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会い見ゆ (4)

お久しぶりです。亀更新ながら再開させていただきます

メンテの隣で話をしていると、部隊の前方が騒がしいことに気が付いた。波のように騒めきが波及する。敵襲、ではないだろう。そうであればざわめきよりも先に銃声や嘶きが響くはず。



「……誰か来たみたいだ。」

「こちらの方にも仲間がいたのか?」

「ソンジュ、僕ら革命軍はこの国のどこにでもいるんだよ。」



穏やかにそう良い、訳知り顔で前方へと目をやった。どうも彼には私に見えない何かが見えているような気がしてならない。

しばらくして、一群を割るように道ができる。農民風の男が一人いた。少し驚いたような顔をしてそれからメンテさんの前で膝をつく。



「はじめまして、だね。革命軍総長のメンテ・エスペランサだ。よろしく。それから膝をついたりしなくていい。僕らは革命の徒であり上下もなく平等だ。」

「は、はい!俺はマイルズ・リッチモンドです。ここから先の西の村の者で、本隊がこちらに向かっていると聞いて伝達に。」



リッチモンドと名乗った農夫は戸惑うようにそう言った。その間にも疑念やら畏敬やらが入り混じった視線をメンテに送るが彼自身はそれを気に留めることもなく柔和な笑みを浮かべたまま話を聞いていた。疑念の正体といえばメンテの柔らかな物腰であったりその若さであったり。なんにせよかの戦火を巻き起こした革命軍の頭目にはとても見えないそれのせいだ。二代目とはいえ総長は総長。それなりの覚悟を持って会い見えたというのに蓋を開ければ人の好さそうな青年だ。例えば彼が田舎貴族の次男坊だとでも言われればきっと誰も疑いもしないだろう。それほどまでに彼の容姿は苛烈さを孕む革命軍の色に見合わない。



「ああ、この先の村のことならさっき彼から聞いたよ。農村らしいね。できれば馬を休めたいと思ってるんだけど。」

「それが、本隊は進路を変えた方がいいかと……。」

「何かあったのかい?」

「先日、つい数日前から王国軍がなぜか村に逗留してるんです。しかも小隊でもない、それなりの兵の数で。」



思わず顔をしかめた。なぜ動きがばれているのか。それについては致し方ないといえる。王国軍の情報局はなかなかに優秀だ。これだけの人数で移動していればどこかでその動きを知られてもしようがない。

だがこのタイミングで待ち伏せでもするように村に逗留するのは不自然だ。



「おそらく待ち伏せしているのかと。」

「待ち伏せ、ねえ。……それは潰しに来てるってことでいいのかな。」

「コンケット・オペラシオンの件で弱体化しているあちらがそんな無謀なことを?おまけにこんな場所で……。」



本隊の動きがばれているのであれば、王国軍は最上の場所、もっともアドバンテージを持てる場所で待ち構えるだろう。だがこの場所は戦に向いている土地とは言えない。地面はここしばらく湿地で馬は扱いづらく歩兵とて足を取られやすい。それはお互いにとって不利なものであり、無駄な犠牲者を出しかねない条件だ。待ち伏せする場所の選べる王国軍があえてそこを選ぶ理由が見えない。タイミングだってそうだ。この部隊は本隊。姿の見えない革命軍の核だ。叩くのに人数も時間も惜しまないだろう。そうであれば最善の場所を選び、何週間も前から戦いに備えた布陣作りに励み確実に刈り取れるだけの用意はするだろう。

それなのに、数日前の逗留、弱体直後、足場の悪い地域。いささかお粗末すぎる。



「君の村は確か、戦に向いているような……城砦の様なものや壁や門はなかったな。」

「ええ、本当に長閑な村で、畑と田んぼ以外何にもないような場所です。」



その言葉の裏には「なのにどうしてうちの村が、」という嘆きが見て取れた。



「……このあたりの地域は確か、第6番中将の管轄に当たる。」

「6番部隊か。誰か警戒すべき軍人は君から見て誰かいるかい。」

「……中将はもちろんのことですが、少将のヴェリテ・クロワールですかね。ドラコニアの件で王国軍の弱体化が著しく、若くして少将の席についた者で。……彼はたぶん、メンテさんとほとんど変わらないか、下くらいの齢だったと。……むしろ村一つ程度に留まるのであれば中将ではなく少将である彼が来ている可能性も高いと。」



同時に芋づる式に彼の性格や噂についても思い出す。まさに『青い』という言葉が似あう青年だった。メイスを振り回す熱血漢で、まじめで敬虔な宗教信者。銀縁眼鏡の奥の神経質そうで過激そうな目が印象的だった。



