第1話 テンプレキターーーー!!!
死んだ。それはもう完膚無きまでに死んだ。死因はトラックによる衝突事故。そして俺は今真っ白い空間に居て、目の前にはどんなに言葉を尽くしても言い表せられない位の美人が、びっくりするくらいの美人が、そこに居た。どんなに言葉を尽くしても言い表せられないからあえて陳腐な表現で言い表してみた。あえて。
その女神のような(陳腐)女性はふんわりと包み込むような笑顔を見せる。それがまた女神のようだった(陳腐)。
「突然のことで驚いていることでしょう。ですが落ち着いて聞いて下さい。尾垣伶太さん、あなたは先程、不慮の事故で死んでしまいました」
神の造形を思わせるぷるぷるとした唇からとろけそうな程の美声が発せられる。笑顔から一転して済まなさそうに眉尻を下げる表情を見ると、何でも許してしまいそうになる。
「あなたは本来、あの時事故に遭うことも無ければ、死ぬ運命でもありませんでした。ですが実際には……本当に不慮の事故と言う他ありません。
このままでは余りにも不憫。ですが生き返らせることは女神である私でも不可能なので、あなたがいた世界とは全く別の異世界で、新しい肉体と共に余生を過ごして頂こうと思っています。その際、お詫びの印として何でも1つ、あなたに能力を与えましょう。勿論、能力ではなく物でも構いません。よく考え――」
「テンプレキターーーー!!!」
「ひゃうっ!?」
女神のような、ではなく女神だった(迫真)。
それはともかく。長々と説明的なセリフだったがなるほど、テンプレだな。異世界転移、あるいは転生のテンプレだ。特になろうのテンプレ。恐らくここで得たチートスキルを使って俺TUEEEEEEEE!したり、ハーレムUHYOOOOOOO!したりするんだろう。分かる。分かります。
しかもランダムで選ぶ訳じゃなく任意! ランダム性ありにすると、突拍子もない物になってひと悶着した後なんやかんやで無双する、みたいなネタにも走れる要素が残っていて面白いんだろうが、実際にやるとしたら何貰えるか分からないものなんて願い下げだ。
その点こっちは凄いよな、だって最初から任意なんだもん。
「伶太さん……尾垣伶太さん? 聞こえてましたか?」
おっと、テンションが上がり過ぎて自分の世界に入ってしまった。
女神は若干引き気味に俺の顔を見たあと続ける。
「何でもと言われると迷ってしまうかもしれませんね。ですがよく考えて決めて下さい。あなたが向かう異世界には魔法もあれば魔物と呼ばれるモンスターもいます」
フムフム。異世界の設定もありがちな剣と魔法の世界みたいだな。十中八九、中世ヨーロッパレベルの文明。チートなんて貰わなくても現代知識で俺SUGEEEEEE!できるし、そこに何でも物を作るみたいな能力があれば近代兵器で無双なんかもできるだろう。金もマヨネーズ作ればすぐ集まるだろう。異世界のやつらはどうせ美味いもん食ったことがないだろうし、狂ったようにマヨネーズを求めることだろう。俺の時代が来たな。
「あなたのいた世界とは遥かに危険な場所で、授けられるものは1つだけというのは心苦しいですが、その分よく考えて危険な世界で生き抜く備えとして下さい。考える時間は十分に――」
「いいえ、それには及びませんよ。何にするかはもう決まっています」
そう。色々やりようはあってそのどれもが魅力的ではあるが、魔法があると聞いた時から俺の心は決まっていた。誰もが一度は憧れる魔法。これを選ばずにはいられない。
ああ……まずは手始めにお姫様でも助けちゃったりするんだろうか? そうだ、奴隷を買うのも良いなあ……。自重なんて一切せず、ハーレムを築き上げよう。クックックッ……今から楽しみで笑いが止まらない……。
「そ、そうですか……。こういう場合はむしろきっぱりと決められる方が大事かもしれません……ものね?」
おっと、また没頭してしまった。俺を気味悪そうに見ている。そりゃ、急に笑いだしたらそうなるわな。
「す、すいません。とにかく俺の心は決まっています。俺が欲しいのは、どんな魔法も扱える能力ですっ!」
「……その願い、しかと聞きました。では新たな世界であなたに幸あらんことを……」
女神がそう言うなり、俺の足下が消滅する感覚があった。一瞬の浮遊感。だがすぐに重力の手に捕らわれて落下していく。
「ほへええええええあえあえあええええっ!?」
情けない悲鳴を上げる俺は、この後に待ち受ける悲劇なんて全く予想だにしなかった。
ある程度書きためてから投稿してるので毎日投稿できそうです。