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あの夕方を、もう一度  作者: 秋澤 えで
終局開幕最終章
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やり直し革命譚 7

 「……うまくいくと思うか?」

 「うまくいかせるんでしょ。」



 にべもない。当然だ。うまくいくかいかないか、それはやってみないと分からない。それに何よりこの計画を立てたのは国を倒そうと虎視眈々、数年がかりの謀を弄してきた化け物たち。勝算がない戦いなどするわけがない。



 「単純な話、王様の首を取るところまでは大丈夫でしょ。お兄の方がはるかに強い。」

 「……問題は首を取ってそれを持ったまま王宮から抜け出しアサンシオン広場へたどり着くこと、だな。」

 「サポートはする予定だよ。抜け道とかも情報局員が用意してる。」



 大仕事のはずなのに妹はどこまでも落ち着いていた。なんなら彼女よりはるかに長く軍に在籍している俺の方が落ち着きがない。

 王を殺し、その首をもって走る。あまりに非現実的すぎてため息すら出ない。



 「……首をもって走るなんて人生において一度あるかないかくらいだろ……、」

 「まさかだけどお兄、王の首剥き身でもって走ろうとしてる?」

 「ち、違うのか?」



 ヒルマは深く深くため息を吐いて米神を押さえた。頭が痛いとでも言わんばかりのしぐさに思わず顔が引きつる。



 「違うにきまってるでしょ。王の首は布か何かに包んで持ってきて。」

 「そんな時間あるか?王が殺されたなんてわかったら大混乱だろ。」

 「……お兄暗殺って言葉知ってる?」




 そこでようやく合点がいった。

 戦争なんていう事態、どこもかしこも大混乱。混乱に乗じて王の首を取りそのままダッシュ。追っ手を振りきりながら戦場まで首をもっていって掲げれば任務終了。そんなイメージだったが根本から違うらしい。



 「暗殺……ってできるものなのか?真昼間だぞ?」

 「できるかじゃなくてするの。情報局の方から情報操作して王宮内の人間は極限まで少なくする手はずになってる。もちろん警備はあるけど。それと宰相さんからの話だと王様は部屋に侍女も護衛も置いてなくて、正真正銘一人きりだって。こっそり部屋で殺せば、他の人間が気づくのは多少遅らせられる。それだけでお兄は圧倒的に逃げやすくなる。」

 「お、おう、用意周到だな。」

 「当たり前でしょ。むしろなんでお兄知らないの!?」



 思い返せば勝手に大混乱を予想していたせいで、完全にそういうものだと思い込んでいた。思い込んでいたため、大して確認していなかったのだ。自分の仕事を理解したつもりで皆と話していたが、この様子だとおそらくまともに理解してなかったのは俺だけのようだ。皆の想像を超える頭の悪さに申し訳なくなる。



 「お前とちゃんと話ができてよかった。」

 「本当にね!……正直なところ王宮警護の兵も息のかかった人を入れたかったんだけど、警護の兵と王国軍だと部署が違うから難しかったみたい。」



 息のかかった兵を入れたかった、ということは息のかかった兵が既に用意できる、ということだ。一枚岩じゃないとは知っていたが、王国軍部内にいったいどれほどの仲間がいるのだろう。一兵卒でしかない俺はそれを知らないし、それを知る必要性もない。


 ただおそらく、数を増やしているのはリチュエル宰相だろう。メンテ・エスペランサや”涙を流す者”は立場上やすやすと兵に接触し仲間に引き込むのは難しい。それに対して宰相は私兵を持っているし、俺にしたように引き抜きができる。つまり一度引き抜いて軍とは部署の違う宰相直属の部下にしてしまえばそのあと裏切り者であることがばれる可能性は軍の中においておくよりずっと低い。

 けれどそこでハッとする。そもそも前提条件が違う。”涙を流す者”はおそらく可能だ。直接接触することなく、長期的なアプローチにより、誰にも感づかれることなくこちら側に引きずり込む。どうしてピンポイントでそれが可能なのか。それについて彼はいまだ明らかにしていないが。



