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異界  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
6/10

朔田 秀徳(43)

 6-①


7月5日


 この世界で見たものをこのノートに記しておく事にする。万が一に備えて、私の身元も書いておく。

 名前は朔田さくた 秀徳ひでのり、43歳、住所は〇〇県××市△△町□-□、株式会社白山に勤める会社員だ。

 腕時計の日付けを見る限り、私がこの世界に迷い込んで既に二日が経っているらしい、出口は未だに見つけられない。

 どうやってこの世界に迷いこんだのか、酔っ払って家の近くの公園のベンチで寝てしまった所までしか憶えていない。目を覚ましたら深い森の中にいた。空が、見た事のない色をしている。



7月6日


 遠くに見えるいびつな塔のようなものを目指して歩き続けているが、未だ森の外に出られない。

 どうやらこの世界には昼も夜もないらしい、あの血のような色をした不気味な空は、明るくなる事も、暗くなる事もない。時計を見る限りでは、今は7月6日の夕方5時らしい。

 木になっていた紫色の果実で飢えと渇きを満たす。ほとんど味はしないが、毒は無さそうだ、身体に変調は見られない……今の所は。



7月8日


 とうとう森を抜けて、塔にたどり着いた。間近で見た塔は鉄骨や木材、何かの機械の残骸、何かの動物の死骸などが、てんでデタラメに繋ぎ合せて作られていた。倒壊せずに立っていられるのが不思議なくらいだ。塔の上の方で何かが動いていた。一瞬、人間のようにも見えたが、あれは人ではなかった。気付かれる前に、一旦森に身を隠す事にした。



7月9日


 身を隠せそうな小さなほら穴を見つけた。ここを隠れ家にする事にした。森に身を潜めながら、塔の様子を伺う。塔の上部で何かをしていたものが外壁を伝って地上に降りてきた。シルエットこそ人型だが、それの全身は真っ黒なゲル状の物質で出来ていて、全身に黒い湯気のようなものをまとっていた。口や鼻は無く、赤いガラス玉のような目が二つ並んでいた。

 バケモノは何処かに行った後、鉄くずを持って戻ってきた。奴は持って来た鉄くずを右脇に抱えると、塔の外壁をするすると登って行った。あの塔はまだ建設中ということなのか。あの塔は一体?



7月12日


 バケモノが、何処からか子供を攫って来た。小学校低学年くらいの男の子だ。奴は、連れてきた子供を、足下に落ちていた大きな石で頭部を何度も殴りつけて撲殺した。

 情け無い事に、私の体は恐怖で動かず、奴の凶行を隠れて見ている事しか出来なかった。奴はしばらくの間、ジッと少年の死体を見ていたが、不意に自分の顔をこねくり始めた。おぞましい光景だった。顔の次は腕、腕の次は足と、奴が自分の体を粘土細工のようにこねくり回してゆく内に、奴の姿はどんどん殺された少年に近付いてゆき、しまいには殺された少年と瓜二つの姿になった。

 そこに別の少年がやってきた。もう一人の少年は奴の足下に転がった死体を見て、目の前の少年が偽物だと気付いたのだろう、一目散に逃げ出した。私には、逃げ出した少年を追いかけようとしたバケモノの背中に石を投げ付けて、全速力で逃げる事しか出来なかった。



7月18日


 発見される恐怖に怯えながら、森に身を潜めて塔の様子を伺う日が続く。殺された少年の遺体は野晒しになっていたのを隠れ家の近くに埋めた。逃げた少年も探してみたが、見つかったのは彼が履いていたと思われる靴が片方だけだった。無事でいれば良いのだが。

 相変わらず、奴らは何処からともなくガラクタを持って現れては塔の上へと運び、また何処かへと去って行く。1匹だけの時もあれば、10匹以上で現れる事もある。奴らが抱えていたガラクタの中に自動車のドアがあった。あれは一体何処から持って来たものなのか。もしかしたら、奴らの行く先に元の世界への出入り口があるのかもしれない。



7月19日


 奴らの後を追う事にした。このノートはこの隠れ家に置いてゆく。


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