第3話 き・ま・り・な・ん・で・すぅー!
「へー……。魔力って足りないとあんな感じになるんだ。実際に見るのは初めてかも。それにしても……ぷっ……ぷぷー! 全魔法を扱えるようにはしたけど、行使できる魔力なんてないのにいきなり禁呪を使うなんて……。ぷぷっ……それにあの顔……ぷぷぷっ……失敗したときのあのマヌケ顔……っぷーくすくすくすくす! だめ……思い出しただけでも笑っちゃう……くすくすくすくす! お腹痛い……くすくすくすくす!」
「悪かったな、マヌケ顔で」
「くすくすぅうえええぃっ!? なっ、なななな……」
気付けばまた真っ白な部屋に戻って来ていた。前回と違うのは、白い壁を利用してプロジェクターで何かを映しているのを女神が観賞している光景だけだ。映像を直接見たわけではないが、恐らくさっきまでの俺の行動を映していたのだろう。
「な、なんでここにいるのよぉ! 私に許可なく入っちゃダメなんだからねっ!」
フリーズから立ち直った女神はぺたんと座ったまま床をバンバン叩いて抗議し始めた。
「いや、そんなこと言われても気付いたらここに立ってただけだし……」
「あなたっ! 私が新米の女神だからってバカにしてるんでしょう! ここは私の許可がなくっちゃ入れない所なの! 私は許可した覚えはないから入っちゃダメなんですぅー!」
両手を上げて威嚇しだす。以前感じていた神々しさは既に跡形もなく、良い歳して駄々をこねる美女にしか見えない。いや、もしかしたら美女に対して感じる、忌避と憧憬が混ざったようなあれなやつもなくなってるかもしれない。
「そんなことより、さっきのはどういうことなんだよ? 魔法を扱える能力じゃなかったのかよ?」
だから砕けた口調になるのもしょうがないのだ。
「あーっ、話逸らそうとしてる! しかもタメ口! 女神様に向かって罰当たりよ、罰当たり! 新米だからってそんな態度取ってたら怒るんだからね!」
「そういうのいいから、はよ。解説。はよはよ」
「むぅぅぅ! 知らない! ムカつくから知らないもん! そんなこと自分で考えなさいっ! それよりまた何でも一つあげるから早く何が欲しいか言って! そしてここから出てって!」
女神の態度が子供じみてきた。もしくは酔っぱらいだ。床をバンバンと叩いて不満アピールしているが展開的には前回と同じ……全然違うか。いやこんなやつのことよりもっと大事なことがある。
「ちょっと待ってくれ。それはつまり、能力を2つ持った状態で異世界に行くということか? 怒ってる割には太っ腹だな」
「き・ま・り・な・ん・で・すぅー! たまに死んだ人間をここに呼んで、能力をあげてるんですぅー! そうしないとこの部屋取り上げられるんですぅー! 同じ人間に同じことするのなんて初めてだからどうなるかなんて分かりませんー!」
なんだろう、こいつ本当に酔っぱらってるんじゃないだろうな? 酔っぱらってるんだとしたらあれだけど、そうじゃないとしたら……あ、どっちでも駄目だわ。駄女神だわ。
その間にも早くしろと急かしてくる。前回の余裕な態度はなんだったんだよ。待ってくれるんじゃなかったのかよ。だがまあ急かされるまでもなく俺の心は決まっている。この駄女神が最初の方に言っていたことから察するに、魔力が足りなくて失敗したんだろう。ならば俺が欲しいのはただ1つ!
「尽きることのない無限の魔力だっ!」
ふっふっふっ……。今もまだ頭の中にある呪文とこれから貰う無限の魔力さえあれば、魔法チート使いまくりのやりたい放題ができる! 完璧だ……っ!
「分かったからもう絶対に戻ってこないでよね!」
言動ともかく声と顔だけは美しい女神に見送られて落下していった。
◆◆◆
気付けばそこは深い森の中だった。落下した覚えはあるんだが着地した感覚は全く無く、唐突にそこに居たという感じだった。
「フム。異世界への入りとしては詰めが甘いとしか言いようが無いな。こういう場合は高空からの落下で死を予感させておいて超常的な力で助かるってのが普通だろ。これくらい常識だろ、常識」
やれやれ、全くやれやれだぜ。だがまあそんな細かい所にケチ付けるのは止めておこう。なんてったってここはもう異世界なんだから。俺が長きに渡ってラノベを読み漁って何度も何度も思い描いてきた世界が、今そこにあるんだから。
俺がもらったのは無限の魔力。これさえあればどんな魔法だって、どんな魔法だって……。
「どうやって魔法を使うんだよっ!」
魔法なんて使ったことないのだから当たり前だ。それどころか魔力を感じる方法も分からないから、無限の魔力があるのかすらも分からない。俺は一体どうしてこんな何の意味もない能力を願ったんだろう。たぶん急に癇癪を起こした女神に急かされるままに選んでしまったからに違いない。あの駄女神め……!
思い描いていた理想と現実がかけ離れ過ぎたショックで何も考えられなくなった俺は、しばらくして現れた魔物によってあっけなく殺された。
死因、鈍器による外傷性クモ膜下出血。
なんとなくお気づきかもしれませんが、主人公がどんなチートを貰おうと、なんやかんや理由を付けて絶対に、死にます。