 「……正直なところ聞いてもいいか。」

 「なに?」

 「私たちの仲間、今回の作戦に関わる人間で、裏切り者は出ると思うか?」



 それは所詮想像でしかない。そして作戦に関わる人間のすべてを知っているわけでもない。けれどあまりにも情報が少ない。しかも不確定な要素が多すぎる。

 身近な人間はわかる。宰相とその部下たちなら地位のため、国のため、革命軍もまた国のため、俺は国へ帰るため。明確で疑いようのない理由だ。


 けれど理由がはっきりしない者たちもいる。

 ”涙を流す者”がそうだ。彼は国のため、悔いのない未来のため、と言っていたが、定かでない。人柄として普段なら納得できただろう。しかし今の彼はあまりにも得たいが知れない。それに情報局の局長もそうだ。彼女はすでに局長、この国の情報の頂点に立っている。どうして国を倒す必要があるだろうか。彼女に正義感だとか国のためだとかそんな高尚なものがあるとは到底思えない。あるとすれば「面白そうだから」といったとことだろう。気分で動く彼女を、俺を信用しきれない。



 「……お兄が言いたいのはアルマくんのこと?」

 「それも、だ。正直彼が一番信用できない。……一番信用できないのに彼が一番番狂わせをできる位置にいる。」



 王国軍第3中将アルマ・ベルネット。まだ年若い26歳の青年。メンテ・エスペランサの処刑人。

 彼に王国を倒す理由がない。いや、王国を倒すのは必要な過程の要素の一つに過ぎないと、彼は言っていた。



 「誰かを守るためにあの地位についた、と言っていた、いや死なせないため、だったかな。その一人のためだけに王国軍に入って、中将にまでなった、と。」

 「……死なせない?誰を?」

 「……わからん。それだけは決して言わなかった。けれどその理由がある限り裏切ることは決してないって。」



 怪訝な顔をするヒルマ。おそらく彼女もそれを知らなかったのだろう。そして心当たりもない。

 勝手な見解だが、今回の作戦で誰かが守られる、ということは決してない。非戦闘員は非難するがそれ以外は全員が命の危機にさらされる。もし誰かを殺すため、という理由ならまだ納得できた。混乱に乗じて軍人の誰かを殺す、革命軍の誰かを殺すというのならわざわざ軍人になった理由にもなる。


 『そいつを死なせないために、俺は強くなった。死なせないためにより高い軍人としての地位を目指した。死なせないために革命軍との接触を望んだ。』


 淀みないあれは、本心だ。嘘であんなことは言えない。

 けれどそれらの条件に当てはまりそうな相手がまるで見つからないのだ。協力を申し出ても断られ、それ以上の情報は得られない。



 「心当たりはあるか?」

 「……ヴェリテくん?いや違うな。一番仲いいみたいだけどあの厳しすぎる対応が実は死なせたくないみたいな強い意志の裏返しには見えない。」

 「ヴェリテ・クロワールか。……だが会ったのはおそらく新兵の時、それだと軍人になった理由と前後することになる。」

 「正直一番ありそうなのはカルムクールさん、だよね。」

 「調べる限りはな。一番付き合いが長い、彼にとっては家族のようなものだ。」



 けれど彼は数年前に死んでいる。それも革命軍の手によって。

 どちらかといえば彼にはメンテ・エスペランサを殺すに値する確固たる理由があるのだ。



 「……もし彼が計画を無視してメンテ・エスペランサを殺せば何もかもパアだ。」



 それが一番不安だった。

 養父を殺された人間を、自分の手でなんの邪魔が入ることなく殺すことができる。そんな状況を彼に提供しているのだ。果たして彼は本当に計画に随ってくれるのか。



 「メンテ・エスペランサを恨んでるならそうだろうね。」

 「恨むだけの理由があるだろ。」

 「……でも代わりに、王国を恨むだけの理由もあるよ。」



 そういいながら俺に数枚の書類を渡した。極秘という赤い印の押されたそれに顔が引きつる。極秘文書をこんな軽々しく見せて良いのか。

 書類はアルマ・ベルネットの経歴について。そして随分と古い任務の報告書だった。経歴は読んだことがあり、その内容と変わりはない。任務の報告書はとある二つの都市の紛争についてが書かれていた。鉄の取れる鉱山都市と武器の製造販売をする都市。二つの都市を政府が潰し合わせたものだった。見る限り、外道の行いだが、今回の件とは関係がない。



