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8.爽朝

 翌朝、とてもすっきりと目が覚めた。


 ちゃんと私が眠った後に鍵を閉めて出て行ってくれたのだろうヴィゼル先生も居なく、一人きりの反省房で敷いた毛布から体を起こし、両腕を空に向かって大きく伸ばして背中を反らせる。

 パキポキと背中の骨が鳴り、気持ちがいい。

 体に掛けていた毛布を畳んで立ち上がれば、案の定、服には皺がついて、ぐっすり眠ったとはいえ寝る前のお手入れができなかった肌は少しかさついていた。


 昨夜は横になってからの記憶が殆ど無い。

 色々なことがありすぎて、自分で思っている以上に疲れていたのかもしれない。


 反省房には窓が無く外が見えないので、今が何時ごろなのかわからないけれど。これだけぐっすり眠れたので、もしかしたらお昼も近いのではないかと思い至り、そういえば『前の時』はランが朝一番に私の様子を見に来て……私は彼女に、デートの約束をしていた婚約者のゲイツに行けなくなったことを伝えるようにお願いしたんだわ。そして、彼女はそのまま私の代わりにゲイツと町に行き……どんどん親しくなるのよ、ね。


 でも今朝、彼女は私のもとへ来なかった。


 だから、大丈夫よね? 私、彼への伝言をお願いしていないんだもの。

「コーラル・ユリングス、起きたのか?」

 突然扉の外から掛けられた声にびっくりしたけれど、それがヴィゼル先生のものだと気付いて慌てて挨拶を返す。

「はい! おはようございます、ヴィゼル先生」

 ガチンと重い音がして鍵が外され、ドアが開けられる。

 ああ、本当に鍵をして、誰もここへ来ないようにしてくれていたんだわ。

 ドアの向こうの明かりの中から手を差し伸べるヴィゼル先生へ、両手に畳んだ毛布を抱えて近づく。

「良く眠れたようだな」

 毛布を取り上げた先生は、私の様子を見下ろしてそう言う。

 廊下にも窓が無いので、光源は焚かれている火しかないのだけれども……。

「ヴィゼル先生は……お疲れ、のようですね」

「ああ。まぁ、な」

 いつも鋭い先生の目の下に、くまができているように見える。


 職員室に向けて、短い廊下を二人で並んで歩く。


 反省房帰りが恥ずかしいなんて言っちゃ駄目よね、無理を言って一晩居させてもらったんだもの。

 休日とはいえ職員室に居るであろう先生方の視線を覚悟してドアを潜ったけれど、覚悟に反して中はガランとしていた。

「今日は休日だからな。休みの日に出て来る先生も居ない事はないが、せいぜい昼過ぎからだな。今の時間は誰も居ないから安心するといい」

 反省房の入り口のドアに鍵を掛けたヴィゼル先生がそう教えてくださった。

 言われて見てた窓の外は朝焼けで、今がまだかなり早い時間であることを知る。

「そう、なんですね」

 もしかしたら、これから彼女がここへ来るのかも知れない。その事に思い当たり、体が震えた。

「どうした? 寒いのか」

 私の様子に気づいた先生に気遣われ、強張った頬に笑みを作る。

「いえ、ひとけの無い職員室はなんだかちょっと怖くて」

 そう誤魔化せば。「ああ、そうかもしれんな」と頷いてくれた。


 一人になるのが怖くて毛布を片付けに行くヴィゼル先生に付いて行き、用具置き場のドアを開けるのを手伝う。

「ありがとう」

「ふふっ、どういたしまして」

 記憶にあるヴィゼル先生は私に冷たいばかりだったのに(私の態度に問題があったので仕方の無いことでしたけど……)そんな彼に「ありがとう」なんて言ってもらえたのが嬉しくて、頬が熱くなる。

 毛布を所定の場所に戻す先生を待ってからドアを閉めた。


「お茶でも飲んでいくか? コーラル・ユリングス」

「え?」

 さらりと言われた言葉が信じられずに、思わず彼を見上げる。

「寮の朝食にしてもまだ時間があるだろう。準備室の方になるが、いいか?」

 早く職員室ここを離れたいけれど、一人になるのも怖かった私はありがたく先生のお誘いに乗った。




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