私の非日常
「とりあえず、現状のさ把握と共有だな。」
みんなが使ったカップなどを片付けて、部屋も衝立を戻して、私たちはテーブルからソファに移動した。
ソファに座るといきなり、五十嵐颯也が言った。
「颯也でいい。で、何かできるの?」
何が、できる?って、何?
「魔法、使えるんだろ。何ができる。」
「えっ。と」
「ふーん。火、水、風、土ね。あぁ。無理に喋らなくていいよ。わかるから。なるほど、…魔力のコントロールかな…いや、魔法の認識の違いか…」
勝手に把握して、一方的に共有するな。
なんだろう、みんなの前と違うよね。
ムカムカしてきたんだが、怒っていいかな。いいよね。
「良いわけないだろ。…まず水からだ。氷は出せる?」
何なんですか、この人、嫌いだ。
「魔法、使えるようになりたくないの?」
魔法が普通の異世界なら勝手に覚えていけるだろうけど。この世界で独学は難しいと思うよ。と、言って、目が早くヤレと言う。
氷、ね。
まず水で、確か…
「やるわよ。」
頭の中でイメージする、掌に水球を、そして、気圧を下げて真空にして、
少しずつ涼しく寒くなってきた。
よし。
「よし、じゃねえよ。止めろ。死ぬ気か。」
いきなり、頭をポカって叩かれた感じがして、集中が途切れて魔法が消える。
私の向かいに座った五十嵐颯也は渋い表情で睨んでいる。
「やっぱり魔法を認識してないな。火は。」
また、イメージして掌に火球のを出す。
火と水、風(ミニ竜巻)は日曜日も少し遊んだからできる。
五十嵐颯也に言われるまま、火球、水球、ミニ竜巻と出して、動かしてみせた。
そして、大きな水球を出している時に、
ガチャリ。
と、扉があいた。
「えっ。」
一瞬の出来事に対応できない。
藤原一臣と紗枝の目の前で水球はバシャリと水になり、床一面水浸しになった。
「あっ。」
三人で固まっていると
「『片付け、掃除』」
五十嵐颯也の声が聞こえた。
そうね、掃除しないとね。
止まった頭を無理やり動かしてみると、水浸しの床は綺麗に元通りになっていた。
「雅ちゃん、異世界行ってないよね?」
歪みはないし、なんで?と紗枝が言う。
私はまたパニック状態だ。見られた。いや、異世界?歪み?
「颯、説明。」
「先週のトラックで転生予定だったのを邪魔した。」
「やっぱり、か。」
「転生の邪魔はさすがに初めてだよ。」
「で、なんで、椎名さんが魔法、使ってるの?」
「異世界クォリティ。女神の祝福の先払いが付いたまま。」
「もしかして、また……かよ。」
「そんなとこ。」
私のパニックをよそに藤原一臣と五十嵐颯也で話が進めている。ついていけない。私の話なのに。
話をしながらみんなでソファに座った。五十嵐颯也の前に藤原一臣が座って、紗枝が藤原一臣の横に座ったから、私は五十嵐颯也が座っているソファのL型の横一人分のスペースに、
「横、座れば。話辛いよ。」
五十嵐颯也の横に座った。
「あと、颯也でいいよ。一々フルネームを連呼しないで。」
「なに、椎名さん颯のことフルネーム呼びなの?」
「お前のこともフルネームだぞ。」
「えっー。フルネームって、敵認定みたく嫌じゃん。オレは一臣でいいよ。雅ちゃん。」
嫌。敵認定みたく、じゃなくて敵決定。
なに、コイツ等。
くすくす笑うな、五十嵐颯也。
よし、水球をぶつけてやる。
五十嵐颯也の視界に入らない場所で水球を創り、投げつけるイメージで、
できた!
でも五十嵐颯也の顔の前で水球は消えて、
ぱしゃり
私の頭の上にぶつかった。
「冷たい!あー、びしょびしょ。」
制服も濡れてしまった。
「雅さん。上手にコントロールできたね。」
上手い、上手い。と笑顔で誉められる。
ムカつく。次は火球だ。
「あのさぁ、考えバレてるってか知ってる?」
忘れてた。
「だよね。それに僕、魔法も魔術もかなり極めて、この世界に来てからも研究して、この世界でなら無敵だよ。」
さらりと最強発言をした、痛い子だ。
…。睨まれてしまった。
「二人の世界作ってないでよぉ。」
紗枝が可愛く睨んでる。可愛い。
「で、雅ちゃんなんで魔法使ってるの?」
「私、トラックにひかれて異世界に行く予定だったみたいで、でも助かったけど、神さまが一度くれた力だからそのままあげる、みたいな?」
「ふーん。」
あれ?興味ない?
「紗枝は驚かないの?」
「なんで?」
「いや、トラックにひかれて異世界行く予定だった、なんて言ったら普通、ドン引きだよ。」
「そう?」
そう、じゃない?
「だって、私、異世界から来たから。」
「あっ!紗枝!」
藤原一臣の小さな叫びがして、
紗枝の頭に、
ぴょこんと、
猫耳が、
「えへへ。黙っていて、ごめんね。」
やっぱり、紗枝、可愛い~!!