第25話 異世界転移する上で何か一つだけ得られるものがあるとしたら、何がいい?
真っ白い部屋に1人の美女がポツリと座り込んでいた。彼女の他にはプロジェクターだけ。
そのプロジェクターによって壁に映された映像は、とある部屋を俯瞰で見たものだった。その映像では、ベッドで静かに眠る老人の周りで、数人の男女がさめざめと泣いている。
しばらく映像を眺めていた彼女はプロジェクターを操作して電源を切ると、ゆっくりと振り返り部屋を見渡す。
何1つない空間。プロジェクターもいつの間にか消えており、その部屋で彼女だけが取り残されたようにポツンと座っているだけだ。
「広いなあ……。こんなに広かったかなあ……?」
なんとか涙をこらえた彼女は、部屋を見渡したあと小さく呟く。その独り言は、壁に吸い込まれるようにして消えていった。
耳が痛くなるほどの静寂が部屋中を包む。
「……もう、戻って……来ない、んだよね?」
誰にともなく問いかけた言葉は、誰に伝わることもなく消えていく。
「伶太は、悔いのない人生を歩むことができたんだね……。見てたよ、一生懸命頑張ってるところ」
彼女は、今にも泣き出しそうな顔を懸命に笑顔に変えようとする。だがそれも長くは持たず、すぐに顔をくしゃくしゃにゆがめた。大粒の涙が頬を伝う。目元をゴシゴシと擦っても、涙は止まらない。
「ダメだ……。ちゃんと、祝福してあげないといけないのに……。
でもでもっ……。伶太のせいで、1人がこんなに寂しいと思わなかったんだよぅ! 伶太のばかっ! あほっ! まぬけっ! うわあああああん!」
とうとう手で顔を覆い、涙を流れるままにして号泣してしまった。
「悪かったな、まぬけで」
「……えっ?」
そこへ、突如として頭上から声がかかる。がばっと顔を上げた彼女が見たものは、照れくさそうに頬を掻いている尾垣伶太の姿だった。
彼はばつが悪そうに一言。
「その……よう」
◆◆◆
「伶太のばかっ! あほっ! まぬけっ! うわあああああん!」
気付くとまたあの真っ白い部屋に戻って来ていた。やれやれ、と呟こうとして、わんわん泣いているセレーネに気付く。
「悪かったな、まぬけで」
「……えっ?」
彼女は泣くのをやめて、勢いよく顔を上げた。泣いて赤くなった目を大きく見開き驚いている。いや、そんな、死人が生き返ったような顔されても……。あながち間違いではないな。
というか、これはめちゃくちゃ恥ずかしい。悔いのない人生を生きるとか言って一方的に別れを告げたのに、また戻って来ちゃったんだもん。こっちが手で顔を覆いたいくらいだわ。
そのまま黙っているわけにもいかないので、頬をポリポリ掻き一言。
「その……よう」
「伶太……? な、なんで……」
セレーネは未だに放心し続けている。
なんで、と言われても……。いや、なんで戻ってきたかなんとなく分かっている。たただ、こいつに面と向かってそれを言うのはちょっと、いやすごく恥ずかしい。だが、言わないわけにもいくまい。
「まあ、なんというか……。最後にお前の笑顔が見たいなあって思っちゃって、さ」
異世界へ行くのは最後にするとセレーネに告げた時、泣いて止めようとする彼女を振り切って旅立ってしまったことがずっと気がかりだった。
忙しい日常生活の中で、いつしか心の奥底に埋もれていったその思いが再び顔を出したのは、ゆっくりとした時間が取れるようになった老後になってからだ。
こんなこと思ってしまうのはマリーに対してすごく失礼で申し訳ないのだが、それでもあの時のことを再び忘れることはできなかった。
今、マリーとセレーネのどちらが大切か問われても、以前の3人の中からマリーを選んだ時のようにはいかないだろう。それくらい俺にとってもセレーネという存在は特別なものだった。
「伶太……れいだあっ!」
セレーネは顔を鼻水でぐしゃぐしゃにしながら突撃してきた。バランスを崩して倒れてしまってもお構い無しにきつく抱きしめてくる。
こういう湿っぽいのは嫌いなんだけどな。こんなになるまで寂しい思いをさせてしまうなんて、当時は考えもしなかった。
そのお詫びと言ってはなんだが、今はされるがままになっておこう。
さて、俺の話はここまでなんだが……。
もしキミは異世界転移する上で何か一つだけ得られるものがあるとしたら、何がいい?
最後はB級映画のラストみたいな終わり方にしてみました。最後に主人公がカメラ目線になって、視聴者に2,3言語りかけるやつ。
さて、これで最終話なんですが、活動報告で書くようなことをここで語らせてください。
ご存知かもしれませんが、この話は1つ『だけ』という制約で、何を持っていけばいわゆる、俺SUGEEEEEEみたいなことができるか自分なりにシミュレートしてみました。
だって思いませんか?どいつもこいつもアクセサリーのようにチート能力をもらってたり、1つだけとか言いながら他にもオプションがついていたり、お前それ一般人か!?って思うような知識を持っていたり……。
それが悪いとは言いませんが、どうしても気になったので、無い知恵を働かせて考えてみました。
私が出した答えは、上限突破してカンストするくらいの幸運ならワンチャン、でしょうか。次点で言語理解かな?(最後の記憶云々は論外なので考慮しません)
やはり持っていくものより、元々の性格や能力が必要不可欠だと思います。能力というのも、大きな病院の、外科医の局長くらいの専門知識が必要でしょう。ごくごく普通な一般人では無理があると思います。
ですがこれは、私の勝手な脳内シミュレーションの結果です。もしかしたら、一般人でもうまくやれる方法があるかもしれませんね。
長々と書いて失礼しました。それと、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。




