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第11話 鼻水

評価点を入れてくださった方、ブクマしてくださった方、本当にありがとうございます。できることなら個別にお礼を言いたいくらいに喜んでおります。

 慣れないことをしたせいでこっぱずかしくて首の周りが熱い。だがその自滅行為が功を奏して女神も落ち着きを取り戻している。俺の胸元ではカピカピになった鼻水が誇らしげに光っていた。


「やっと落ち着いたかよ……。そういやふと思い出したんだが、お前って俺の前にも何人か異世界へ送り込んだみたいなこと言ってなかったか? けど、俺が知る限り現代知識チートしてる痕跡はなかったように思うんだよな」

「ぐすっ……。うぇ? それはそうよ。人を呼び寄せる毎に呼び寄せる世界も、送り出す世界も変えてるもん。まだ数人しか送り出してないけど、どの人も伶太から見たら異世界から来てるんだよ?」


 ここにきてまさかの新情報だった。てっきり俺と同じ地球からこいつに呼び出されてあの異世界へと送られるんだと思いこんでいた。それはつまり、それほど文明が発達していない世界からSFみたいな超絶技術を持つ世界へと飛ばされる場合もあるってことか……。うーむ。もし俺がその場合だったらと考えるとちょっと怖いな。俺がいた世界よりも文明レベルが低い異世界で助かったのかもな。……いや待てよ? 現状でも現代知識チートが使えないならどっちだろうと関係なかったんじゃないか? むしろSF世界の方が目新しいものが見えて楽しそうですらある。

 なんだよ全然ダメじゃねーか。感謝しそうになったわあぶねえ。


「なら行き先を別の異世界へ変えることはできるか? 俺は元いた世界よりも技術が発達した世界へ行きたい!」

「んー……。変更はできるけど、行き先は選べないよ?」

「なら却下で。

だが自分よりも発達した異世界へ飛ばされた人って何を願ったんだろうな? なあ、参考までに教えてくれよ」

「うん。何をしたかまでは教えられないけど、それだけならいいよ。

えっとね、まだ数人しか会ってないけどほとんどの人が言葉について聞いてきたから、伝わらないって教えてあげると言語理解の能力を欲しがってたよ」

「おいちょっと待て。そんな質問があったなら事前に教えてくれよ。なんで人の意見を反映しないんだよ!」

「だ、だって聞かれるまで教えちゃだめだもん! 決まりなの! だからそんなに怒らないでよぉ!」


 前も言ってたが、決まりだとかなんだでこいつも自由にはいかないみたいだ。単に俺の短慮さが浮き彫りになっただけかよ、ちくしょうめ。

 しかし、このルールを考えたやつは碌でもねえな。


「まあ、そういうことならしょうがない……のか? それ以外で何か望んだやつはいないのか?」

「魔法で代用できた人ならいたよ? その人は無限の魔力を願ってたなあ」


 あー……。そう来ましたかー……。確かに元々魔法を扱えるなら、後は魔力さえあれば無双も夢じゃないですよねー……。

 いやー、実はちょっとは参考になるかと思って聞いてみたんですけどねー……。ぜんっぜん参考になりませんでしたねー……。


「やっぱり、チートできるかどうかは元々持っている能力に左右されて、後からもらう物や能力は補助でしかないってことか……。そしてオタクとして生きてきた俺は特別な知識も技能も持ってるはずがないから、どの分野においてもチートは不可能……」


 薄々感づいていてわざと目を反らしていたがやはりそうだった。知りたくなかった。どう足掻いたところで、俺が胸を膨らませた妄想は実現不可能らしい。心にぽっかりと穴が空いて、思考は意味もなくぐるぐると空回りしているようだ。


「突出した能力を持って華々しい活躍できる人は、基盤となる土台があったからだ。その土台は努力によって培ってきたものだ。俺にそれがあるか? ないだろう。部活もせず身体能力は人並み以下、専門的な知識は無いに等しい。そんな俺が無双? 現代知識チート? ハッ、笑わせる。

所詮、異世界転移もののライトノベルなんて、人のどうにもならん抑圧から解放されたいと望む妄想だ。いくらフィクションみたいな状況に置かれてもこれが現実なんだ」


 どうしようもない事実に心が折れそうになっていた。だが折れそうになっただけで完全に折れなかったのは、前の人生の記憶があったからだ。それは、流行り病から人を救った記憶。結局少なくない死者を出したが、訪れる筈だった壊滅の危機から救えたのは俺の知識によるところが大きいと、それだけは確信を持って言える。輝かしい未来を想像していた俺にとっては満足のいく出来ではなかったが、この事実が心が折れそうになってもまだ自暴自棄にならずに踏ん張れている拠り所となっていた。


「他の誰かが俺よりどうだ、なんて考えても意味がないよな。俺は俺なんだから。結局、どう足掻いてもこの異世界というフィクションみたいな世界が現実なんだ」


 そう割りきることで諦めもついた。残念な気持ちもなくはないが、絶望が重くのし掛かっているというわけではなく、心はすっきりとしたものだった。

 さて、と。今度こそ次で終わりにしよう。チートを使って周りからちやほやされるんじゃなく、精一杯、後悔しない生き方をしよう。女神からの贈り物は、それを最低限補助する程度だと考えよう。

 んー……。何にしよう……。そりゃより良い暮らしができるならそれに越したことはないけど……。はは、チートで無双でハーレムなんてもう考えてるわけじゃないが、やっぱりどうしても与えられる能力に頼ろうとしてしまうな……。まったく、与えられる能力は元々持っている能力に沿うようなものじゃないといけないっていうのにな……。ん? 元々の能力……?

主人公がいつにも増して、あるいはいつも通り毒を吐いていますが、希望をチラつかせられた挙げ句、絶対に手が届かないと思い知らされて絶望している、みたいな表現が何となくでも伝わればいいなあ……。

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