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異界  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
7/10

出渕 陽介(19)

 7-①


 頬が緩むのを止められない……最高だ。この世界は最高だ!!


 ……犬や猫ではもはや満足出来なくなっていた。理由などない、強いて言えば好奇心だろうか。

 一度で良いから……いや、出来れば何度でも、人を殺してみたい。ネットで注文していたマチェット(鉈)が届いたその日、俺は遂に行動を起こす事にした。

 お気に入りの白いパーカーのフードを目深に被り、サングラスを掛け、マスクを着ける。新品のマチェットは鞘に収めてベルトに吊るし、パーカーのポケットには使い慣れた折り畳みナイフを忍ばせた。準備は万端、さぁ…いよいよだ。

 頭の中で何度もシミュレーションしながら目的の場所へ向かう、県道44号線下のトンネルだ。此処は普段から人通りが殆ど無いのだが、現地の下見を続けている内に、平日の夜の11時頃に一人の女性が通るという事が分かった。

 腕時計に目をやる、10時57分か……いよいよだ、俺は高鳴る鼓動を抑え切れず、足早にトンネルに入った。


 7-②


 ……おかしい。このトンネルはどこまで続くのか。オレンジ色の照明の下、俺はトンネルの中を歩き続けていた。腕時計の針は既に11時30分を指している。このトンネルは何度も下見に来た。たかだか30m程度しかなかったはずなのに…人間の歩く速度が大体時速4kmと言われているから、2km近くも歩き続けている事になる。

 俺はこの不可解な状況に頭を悩ませていたのだが、そんな事はどうでも良くなった。向こうの方からコツコツとヒールの音が聞こえて来たのだ。

 待ち侘びていた今日この時に備えて、入念に下見をして、あれだけ何度も頭の中でシミュレーションしてきた。それなのに……それなのに……っ。

 この土壇場になって、俺の心には迷いが生じていた。




 ……最初の一撃はどちらにすべきか。新しく買ったピカピカのマチェットか? それとも犬猫の解体で使い慣れたナイフか?




 うーん、でも記念すべき一撃はやっぱり派手な方が良いよな。やはり当初の計画通り、マチェットで行こう……遠くに人影が見えた。

 焦ってはいけない。今すぐにでも獲物に駆け寄って一撃食らわせたいが、いきなり走り出したりしたら相手が身の危険を感じて逃げ出すかもしれない、標的の表情が確認出来るくらいの距離まで近付かなくては……焦ってはいけない。

 いや、待てよ……それを言うならこのマスクとサングラスも相手に警戒心を抱かせてしまうかもしれない。よくよく考えれば、相手に顔を見られようが息の根を止めてしまえば、関係ないじゃないか。よし、これも外してしまおう!!

 獲物はどんどん近づいてくる。獲物の女とすれ違うまであと10秒くらいの距離だ。俺は心の中でカウントダウンを開始した。

(10…きゅ!?)

 ……考えてもみなかった、まさか向こうの方から襲いかかって来るとは。女がいきなり飛びかかって来た。女は俺を押し倒して馬乗りになると、両手で首を絞めてきた。

 俺は女の手を振り払おうとしたが、もの凄い力で振り払う事が出来ない。徐々にぼやけてゆく視界の中で、女が “にぃぃぃっ” と笑っているのが見えた。この表情、どこかで……?

 ああそうか。あの恍惚とした顔は、獲物をナイフで解体して帰ってきた時の俺の表情にそっくりなのだ。

 ………………ふざけるな!! 思い知らせてやる……どちらが狩る方でどちらが狩られる方なのか。

 俺はポケットに忍ばせた折り畳みナイフを女のこめかみに突き刺した。

 女は甲高い悲鳴を上げ、俺から離れた。刺された箇所を押さえて地面を転げ回っている。俺は咳き込みながらもマチェットを取り出し、女の両脚を斬りつけた。

 女が悲鳴を上げる。これでコイツは逃げられない。初めての獲物だ…じっくりと…丁寧に…心ゆくまでいたぶって…そして最後に………ダメだ、想像しただけでゾクゾクする。

「あ流7害SみUKcちし!!」

 女は憎々しげに俺を睨みつけ意味不明な言葉を発した。何言ってんだコイツ、外人か?

「何言ってっか……全然分かんねぇんだ……よぉぉぉっ!!」

 ついカッとなって、女の頭にマチェットを叩き込んでしまった。俺は、ザックリと割れた傷口から吹き出した生暖かな液体を顔中に浴びた。

「何だこれ…………すげぇ…………超キモチイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」

 はぁ……ヤバイ。これはヤバイ………あれ、もう終わりか? ナイフを傷口に突き立て抉ったが、開いた傷口からは血がゴボリと音を立てて溢れるだけだ。

 何だ、もう終わりか……そう思った。だが、そうではなかった。

 脳天をマチェットでカチ割られ、ナイフで抉られたはずの女が逃げ出したのだ。

 両脚は使えなくしてある。だが、女は匍匐前進のように両腕で這いずって逃げ出した。

 俺は驚いた。女が生きていた事もそうだが、それ以上に女の這いずる速度が恐ろしく速い事に。

「ふふふ………あはははははは!! 逃がすかコラアアアアアア!!」

 俺は女を追って走り続けた。遠くに光が見えた、トンネルの出口か?

 トンネルを抜けると、そこは雪国ではなく、不気味な場所だった。血のように真っ赤な空に、黒々とした森、遠くに塔のような物も見える。ここは一体どこなんだ?

 いや、そんな事よりあの女はどこだ? あっ、いた。

 俺は女に近付いた。女は息も絶え絶えで、全身血塗れに…あれ?

 トンネル内ではオレンジの照明のせいで気付かなかったが、女の体から流れている血は、まるで墨汁のように真っ黒だった。お気に入りの白のパーカーも黒く染まっている。まさかコイツは……

 俺は、マチェットとナイフで女を解体バラした。

「えっ? マジ? 人間じゃないの?」

 やっぱりだ、こいつらは人間じゃない。ここはこの人間の皮を被った謎の生物の棲み家と言う事らしい……って事は………殺し放題じゃーん!!

 遠くの方で、何人かの人間…いや、怪物が歩いているのが見えた。

 

 頬が緩むのを止められない……最高だ。この世界は最高だ!!


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