 「それ、片方がアルマくんの故郷。」

 「……なに?」



 二つの都市の名前はフェールポールとアルムファブリケ。けれどプロフィールの出身地にはラルムリューと書かれていた。



 「本当の出身地はフェールポール。けどフェールポールの生き残りはほとんどいない。身寄りのない彼に責任を感じ、軍に連れて帰るために故郷じゃなくて支部のあったラルムリューを故郷と偽らせた。そうさせたのがアルマくんを拾ったカルムクールさんで、情報を操作したのが当時のアッセンさんだったんだって。」



 そんな話は聞いたことがなかった。当然だろう、あの局長が若いときとはいえ隠していたことなのだから、俺が見つけられるはずがない。

 しかし一度アルマ・ベルネットに接触したとき、戦う理由は「死なせないため」としか言わなかった。もしこちらを言われたならあっさりそれを信じただろうに。



 「報告書を出したのは、カルムクール・アム、か。恩人だと思ってたやつが実は両親を殺した奴、ってことになるな。」



 そんな人間を殺したのが革命軍総長メンテ・エスペランサ。アルマ・ベルネットはどんな印象を革命軍に抱いているだろうか。



 「振出しに戻るけど、国を倒す理由も、革命軍総長を殺す理由も両方あるんだよね。ってなるとやっぱネックはアルマくんが誰を守りたいか。そこに裏切るかどうかが置かれる。」

 「けどそれがまるでわかんねえんだよな。なによりこれみたいに情報隠されてるともう調べようもない。」

 「調べよう、っていうより、アルマくんが軍にきたのは8歳。それ以前の記録がないとはいえ十分な情報は情報局にあるはず。さらにアルマくんの保護の時点でアッセンさんが関わってるから、人との接触も含めて局長が全部知ってるはず。その局長がこれ以上裏切らなさそうな理由を出してこないとなると持ってる情報の中にその守りたい相手がいるはずなんだよね。」



 けれどこれがいない。一人たりともそれらしい人間が出てこない。

 アルマ・ベルネットは誰に対してもそこそこの関りしかしていない。非番の日に誰かと遊びに行くこともなく、誰かに手紙を送っている形跡もない。一切の娯楽もなく働き続ける純度100%の仕事人間だ。そんな人間が一人、死なせたくない人間がいるとなると分かりそうなものなのだが、わからない。



 「ここまでプライベート暴いておいて今更だけど、結局やっぱ彼を信じるしかないよ。私たちにわからなくても、きっとアルマくんにとっては何よりも大事なことなんだろうし。」

 「……まあそうだよな。裏切ることは絶対にない、とまで豪語してるとなると。」



 彼は疑われていること、疑われることを理解している。それでもなお言わないとなると、おそらく一切の他者の介入を許したくないのだろう。その誰かを守るのは、自分だけだと。




**********




 その日アサンシオン広場は終日封鎖され、そこに大きな台が組み立てられていた。ここ数十年使われることはなかった処刑台だ。物々しいその姿に思わず身を固くする。


 明日、この場所は戦場になる。いや戦場になるはずだ。

 明日、午後5時、この処刑台で革命軍総長メンテ・エスペランサの処刑が行われる。


 その前日たる今日、これといって大きな仕事は中将に与えられなかった。今日の仕事は上層部の会議への出席と部下たちへの指示確認。メンテ・エスペランサの身柄を拘束してからの時間は決して短くはなかった。前日になってバタバタするほど杜撰な計画はしていない。


