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第19話 カッコいいとか思わないんだからねっ!

 隣国から宣戦布告がくる少し前の話。その頃には、戦争が起こりそうという噂は既に街中に広まっており、そこで生活する住民たちは――

 いつも通りの生活を送っていた。

 以前、具体的には4話くらい前にも言ったが、この隣国の侵攻は今に始まったことではない。2,3年に1度のペースで襲って来ていてここの軍はそのどれもをはね除けてきていた。その安心感が戦争という一大事をちょっと大きなイベントくらいにまで引き下げていた。慣れって怖い。

 そしてこの戦争を乗り切ると、なぜかそれ以降隣国からの侵攻はぱったりと止んでしまう。これはどの人生でも同じことが言えて、つまり街の方にまで攻め込まれる事態となっても撤退させてしまえば、俺が死ぬまで再び攻めてくることはなくなるのだ。国際情報に詳しくなかったので理由までは分からないが、ここまでが以前までの俺が知る出来事だった。

 まあ戦争自体も領主が抱える兵士たちと徴兵に応じた領地の農民あたりが頑張ってくれるので、俺には直接関係のない話だ。俺の戦争は準備段階で終わってるのだ。


「喜べレイタ! この戦で手柄を立てたらすぐに上の立場に立てるぞ!」


 か、関係ないはず……だよね? なんでこの人、俺が参戦する前提で話をしてるの? ハハハ、アリオスさんったら冗談がお上手ね。


「俺がアンスクルムのやろうにちゃんと話をつけてきたからな! あとはお前の頑張り次第だ! 夢があるんだろう? 頑張れよっ!」


 てめえええええ! 余計な真似しやがってええええ! 俺は戦場に行かなくてもいいだろ! 気球だけで十分だろ! 今までの経験上、俺が戦場に立ったら生き残れるのは5割くらいなんだよ! 半々なんだよ! こればっかりは手柄なんてどうでもいいわ! なのにお前ときたら! 爽やかな笑みでサムズアップしやがってカッコいいとか思わないんだからねっ!

 なんて言えるわけがなく、当たり障りのない言葉で否定してみる。


「うん? そりゃ気球もお手柄たが、手っ取り早く偉くなりたいんだろ? だったら研究ばかりじゃなくて戦場にも立たなきゃ、人はなかなか付いてきてくれないぜ?」


 そう、なんだろうか? 確かに安全なところで戦争をやり過ごすやつより、同じ戦場に立ってくれるやつの方が印象はいいかもしれないけど……。


「それにそう言うと思って後方支援の部隊に回すってさ。俺はあの体術があれば結構いけると思うんだけどなあ……」


 なにがいけるんですか。ああ、確かに弓とか銃とかの流れ弾に当たって逝けるかもしれませんね!


「ワイバーンと気球の部隊の隊長に任命されたから。やったな、大抜擢だな! 新しく編成された部隊だし大変かもしれんが、やっぱりお前に適任だろう?」


 し、しかも隊長っすか……。新設の部隊って言っても元々あったワイバーン部隊に気球を組み込んだだけだし、やっぱ反発とかあるんだろうか? これなら時間掛かってもいいから、安全な場所でのほほんとしていたかった……。

 それだけ告げると、用事があるからと言ってどこかへ行ってしまう。彼も忙しいだろうに伝令係にされたようだ。

 だからって同情はしないけどな!


◆◆◆


 領主から正式に辞令を受け、部下となる人たちとの顔合わせも済ませた。やはりというかなんというか、元ワイバーン部隊の者からは良い顔をされなかった。特に副隊長だった人からはものすごい睨まれていた。

 気球が魔法を使って飛ばす関係上、魔法部隊からも何人かこちらに組み込まれたんだが、新設の部隊に様子見する者半分、花の魔法部隊から外されて不満そうな者が半分といったところだ。

 うちの部隊、敵しかいねえ。

 とりあえず戦場のことについては全く分からないから、戦闘が始まるとワイバーン部隊の元隊長に丸投げするしかなく、俺にできるのは、気球を取り入れた戦術的なあれこれを考案したり、部隊の運営に奔走したりするだけだ。

 この元隊長さんだけが俺に協力的で、不満を募らせる部下たちを宥めてくれている。彼の存在だけが不幸中の幸いだった。


「私はレイルズ隊長の命令に従うだけだからな! 私は貴様を隊長とは認めない! この部隊も、レイルズ隊長が指揮すれば良かったんだ!」


 この敵意むき出しで吠えているのは、うちの部隊の副隊長だ。最初の顔合わせからずっとガン飛ばしていた人だ。彼女は元隊長であるレイルズさんの代わりに俺が隊長となったのが許せないらしい。気持ちは分からなくもないが、俺だって被害者なんだよ。


「それはつまり、レイルズ隊長を経由すれば聞いてくれるんだろ? それならそれで問題ないな。なにせ戦闘になったらレイルズ隊長に指揮してもらうから! 俺が有能な指揮官だと思うなよ? 俺は気球を作っただけで取り立てられただけの男だからな! 戦争のせの字も知らん!」

「そ、そんなことを堂々と言い張るな! そんなだから隊長と認められないんだ! 隊長なら隊長らしくしていろ!」

「隊長と認めないくせに隊長らしくしろって、お前は何が言いたいんだ! いいから大人しくレイルズ隊長の言うこと聞いてろ! ばーかばーか!」

「こ、このっ……! ばかとはなんだ、ばかとは! ばかって言った方がばかなんだぞ! ばーかばーか!」

「お前なんてばかで十分だ、ばーか! 俺だって困ってるんだよ、ばーか! レイルズ隊長が隊長してくれる方が助かるんだよ、ばーか!」

「わ、わたっ、私はっ……! ばかなんかじゃ、ないもん! うわあぁぁぁぁ!」


 凛々しい見た目に反して泣き虫だった。このことで俺の株は大暴落を起こすかに思えたが、彼女の泣き顔が可愛いと話題になり、泣かした張本人は一部から支持を得た。

 うちの部隊は変なやつが多そうだった。

蛇足だと思っているのに、こんな話を入れてしまった私を許してください

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