレが初めて会った時は、子猫で、幼児になった時は、驚くたものの、異世界かと納得したのだが。
『あー。おもしれぇ。お前の困惑した顔見れたから、上手くやってやる。今なら機嫌いいぞ。他にもあるなら聞くぞ。』
少年は、颯が狼狽したのがよほど面白かったのか、にんまりと笑っている。
『うーん。そうだな、藤原くんの能力の維持とか?』
『あ”!?うーん、それは…。魔法系は戻った時点でほぼ消えてるぞ。身体強化系は、制限付きで、だな。猫の方は眼くらましか、いや、変化だな、魔法は持ってない?こっちの常識は必要だな、覚えろよ。』
『う゛ー。サーシェ、頭いたい、オミ、助けて…』
オレは右手を握ったり、開いたりしてみる。当たり前だけどステータスを見ることも出来ない。
サーシェは頭の抱えて蹲った。
『良かったな、サーシェだっけ?』
サーシェの様子に驚いて、戦意をみせたオレを止めて、颯が話しだす。
どうやらサーシェも大丈夫そうだ。
『違う!助けたら懐かれただけ。まだ子どもだったし、親もいなかったから。一緒にいただけ。』
『ふーん。まぁ、これからは同じ年だな。』
『…。』
サーシェはチビで妹みたいな存在で、オレを好きなんだろうと、分かつっていたけど。気づかないフリして、考えてなかった。が、どうやらサーシェはオレにとっても特別みたいだ。同い年、ロリじゃない。
『良かったな。』
くすくすと笑う颯は、感じ悪い。
『オミ!見て!耳!オミと一緒!シッポ、ないー!』
サーシェは、紗枝は、元気になって、クルクル回ってシッポと耳を見せる。
『猫は、おい、お前。お前の幼なじみにしといたから、面倒みろよ』
いつの間にか、サーシェは紗枝で、ずっと一緒だった記憶があった。
『五十嵐颯也!次やったら、殺すぞ!』
『君じゃ、無理だね。』
『ぬかせ。』
少年の姿が歪み、オレ達はまた颯の家の裏庭に戻った。