 誰もかれもそわそわしていた。

 この戦いに参加するほとんどが、大きな戦を経験していない。多くの経験を積んできたもののほとんどが大火炎の戦い、ドラコニアで殉職したか怪我を負い引退していった。

 間違いなく、明日この広場は阿鼻叫喚になる。

 先日中将になったばかりだというのに、中将としての初陣がこんな大戦だなんて誰が思うだろうか。崩れてもいない髪を無意識に撫でつけていたことに気づき、落ち着きのなさを自覚する。


 たくさんの人が死ぬだろう。

 それは自分かもしれないし、部下たちかもしれないし、同僚かもしれない。

 正直、さっさと処刑などしてくれればいいと思う。

 処刑台に上ってから、処刑されるまでには短くはない時間がある。それh、革命軍を殲滅するために作られた時間だ。


 まったくもって、馬鹿馬鹿しい。

 そのせいでどれだけの兵が命を落とすだろう。やるならばとっとと総長を処刑し、各地へ兵を送り込んで虱潰しでもいいから捕縛したほうがましだ。

 結局、ここまで盛大に処刑を行うのも、革命軍と正面衝突するのも軍の威信、面子の回復のためだ。

 面子のために、俺たちは使いつぶされる。

 もっとも、中将といえばひよっこのひよっこ、中将の中では末席の俺に、会議での発言は「はいとイエス」しか与えられていない。



 「落ち着かないか。」

 「……当たり前だろ。」



 いつのまに近づいていたのか、すぐ後ろにベルネットがいた。だが思えばこいつの方から俺に話かけてきたことなどあっただろうか。長い付き合いだがこいつは俺を含めて誰にも興味がない。そう思っていたがそうでもないのかもしれない。今日のベルネットは俺と話をする気があるようだった。



 「お前だって緊張するだろ。今回一番大事なのはお前だぞ。もし首落とすの失敗してみろ。大惨事だ。」



 とんでもない大役を任されてしまったというのに、こいつはいつも通り余裕綽々といった風で飄々としていた。ベルネットの落ち着き具合を見ると、緊張しているのが馬鹿らしく思えてしまう。



 「緊張、はしていないな。ああ。」

 「だろうな。」

 「だが、浮足立ってはいる。」

 「ほお?」



 顔を見たところで、いつも通りの無表情だ。けれど浮足立っているのは本当かもしれない。普段喋らないくせに、今日は口がよく回る。



 「わくわくするんだ。」

 「……お前状況わかってんのか。」

 「明日ほどうれしい日は、きっとない。」



 うれしい、そんな柔らかい言葉がこいつの口から出る日が来るとは思わなかった。それも大きな戦争が起こるその前日、たくさんの人間が死ぬであろうこの場所で。

 いや、ふと思い出した。つい2週間前にも、聞いたではないか。


 『総長あいつの処刑台に上れるなんて、これほど嬉しいことはない。』


 ベルネットの本質に残虐さはないと俺は勝手に思っている。もしあるとすればそれは理由ある残虐さだ。必要だから、合理的だから。そこに楽しみは見出していない。戦争だってそうだ。戦うのは好きだが、殺すのが好きなわけではない。

 だからこそ、処刑人に選ばれて喜ぶ姿がアンバランスだった。



 「……お前は、殺しを喜ぶほどメンテ・エスペランサを恨んでるのか。」

 「さあな、明日になればわかる。」



 思わず眉を寄せる。今日のこいつはおかしい。いや処刑人に選ばれてからこいつはおかしい。

 こいつは言葉に遊びを残したりしない、無駄を嫌う奴だ。それなのに今のこいつははっきりとした答えを言わず、からといって突っぱねるでもない。誤魔化すような、いや弄ぶような色がある。



