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第17話 さすがはお嬢様です

 きたる戦争に向けての開発的なあれこれは、思ってた以上に困難を極めた。何も良い案が思い付かないのもそうだが、時間という概念まで俺の目の前に立ちはだかってきたのだ。

具体的に言うと、まずは新しく割り振られた仕事。肉体労働から頭脳労働へと変わったんだがこれがまためんどくさくて、仕事を切り上げる頃になってくると何も考えたくなくなるのだ。

 次にマリーたちだ。彼女たちもアイデアの捻出に協力してくれるのだが、いかんせん軍事方面について知識がなく、何か思い付いてもその良し悪しを検討しようがなかった。それに必ずと言っていい程世間話へと脱線するので、実際にアイデアを練っている時間は驚くほど少ない。癒しになってるからいいんだけどね。

 とどめにアリオスだ。彼は領主の軍の中でもかなり上の存在なので、相談役としてこれ以上ないほど適任……だと思ったんだが、会いにくる度に組み手を強要される。そのせいで彼に割く時間は少なくないはずなのに、あれこれ質問する時間がほとんどない。

 こうやって会いに来てくれるのは正直とても嬉しいのでなんというか、こう、複雑だ。


 そしてもちろん時間だけが問題ではなかった。こと軍事方面に関しては多くの手が加わり、俺が考え付くアイデア程度はもう既にあった。

 例えば銃。まだ火薬の発見はされていないが、爆発魔法を火薬の代わりにした、マスケット銃みたいなものが実戦配備されていた。

 例えば通信技術。最近、無線通信のような魔法が開発されたらしく、これにより各部隊の状況把握や指示が格段にあがっていた。また、無線通信から派生して通信妨害や傍受なんかも開発されているらしい。情報戦というのは有るのと無いのとでは戦い方がガラリと変わるらしい、というくらいは知っていたのでものすごい期待していた分、落胆もものっすごかった。

 例えば三兵戦術。どこで覚えたか忘れてしまったが唯一覚えていた戦術は、この世界ではもう使い古された程にありきたりとなった戦術であった。

 なんか悔しかったのでもうちょっと調べてみると、事の発端は魔法兵という存在にあるという。この世界では戦闘目的にまで達した魔法を扱える者はそういない。育成するにしても、生まれつきの才能によるところが多く困難なことだった。そのため戦争で魔法兵を使い捨てにするわけにはいかず、後方支援に専念させるのが定石となる。この専門兵科から着想を得て他の兵科も作られるようになったのだという。

 ちなみに元の世界では歩兵、騎兵、砲兵の3種類から三兵戦術と呼ばれているが、こちらの世界ではさっきの3つに加えて魔法兵があるので四兵戦術というべきかもしれないな。あと、砲兵についてもまだマスケット銃くらいしかなく、長射程、大火力といった兵器は存在しないので砲兵ではなく弓兵と変わっている。

 こんな具合で、魔法の存在のお陰で中世ヨーロッパと比べて異様に発達した技術や概念がところどころで伺える。特に軍事方面に関してはそれが顕著で、もう八方塞がりだった。


 あ、ちょっと話はそれるんだが、異世界ファンタジーもののラノベも魔法によって技術が発達しているみたいな描写があるよな? これはいいんだ。ただ、便利な魔法があるせいで中世ヨーロッパより劣った技術があるというのは嘘だと思う。中世ヨーロッパって想像以上に古代だからな。どの分野でも劣りようがなくないか? 差が出始めるのはせいぜい、近代以降だろう。それもどうか分からないけどな。

 つまり何が言いたいかというと、ごくごく普通の一般人が現代知識チートできる余地なんてそうそう残されてねーんだよおおおお! アイデアさえあれば職人が作ってくれる? 簡単なものならもう既にあるんだよ! かといって複雑なやつにしても構造知らないのにどうやって伝えるんだよ! バーカバーカ!


 落ち着いて話を元に戻そう。とにかく、魔法のせいで俺の『なんか画期的なものを開発してちやほやされよう計画』は難航していた。


「いやでも絶対何かあるはずだ……。俺の勘がそう告げている」

「レイタって鈍そうだから、その勘が錆び付いてる可能性はないの?」

「するどい」


 そして今はマリーのお茶会に誘われていた。お茶会といっても、出席者はマリー、エイミー、俺の3人だけというささやかなものだ。


「でも、レイタさんって博識ですよね。レイタさんのお師匠さまはとても優秀な人なのでしょう」

「えっと……。師匠というか、環境は少々特殊だったかもしれませんね」


 なにせ現代たからな。世界すら違うからな。

 ちょっと人見知りなところがあるエイミーともいつの間にかこうして普通に喋ることができていた。彼女にとったら完全に巻き込まれたようなものだったんだろうが、楽しそうにしているようでなによりである。


「なら、前に言っていた、『みさいる』というのは? 響き的にかっこいいわ!」

「いえ、それもどう作ればいいのかさっぱりで……。やっぱり、兵器を考えるのは難しそうです」

「そうですね。私も、人を殺す手段を無理に考える必要はないと思います。レイタさんの兵器のお話はちょっと怖かったです」


 そうなんだよな……。俺は何度も人生を繰り返してきた分、エイミーより感覚は麻痺しているところがあるけど、それでも人を殺す兵器を考えるのは気乗りしない。

 だとしたら次に考えるのは移動手段か……。

 例えば空を飛べたら……。いやでもワイバーン兵がいるもんなあ……。

 ワイバーンというのはファンタジーでお馴染みの翼竜のことだ。この世界でもご多分に漏れずワイバーンが存在し、飼い慣らしている。チッ! いちいちもので溢れてるんだよ、中世ヨーロッパのくせして!

 確かアリオスの話では、ワイバーンの最大乗員数は2人で、あまり重いものは持たせられないらしい。航続距離なんかの問題もあるけど、やっぱり空から索敵できるのは大きいらしい。


「んー……。空か……。ワイバーンとは別に空を飛ぶ方法があれば……」

「確かに、ワイバーンの騎乗はとても難しいと聞くわね。それに、ワイバーンの数自体も少ないらしいわ。昨日、先生から教えてもらったのよ!」

「さすがはお嬢様ですー」


 適当に誉める。おざなりな態度に不満そうな顔をするマリーだったが、それには気付かず再び空を飛ぶ手段がを考える。

 空を飛ぶといったら飛行機だけど、ジェットエンジンとかこれっぽっちも分からないしな……。あとはヘリコプターか? プロペラは魔法で回すとかか……? うーん、もっと簡単なものの方がいいのでは? そうなると……気球とかか? 確か、まだ気球は存在してなかったよな? ……あれ? なんかすごく良い案なんじゃないか、これ? そうだ! よし! 気球を作ろう!

 そう思ったらいてもたってもいられず、途中で抜け出すことをマリーたちに謝って自室に引きこもった。まずは理論の証明からだ。

熱気球の原点は1709年だそうです。その後、長らく時間が空いて1783年に、熱、ガス気球の有人飛行に成功したそうです。この、熱気球を考えた方のモンゴルフィエ兄弟ですが、彼らは煙が立ち上ることに着想を得たそうです。

つまり、作中の世界では気球はまだ考えついてなくてもおかしくはないと思いました。

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