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第6話 なんか、こう、撮れ高的に大丈夫か?

一緒に飯を食べた後、俺はどうやればうまく異世界で生き延びられるか試行錯誤を重ねた。


『ダンジョンの管理!』『ダンジョンはどこ?』

『ダンジョンを作る!』『資金は?』

『町を作る!』『資金は?』

『国を作る!』『資金は?』

『不死身!』『モンスターの餌になりました!(泣)』


「でも、不死身は今までで一番向こうにいた時間が長かったね」

「何もしてないけどな! 不死身のせいで詰んだと思ったぞ……」


 トライアンドエラーを繰り返すうちに女神も興味を持ったのか、膝を突き合わせて考えるようになった。


『身体能力強化!』『強化できる能力値は1つだけだよ?』

『成長チート!』『成長させる能力値も1つだけだよ?』

『時間停止!』『魔法? 使うの?』

『モビルスーツ!』『使い方わかんねーよ!』

『回避能力は?』『無双できねーじゃねーか! 却下!』

『ドラゴンになるとかは!?』『他のドラゴンにボコられました!』

『スライムに転生!』『ゴブリンに瞬殺されました!』

『貴族の家に転生!』『転生はいいけど生まれは選べないよ?』

『どこでもいいから転生!』『森の近くで捨てられました!』

『どこでもいいから転生!(part2)』『森の近くで捨てられました!(泣)』

『やりこんだゲームの主人公に転生!』『VRにリメイクされたゲームを堪能しました!(喜)』

『守る力!』『やれやれ、やれやれだぜ、やれやれ』

『寄生プレイ!』『寄生相手がいないんですがなにか?』

『ありふれた能力!』『ありふれた死に方!』

『ユニークな能力!』『ユニークな死に方!』

『幻想殺し!』『物理で殴られて死ぬ!』


「……なあ、これはさすがに難易度高くね? ドラゴンになった時以外、人に会うどころか森から抜け出せないぞ? そもそも俺の身体能力が低すぎてゴブリンにすら勝てないんですが。やっぱりチートの盛り合わせみたいな、もっとゴテゴテ装飾してくれねーと話が先に進まねーぞ」

「だめですぅー! ぶっぶー!」


 イラッ……!


「……じゃあ転移先を森の外……いや、せめて街の中とかに変えてくれよ」

「じゃあ次の願いはそれにするのね?」


 協力的といっても『1つだけ』というルールだけはあくまでも変えるつもりはないようだ。


「あくまでも譲る気はないのか。この悪魔め! あくまだけに」

「ぷっ……! ぷぷぷっ……あくまでもと悪魔……ぷっ……ぷくくく……」

「アルミ缶の上にあるミカン」

「ぷぷー! アルミ缶とミカン……ぷーくすくす!」


 ここまでで得たものといえば、仲良くなった女神の名前がセレーネだということだけだ。なんだその情報? いらねえよ。名前を知ったところで前と変わらず『女神』とか『こいつ』としか呼ぶことはないだろう。


「そんなことより、なんかないのか? 例えば向こうの世界の情報って、森羅万象とかアカシックレコード位のレベルで知識とかもらえるのか?」

「くすくす……え? そんなわけないよ? これは言っても問題ないから教えてあげるけど、今のには2つ無理な理由があるの。1つは知識っていってもそこには様々な分野や学問があるわけだから、『1つだけ』に該当しないこと。もう1つは何でも与えるっていっても、神に匹敵する能力は与えられないの。それは神の領分だからね。

……というか、人間が神様になろうとするなんて……ぷぷ……伶太ってやっぱり面白い! ぷーくすくす!」

「なにわろてんねん」


 つまりそういうことらしい。後半の理由についてはそういうもんだと思うしかないが、つくづく『1つだけ』の制限が強すぎる。銃1つ作るだけでも、どれだけの知識がいると思ってるんだよ。それかいっそ割り切って力学の知識でももらってみるか? いや、魔法の存在がある以上どこまで価値があるか分からんから却下だ。


「あ! ちなみに私を連れていくのもできないよ! どれだけ私が美人で有能でも、神様そのものはダメなの! ごめんねっ!」

「そんなもの既に期待してないから心配するな」

「むぅぅぅ!」


 またポカスカなぐりだした使えない女神はほっといて『転移先を変える』ということについて真剣に考える。何でも与えられるのにそんなショボいものなんてあり得ないと思っていたが、さすがに森から出られないとか、なんか、こう、撮れ高的に大丈夫か? ってなる。

 とにかくいい加減、人の集まる場所も見てみたい。

 俺の心は完全に、ショボさよりも好奇心の方に傾いていた。


◆◆◆


 気付けばそこはざわめき溢れる街の中だった。落下した覚えはあるん(中略)


 俺がいた場所は商店街のようなところみたいで、それなりの大きさの道を挟み込むようにして屋台や店舗がいくつも並んでいた。人通りも多く、なかなか活気のある街に飛ばされたようだ。

 熱に浮かされたようにふらふらと店を見て回る。おかしい。死んでからこっちにくるまでそれほど時間が経ってるわけもないのに、この喧騒がひどく懐かしい。疑問は感じたが考えても思い当たる節はなく、深く考えることはやめて近くの店を覗いてみた。

 そこは八百屋のようで、見たことある野菜から見たことない野菜までところ狭しと並んでいる。


「◎£@●○@%$?」


 その時、意味の分からない言葉が聞こえた。酔っぱらいでもいるのかと思って顔をあげると、声の主はこの店の人のようだ。営業中に飲酒とは随分自由なところだと呆れる。


「おっさん、酔ってるのか?」

「§*£? ¥&$¢◎? @◎§! @◎§!」


 話しかけてみるとおっさんは愛想笑いを怪訝な顔に変えて、しっしっと追い払う仕草をする。今のやり取りで嫌なものを感じた俺は急いで通りに戻ると、通りすがりの人の会話に耳を澄ました。


「○@£&£¢」

「%*&◎◎$£」


 そこで聞こえたのもやはりさっきと同じわけの分からない言葉だった。その意味に気付いて血の気が引く。

 なんてことはない。異世界には異世界の言葉があって、日本語なんて使われていないだけだった。そして、ある程度の文化があるこの地で言葉が話せない男に居場所なんてなく、自然と街の暗部であるスラム街へと追いやられた。だがそこでも男の居場所はなく、食べるものにも困り、最期には誰にも顧みられることなくひっそりと息を引き取った。

 死因、栄養失調。

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