第9話 詐欺っ!詐欺よ!
「寂し過ぎるだろ、俺の人生!」
その言葉には万感の思いが込められていた。だってなんだよ、あの無味乾燥とした人生は!? 現代知識なんて何のあてにもならなかったよ! 異世界転移ものって、もっと華々しく活躍できるんじゃないのかよ!? 『目立ちたくないでしゅ~』とか言って結局超目立っちゃうんじゃないのかよ!? 『やれやれ、大したことないさ』からの『さすがです、ご主人様!』じゃねーのかよ!? こんなの詐欺っ! 詐欺よ!
「あ、お帰り~。なんか途中で面白くなくなって見るの飽きちゃった」
「こんちくしょうめ!」
確かに詰まらん人生だったけども! それを他人に言われるとやっぱ腹立つ!
「でもやっぱり帰って来ちゃったね。今度こそはもう戻ってこないと思ったんだけど」
「確かにな……。しかし、前は帰れ帰れ言ってたのが最近はめっきりなくなったな? いやその方がいいんだけどさ」
「そ、それは……。い、言ってもしょうがないって思っただけなんだから!」
「へえ……。お前もちゃんと学習してるんだな」
「え? それって誉めてる?」
「いや全然」
「むぅぅぅぅ!」
なんだかこうやって弄るのもお馴染みになってきたな。こいつとは失敗する度に次は何をもらうのか真剣に考えあったり、一緒に飯を食ったことも何度もあったからな……。思えば随分と仲良くなったもんだ。もう何年も付き合ってきた親友……とはちょっと違うか? 悪友のように思っている。性別も違えば人間ですらないのに不思議な関係だった。
「そうだ。今回の人生でこの死に戻りについてこれかなって思うことがあったんだ。多分だけど死んだ後戻って来るのって、後悔とか未練があるからじゃないか? 今までもそうだったけど特に今回はめっちゃ後悔しまくりの人生だったからな」
悲惨さで言えば前回の方が酷かったが、今回は考える時間は一杯あったからな、年季が違う。勘ではあるが、後悔が関係してるというのはなかなか信憑性が高いように思う。
「だから満足いくような人生が送れるようにチミもドンドンアイデアを出してくれたまえ!」
「ふーん……。伶太はそんなに満足のいく人生が送りたいんだ?」
え? なんでそんな不機嫌なの?
そりゃ、満足のいく人生が送れるなら送りたいんじゃない……のか? うん。送りたいだろ、普通。
「ふーん……。じゃあ伶太1人で考えたらいいじゃん。自分の人生は自分で考えてっ!」
なんなんだよ、一体……。まあいいか。これからは回数あるのみだ。
『鑑定能力!』『それなりの信用がないとイヤミに聞こえるだけだったぜ!』
『ゴムゴムの実!』『超絶気味悪がられた!』
『回避能力!』『嫌な事からも回避し続けたらどん詰まりになった!』
今までの経験から分かったことがある。俺は何かしら攻撃的な能力を持つと、最初にゴブリン達が出てきた方へと足を向けるらしい。そして多数の犬畜生に囲まれて食われて終わる。
逆に非戦闘系の能力ならそれとは逆方向、つまり街道がある方へと逃げようとする傾向にあるらしい。
更に言葉の壁の問題だが、回を重ねる毎に壁を乗り越えようとする意思が強くなって来ている気がする。原因は良く分からないが、いつまでもここを乗り越えられないとグダるだけなのでよかったよかった。
「あ、そうだ。お煎餅食べる?」
「おいおい、人が考えてれのに何を悠長な……。緑茶もあるんだろうな!?」
パリポリと煎餅を食べながら再び女神は『何をもらうか考える会』に参加してきた。舌の根の乾かぬうちにこれだ。掛け値なしのアホだがこういう時はめんどくさくなくて助かる。
『マヨネーズの製法!』『そんなに人気でなかった!』
『イケメン化!』『顔面が良い分利用され、顔面が良くても裏切られるんだーへー……(泣)』
『思考を読む!』『みんなごちゃごちゃ考えてて読みきれない!』
だいぶ言葉の壁を乗り越えられるようになった。ここまでで俺の死ぬタイミングは3つ。1つ目は襲撃イベントに参加して死ぬパターン。2つ目は1年後に起こる戦争で死ぬパターン。3つ目は約20年後に起こる飢饉で死ぬパターンだ。
特に最初の襲撃イベントは参加すると確実に死ぬ。そして2つ目まで運良く生き延びられても最後がどうやっても乗り越えられなかった。
◆◆◆
「3つ目の関門までいけると20年後だろ? さすがにこれは長い。長過ぎる。というかどれもこれも似たり寄ったりの行動ばっかりで、もし3つ目突破できたとしてもとてもじゃないけど満足のいく人生とは言い難い。そして20年後とか言ったらそこそこのおっさんだろ? 挽回できるか不安な部分もある。何が言いたいかというと、多分これは根本的なところから考え方が間違ってるんじゃないか? ってこと。
そこで色々考えているうちに、ふと疑問に思ったことがありました。ラノベから始まり、アニメ、漫画、ゲームに至るまで、それぞれの主人公に共通する部分ってなんだろう? って! なんだろう? って!
大事なことなので2回言いました。さて、何だと思う?」
「えっ? うーん……。見た目のかっこよさ?」
「全然違う。もうぜんっぜん違う。お前なにひとつ分かってないな。
そしてそれは間接的に俺の顔が微妙ってディスってんのか?」
サクッと女神にグリグリ攻撃をかました後、何事もなかったかのように続ける。
「そう。それは、めっちゃ運がいいってことだと思う。だってどいつもこいつも美少女とばっかり出会って軒並み落としていくんだぞ? 主人公も歩けば美少女に当たるってか? 語呂悪いぞふざけるなよ?
それに強敵とあたってもどうにかなってるとか、相当運が良くないとそうはいかんぞ? 体験者は語るぞ? ……これに関しては上手いことわざが思い付かびませんでしたふざけるなよ?」
「いたたた……。じゃ、じゃあ次は運を凄く良くすればいいのね?」
「おう、頼んだ」
これさえあれば俺も主人公の仲間入り! 可愛い女の子とキャッキャウフフの人生だ!