 「お前、何企んでるんだ。」



 思わず出た言葉だった。慌てて口をつぐみ、周囲を確認する。幸い声が聞こえるような範囲に人はおらず、俺たちの会話を気にしている者もいなかった。

 さすがに軽率だった。今処刑人という重要な立場にいる人間に疑いを持たせるような言葉をかけるべきではなかった。それはベルネットを危うくさせる。



 「……クロワール、前に聞いたな。」

 「何をだ。」



 突然、話が変わる。だがなんとなく、面倒くさいで切っていい気がしなかった。

 なんとなく、こいつを一人にすべきではないと、俺の中で警鐘が鳴らされている。



 「自分が正義だって、胸張れるかって。」

 「ああ、聞いた。」

 「じゃあお前は、胸張れるか。あいつを殺す、とか関係なく、向かってくる革命軍を殺し、味方にも多くの被害を出すこの戦いを終えた後、正義だって、胸張れるか?」



 赤い目はもう笑っていなかった。

 ただ淡々と問い、俺に答えを求めている。


 正義って、なんだ。


 2週間前こいつに投げかけた言葉だったが、投げ返されると、わからない。

 違う、わかっていた。正義が何かはわからないが、この戦いが不正義であることは、わかっていた。

 面子のために命を浪費する戦いを、どうして正義といえるだろう。



 「質問を変える。クロワール、お前は何のために戦う?」



 何のために、それはここに来た理由だった。



 「戦う理由は、仕事だからだ。そしてこの仕事についた理由は家のためだ。」



 没落宗教貴族なんて揶揄される現状を何とかするために、給与が高く功績を上げやすい軍人になった。

 ついさっきまで正義が何だと高尚な話をしていたのに、途端に俗っぽくなり尻の座りが悪くなる。けれどその辺の事情はこいつも知っているはずだ。



 「俺に正義だのなんだのを聞くわりには、俗だな。」

 「うるっせえな!俺も思ったよ!悪かったな俗っぽくて、だがこれが事実だ!」



 いつも通り、鼻で笑われた。かあっと顔が熱くなるのを感じる。正直に答えればこれだ。こういうところが癇に障る。


 ベルネットはもう興味がないとでもいうようにさっさと歩きだしてしまった。引き留めるべきか、迷う。

 これ以上俺が何を言えるだろう。言ったところでどうせはぐらかされるだけだ。

 だが執務室にいないでこうしてわざわざ一人で広場の下見に来たあいつも、きっとああ見えて一人でいるのが落ち着かなかったのだろう。



 「おい待て!」

 「……なんだ。」

 「……飯食い行こうぜ。」



 珍しく、呆然としたような顔を見た。最近こいつの新しい表情を見ることが多い。



 「……なんだ急に。」

 「俺の中将昇進祝いだ。奢れ。」

 「断る。俺だってお前に祝われた覚えがない。」

 「じゃあ俺はお前の分奢ってやるからお前も俺の分奢れ。これであいこだろ。」

 「意味が分からん、ひとりで行け。」



 歩調を緩めることがないが、返事をする、ということはおそらく本当に嫌なわけではない、と経験則から判断する。本当に嫌な時は相手が誰であろうと完全無視を決め込むのだこの鉄面皮は。





 なんだかんだといいながら結局ベルネットは俺と飯を食うことになった。

 個人的に街でこいつと飯を食いに行くのは10年の付き合いの中でも初めてだ。無表情で食べているが、今更気にすることもない。

 右手でコップを持った時、ふと視線を感じた。

 ベルネットは、俺の右手の指を見ていた。



 「昔っから思ってたけどよ、お前、なんで俺の指を見るんだ。」

 「……見てたか。」

 「おお、よくな。」



 ベルネットは気が付いた時には俺の指を見ている。もちろん、俺の指は欠けているわけでも妙な形をしているわけでもない。いたって普通、特徴のない指だ。

 けれどベルネットは俺の指だけを見る。まるで俺の指に何かあるように。



 「お前、右手でメイス振るうだろ。」

 「ああ、まあな。」



 ベルネットは、珍しく少し考え込むような素振りを見せた。鉄面皮なこいつから表情を読み取れること自体少なく、考え事をするときもおくびにも出さない。けれど今のこいつは明確に何か考えていた。躊躇しているのか、言葉を選んでいるのか、わからない。



 「……怪我には気をつけろよ。」



 ようやく出た言葉そんな月並みで、こいつには珍しい言葉だった。

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