「……彼ならありえなくもないかもしれない。タイミングなんてお構いなしに交戦してきそうだ……。」



少将、という肩書を持っているとはいえそれは上が空いて押し上げられるような形。彼に理性的かつ最善の選択ができるかというと、あまり知らない私からしても怪しい気がする。根回しや策略が苦手そう、よくいうなら正直そうな彼ならば、確かに見逃してはくれなさそうだ。



「ヴェリテ、ヴェリテねえ……、メイスを使う兵士だったっけ。」

「知ってるんですね。まだ大して実戦で成果を上げているわけでもないのに。」

「まあ、ね。クロワールって確かドラコニアの貴族だったろう。順番を考えればそこの次男坊。さらに言えばメイスなんて使いづらい武器を使う兵卒は風のうわさで聞いたから。」



ああ、やはり油断ならない人だ、とひとりごちる。名前一つでここまで予測をつけるとは。穏やかそうに見えてその実切れる。ドラコニアで聞いた、といってもドラコニアでの戦いのとき、彼はまだ総長でも何でもない革命軍に籍を置くだけの年若い青年だったろうに。その時聞いた貴族の名前なんてよく覚えていたものだ。あれ以来宗教貴族なんてことごとく力を失い、もはや貴族なんて体面すら崩れかけているというのに。

しかしリッチモンドが首をかしげる。



「いえ、クロワール少将ではありません。それに逗留しているのは6番部隊でもないと思います。」

「……なんだって?」

「ヴェリテ・クロワール少将は俺も知ってます。以前から村は6番部隊の管轄だったので顔も知っていますが、今回逗留しているのはクロワール少将ではなく、他の部隊です。少なくとも今まで俺たちの村に来たことがない奴らです。」

「ほかの……?」



いよいよ雲行きが怪しくなる。ヴェリテ・クロワールであれば無謀な策に踏み切ることもあり得ると思ったが、彼ではない。その村が、この地域が彼の管轄であるというのに、だ。

つまりほかの中将部隊がわざわざほかの管轄を冒してまでこの革命軍本隊を迎えようとしているのだ。



「メイスくんじゃない……そうか、ありがとう。その部隊、何か特徴ってあるかい?見た目でも何でも、些細なことでもいい。」



メンテがどこか落ち着かない様子で言った。この様子は私が革命軍に来てから二回目、コンケット・オペラシオンのことを提言した時以来の反応だった。落ち着きがあって、何もかもをお見透かしたような穏やかな琥珀の目。その目がかすかに揺れている。



「ええ、部隊を率いる将官は、年恰好はあなたと同じくらいか、それより若いくらいで……黒の短髪。背はあまり大きくありません。一見少年に見えるくらいの童顔です。」



黒髪童顔。没個性的な特徴だ。それだけでは絞れない。けれど他部隊の管轄に首を突っ込んでまで革命軍に接触しようとする中将には覚えがあった。



「……その中将、武器は?」

「確か、ずいぶんと細く薄い鞘に入っていましたが、剣だと思います。」

「剣じゃない、あれは刀だ。」

「ソンジュ、誰だかわかったのかい?」

「ええ、ほぼ間違いなく。」



黒髪童顔。年に見合わぬ怜悧な赤い目。幼いながらに上官からの覚えもいい優秀な青年。

何より喜んで迎えにいくほど、革命軍に恨みのある中将。



「……第3中将、アルマ・ベルネット。」



間違いなく、村には彼がいる。

後見人であり、上司であり、家族のように慕っていた第3中将カルムクール・アムは、先日のコンケット・オペラシオンの件で戦死した。紛れもない革命軍、メンテ・エスペランサの手によって。

彼は、ドラコニアの後のように飄々としているだろうか。いやそんなはずがない。

彼は怒っているだろう、憎んでいるだろう、恨んでいるだろう。

あのとき、革命軍に寝返ろうとしている私に彼は「したいようにすればいい」と言った。そしてその話をほかの誰にも漏らすことはなかった。だからこそ私はひっそりと軍から逃亡することができた。

だが、これだ。寝返って早々、私は、私たちは彼にとってもっとも大切であろう人を奪った。



「アルマ、アルマ・ベルネットか……、」

「メンテさん、進路を変えましょう。このまま進んではいけない。」

「その中将はそんなにも危険なのかい?この良いとはいえない地質、タイミング、準備期間で本隊を待ち構えるような浅慮な青年兵が。」

「そういう問題ではありません。たとえ状況から見てどれだけ浅慮であろうとも、それこそ罠の可能性がある。むしろ罠ですむかどうか……、」



不思議そうなメンテに対してうまい言葉が見つからない。そうだ。客観的に見れば彼はそんなに軽快すべき対象ではない。まだ幼く、中将にだってなりたて、大きな戦にでたこともなければこれと言った戦果を挙げたわけでもない。

