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第12話 今までの記憶

「――え? 記憶?」

「そうっ! 俺もなんでかは分からないけど何回も死に戻りしてきたじゃん? 何回も繰り返してきた分だけ、知識が蓄えられている。それ則ち今までもらった知識系の能力も蓄えられているということだっ! 現に今までもらってきた知識は大体全部覚えてるしな!」


 ここへ帰ってきて今までの記憶が戻れば、弱い魔法だけなら使えるし、あっちの言葉も喋れるようになってる。


「……うん? それがどうしたの?」

「察しが悪いなあ。まあいいだろう、教えてやる。

あっちの世界へ行くと今までの攻略を全部忘れてしまっていただろ? だがここで『今の俺の記憶』を持って行けるとしたら?

もし上手くいけば魔法も、言葉も、それ以外も全て覚えてる状態からスタートできるんじゃないか?

ふっふっふっ……。もしこの仮説が正しければ、チートもハーレムもヤリたい放題の薔薇色人生到来じゃないか! ふっふっふっ……。漸く俺の時代が来たようだな。天才的過ぎて自分自身が怖いよ。ふっふっふっ……」

「前話の、殊勝に生きるみたいな発言はどこへいったの? って聞きたくなるくらい元の思考に戻ったね」

「そんな昔の話は忘れたなあ。人は後ろを見ながらじゃ前に進めないんだぜ?」


 華々しい生き方ができないなら質素な生き方で満足するしかなかったが、まだ方法があるのなら目指せるところまで目指すのが男ってもんよ!


「それで? 今言ったことは可能なのか?」

「えっ? うーん……。こんなの前列がないから分からないよぉ~。だって記憶は確かに持ち出せるけど、普通はそんなの意味ないもん」


 確かにな。普通は死に戻りできないみたいだし、願ってまで思い出したい記憶もないだろう。こんなのは邪道そのものだ。

 この死に戻りこそ、俺が元々持っていたチート能力なんだろうな。それ単体では強くないけど、他のものと組合わさると強いシナジー効果を発揮するやつ。


「分からないなら試してみればいいか。

……じゃあ、成功するにせよ失敗するにせよ、これでお別れだな」


 そう宣言すると、女神は狐につままれたように目を丸くする。


「えっ……? な、なんでお別れなの? また失敗するかもしれないし、そしたらまた戻ってくるでしょ?」

「いや、この死に戻りも、もう終わりにしようと思ってる。この作戦がどうなろうとも、持てる限りの力を精一杯使って悔いのない人生にしたい。

だってそうだろ? どんなに優れた能力を持っていても、精一杯生きなきゃ満足のいく人生とは言えないんだからな。

いい加減、そんな人生を送りたい……。だから、これでお別れだ」

「そ、そんなの……そんなの……急過ぎるよっ! もうちょっとここにいてもいいじゃん!」


 彼女の目がうるうるしだして若干鼻水が出ている。

 自分から切り出した話だが、こうして引き留めてくれるのはやっぱり嬉しく思ってしまう。その顔面はアウトだけどな。


「なあ、あれからずいぶん仲良くなったよな。前もからかい半分で言ったけど、初めの頃のお前なんて帰れ帰れ言ってたのにな」

「い、今は思ってないもん! 今は――」

「――まあ聞けって。俺さ、正直嬉しかったんだよ。ここが俺の居場所のように感じがしてさ。

一緒に飯食ったり、何をもらうか考えたりしたよな……。そうだ、戻ってくる度に口喧嘩もしてたなあ。ふふっ、今となっては良い思い出だ。

何て言うか、俺はさ、その、お前のこと、人生で最高の友達だと思ってたんだよ。…………これ、改めて言うと恥ずかしいな」

「わた、私もっ……えぐ……伶太のこと、一番の、友達だって……思って……うぇぇ……」

「だったら、友達の門出を祝ってくれよ。それとも、不幸になって欲しいのか?」

「ずっ、ズルい! そんな言い方、ズルいよぉ……」


 彼女はぺたんと座ったまま、バンバンと地面を叩いて怒りを顕にしている。確かにこれはズルい言い方だったな。でも、ズルい俺にはこんなことしか言えないんだ。


「俺だってもう会えなくなるのは辛いよ。でも、出会いがあれば必ず別れもあるんだ。この決まりごとはどうやっても覆せない。だから、どうせなら笑って送ってくれよ、セレーネ。最後だから言うけど、お前の笑顔……結構好きだったんだぜ?」

「ひぐっ……むぅぅぅ……。こんな時になって……うぅぅ……やっと、名前を呼ぶなんてズルい……。ばか……ばか伶太……!」


 安心させるように笑顔を見せようとしたが、ごめんなとか、ありがとうとか、色んな感情が一気に込み上げてきて上手く笑えない。鏡で見たら、泣くのを我慢してるような酷い笑顔になってるかもしれないな。

 ……ダメだな。これ以上居ると、もっと別れが辛くなる。だからもう旅立とう。

 彼女にも、いくつか逆らえない決まりごとがある。今から言うこれも、多分その1つだろう。


「決めたぞ、セレーネ。俺は『今までの記憶』を持って行く! ……じゃあな」

「!!! や、やだよ! まっ――」


 浮遊感に身を任せながら、最後の異世界転移を果たした。

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