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第7話 なにせ天才だから! 次元が違うから!

5/2 ちょっと手直ししました。

「クソゲーっていってもな、愛すべきクソゲーもあるんだよ。不尽とも言えるバグの数々は、時にプレイヤーを苦しめ時に驚きを与えてくれる。中にはくすっと笑わせるものもあって、そんなバグという罠に挑む戦士達の奮闘は、正しくエンターテイメント。

だけど全部が全部、愛すべきクソゲーなわけじゃないんだ。悲しいことにな。その中でも、これはな、この異世界という名のゲームはな……クソ中のクソゲーじゃボケええええええいっ!

ぬぁーにが『日本語使えましぇんけどぉ?』だよ! 意志疎通できるようにするなんてデフォルト中のデフォルトだろ! これすらもオプション外かよ! お前ホントにお詫びする気あんのか? ああ!?」

「ひうぅぅ!? な、なんでいっつもいっつも戻って来る度に怒るのよぉ、この罰当たり者! 言葉だって、知らないのが悪いんでしょ!? 私悪くないもん! 伶太が悪いんだもん!」

「さすがにこれ、俺が悪いわけないよなぁ!? お前、ラノベ読んだことあるか!? 異世界とか言っておきながら一切言語の壁なんてねーんだぞ!? 『一応気にしてます』みたいなフリだけしてるんだよ、あいつらは!

それをこンのクソミソ駄女神ときたら、当たり前のようにクソみてェな設定にしやがって……!」

「く、クソミソ駄女神!? 神様に向かってなんて口利いてるのよ、ばか伶太! ちょっ……ちょっと、その手はなに? グリグリなんかしたら本当に罰当たるのよ? ほんっ……ああう、いたいいだい~」

「はあ……はあ……」

「はあ……はあ……」


 落ち着け、俺。こんなバカに八つ当たりしても何も解決しないぞ。むしろこれでよく分かったじゃないか。言葉が通じないと始まらないって。逆に、言葉が分かった上で森さえ抜けてしまえば後はなんとでもなるだろう。

 ……うーん、本当に森から出られるのか不安になってきた。今までの経験から初めに遭遇するのはゴブリンだから、人間の言葉だけじゃなくてゴブリンなんかの魔物の言葉も分かるようにしないとな。

 それでゴブリンと仲良くなって道を教えてもらえば完璧だろう。まるでドリトル先生だ。この展開に異世界が組み合わされれば、人外娘と仲良くなるとかありそう。いや、絶対ある。

 考えれば考えるほど隙のない天才的な作戦に思えてきた。ようやく俺の時代がきたな、これは。ふ……ふふふ……ふははは!


「急に怒ったり笑ったり、すっごく気持ち悪いよ?」

「ふはは、言ってろ言ってろ! 天才的な俺はバカとは喧嘩しないんだよ! なにせ天才だから! 次元が違うから!」

「むぅぅぅ! ばーか! ばーか! ばか伶太!」

「ふはは! きかんきかーん! それよりも天才な俺は次何にするか決めたぞ! それはっ! 『全言語理解』だっ!

……さすがにこれすらも1つの言語だけとは言わないよなぁ?」

「む? うーん、それはいいけど……わざわざそんなものにするの? 天才とか言っておきながら、大したことないのね! ぷーくすくす!」

「ふはは! バカには分からんだろうよ! ふはは! いいからさっさとしろ、ふはは!」


 飛ばされる瞬間に女神にデコピンをかましてやった。段々転移のタイミングも分かってきたのは喜ぶべきか、悲しむべきか。


◆◆◆


 気付けば(中略)


 暫くしてゴブリンが茂みから現れた。醜い顔というのは想像通りだったが、身長は人間より少し低いくらいで思ったより大きくて強そうだ。だが案ずることなかれ、ドリトル先生ばりにどんな種族とでも意志疎通できる俺は、対話によって道を切り開くのだ! むしろ強そうというのは嬉しい誤算だな。


「ゴブ? コブゴブ!」


 ……へー……ゴブリンってコブゴブって言うんだー……。じゃあオークはオクオクで、ドラゴンはドラドラかなー……へー……。

 ……………………何を言ってるのか分からないと思うが俺もあいつが何を言ってるのか分からない。仕事しろよ、言語理解!


「ゴブゴブ!」

「ゴッゴブリン!」

「ピッピカチュウみたいに言うなテメー!」


 最初のゴブリンが呼んだのか、後からゴブリンが2匹やってくる。いずれも手には太い木の棒を持っていて、臨戦態勢だ。

 ヤバい。平和な日本で育った俺にとって、本物の殺意は恐怖そのものだ。背中から額から嫌な汗が流れる。息は荒く、心臓が跳ね回る。ゴクリと飲み込んだ唾が咽を無理矢理押し通る感覚で、初めて咽がからからに渇いていたことを知った。

 死がもう目の前に来ている。憧れの異世界へ行けたのに、こんなにもあっさりと死んでしまうのか? チートスキルだと思ってたものが全く役に立たず、俺の冒険はここで終了?

 それは――いやだ!


 そう思った時にはゴブリンに背を向け一目散に逃げていた。恐怖に支配されていた体でよく動けたと我ながら感心する。あるいは恐怖に支配されていたからなのかもしれないが。

 だがこれで逃げおおせたわけでもないようだ。後ろから足音がついてきている。ゴブリンが遅いのか、火事場の馬鹿力を発揮した俺の足が速いのか、段々と距離は開いている気がするが安心はできない。走って走って走りまくる。息が切れても体力がなくなっても足は止まることなく地面を踏みつける。走って走って走りまくり、走って走って走りまくった。

 やがて森の切れ間が見えてきた。1歩進む毎に光が強くなっていき、それだけで安堵感が込み上げてくる。緩みそうになる気持ちを叱咤してラストスパートをかけた。最後は転がるように森を抜けた。


「はあ……はあ……はあ……ここは……はあ……街道、か?」


 不自然に地面がむき出しになった道を見るともなく見て呟く。どうやらゴブリンは撒けたようだ。漸く安全だと分かって、へなへなと座り込む。休憩しないとこれ以上はもう動けそうになかった。


◆◆◆


 少し休憩してすぐに移動し始めた。今は安全だが、さっきのゴブリンがやってくるかもしれないし、他の魔物が現れないとも限らない。だから歩いてでも距離を稼ぐことにした。

 今度もまたどっちへ行けばいいか迷ったが、恐らくどちらへ行っても街か村にたどり着くだろう。どっちでも良かったので木の枝が倒れた方へ行くことにした。

 歩き始めてから程なくすると、金属同士がぶつかる音が聞こえる。警戒心を最大限引き出して、森の茂みに隠れながら慎重に近づいていく。見えるところまで近付くと、そこにはガラの悪そうな男達と立派な鎧を着た男達が対峙していた。鎧を着た方の後ろには、これまた立派な馬車が停まっている。これぞテンプレ中のテンプレ、襲撃イベントだった。

 鎧を着た男達数人に対し、襲撃者の方はかなりの人数だ。ここでチート持ちの主人公なら、乱入して襲撃者を一方的にボコって『なんてことないですよ』とか謙遜しながら売名行為に移るのが常識だが、俺が持っているのは言葉が分かるだけの使えないスキルが1つ。

 俺はそっとその場を後にした。

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