けれどあれはいけないと感覚として感じるのだ。


三番中将アム中将部隊には二匹の狗がいる。凶暴で躊躇なく人の喉笛に噛み付くような狗。狂犬二匹を御せるのは直属の上司であるカルムクール・アムのみ。王国軍内でまことしやかに囁かれる噂。それは蔑みであり賞賛であった。



「舐めてかかって近づけば、間違いなく襲撃される。村に着くどころか近づくことすら避けたほうがいい。彼は狂犬です。勝算よりもきっと革命軍に噛み付くことを優先させます。」



理屈ではない。けれど彼はそういう質なのだ。

しばらく考えるようにメンテは顎をなでた。

どうするのか、私にはわからなかった。けれど私は退くのが最善手だろうと考える。


革命軍へと寝返ろうとしたとき、彼は誰にも言わずにおいてくれた。それに対して恩を仇で返すようなまねを私はしたのだ。まさかカルムクール中将が、という言い訳は通用しない。コンケット・オペラシオンに関する情報を流したのも、そこを襲撃するように提案したのもほかでもない私なのだから。間接的にとはいえ、かの朗らかに笑う人を殺したのは私なのだ。



「ううん……、」

「メンテさん、ほかにも道はある。なにもあの村に寄らずとも良いでしょう。危険を冒してまでそちらへ行くのは得策じゃない。」

「いや、君にそこまで言わしめるとなると、気になるなあ。会いたくなってしまう。」

「っな……!?」



そんな好奇心のような気持ちで近寄ってもらっては困る。危険人物には近づくべきではない。それも革命軍の核のいる本隊であればなおさらだ。



「……メンテさん、血迷わないでください。彼は革命軍を恨んでる。十中八九、益無益関係なく交戦しようとするでしょう。何より革命軍の十八番はその身軽さと少数精鋭による奇襲。待ち伏せする敵を相手取るには向きません。」

「まったく、ソンジュの言うとおりだよ。確かに待ち構える相手に向かっていくのは僕らの優位性が失われてしまう。僕らには僕らにあった戦い方がある。その通りだ。」



つい、と彼は後ろにいる誰かに向かって手を振る。つられてそちらのほうへ目をやるとショートカットの少女がいた。いや少女ではないのだろうが、そばかすの散る頬のせいで少女のように見えてしまう。見覚えはないが、それはいまさら過ぎる。姿を持たない革命軍。すべての顔を知るのは不可能だと、ほかでもない隣の総長がいつかに言っていたのだから。



「地図、貸してくれる?このあたりの地形を知りたいんだ。」

「どうぞ。」



不機嫌そうに見える少女は迷うことなく一枚の地図を渡した。嫌な汗が流れる。思案顔で、王国軍と接触する方法を探す。どうか何の策も見つけないでくれと願うが、きっとそれは叶わないだろう。


黙ってメンテのそばで待つ少女を見る。年はおそらくアルマと同じくらいだろう。小さくはない荷物からは私にはわからない機械が飛び出していた。手を見ると女性らしくも子供らしくもない凹凸の多い兵士のものだった。背中には口の長い筒、大振りな銃が担がれている。幼げに見えるが良く見ればそれは兵士以外の何者でもなかった。



「よしわかった。」

「……新しい針路ですか?」

「まさか。このまま直進するよ。でも村までは行かない。途中で止まろう。」

「止まる……?」



メンテはまたずっと遠くを見た。きっと今の彼には村のあたりまで見えているに違いない。そこにいる、あったことのないアルマの姿も含めて。



「熱烈歓迎してくれるならこちらもそれに甘えて迎えに来てもらおう。わざわざ村に行く必要は、」



そこまで言ってなぜか彼は言葉を切った。



「メンテさん?」



彼は本当に小さな声で「ああ、そういうことだったんだ」と呟いた。心得たように、ふふ、と笑う。けれど彼が何に気がついたのか、何に笑っているのかわからない私と少女は思わず眉を顰めた。



「いや、おもしろいね。これは罠だ。」

「だからそうだと、」

「罠であり、僕らに対する招待状さ。パーティー会場も決めてくるなんてちょっと思わなかったけど。」



身体が強張った。何がどう得心いったのかわからないが、彼にとって針路を変えずにいくことは決定事項のようだった。



「地図ありがとう。」

「いえ、」

「それからまだ聞きたいことあるんだけど良いかな。」



不服そうな顔をしながらも少女は後方に戻らずメンテの言葉を待つ。



「アルマ・ベルネットと確か同期だったよね。君から見てベルネット中将はどんな感じだい、ヒルマ?」

「まさか、」



さらに機嫌を悪くし、眉間にしわを寄せながらヒルマと呼ばれた少女は口を開いた。

設定上の大きなミスがあったので一部改稿させていただきました

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