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優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる.


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75.褒美

 重厚な雰囲気の学園長室には国王陛下以下、エイシェン殿下も含めた貴賓席の面々と共にジャンクルーズ殿下が並び、私とラン……いえ、レイランそして学園長とヴィゼル先生がそこに呼ばれた。


 そして、もう一人。


 宮廷魔術師に両脇を固められたクレイロール伯爵が、部屋の中央に立たされている。

 国外へ向かおうとしていたところを、捕らえられた彼は、罪状を読み上げられて尚、涼しい顔をしていた。


「一臣下としてお願い申し上げるならば。国王陛下におかれましては、小娘のれ言など真に受けずに、かしこまつりごといていただきたく存じます」


 顔色一つ変えずに正面に対峙する国王陛下へと頭を下げて訴える彼を、陛下は黙って見つめる。


「永きに渡り、誠心誠意仕えて参りました私めの忠信。国王陛下ならば、わかっていただけると、信じております」


 身を起こした彼が、陛下へと視線を向けたとき、壁を背に立っていたレイランが動き、彼の顔を張り飛ばし、髪の毛をわしづかみにすると、足払いして転がした伯爵の顔を床に押さえつけた。


「申し訳ありません陛下。まさか陛下に、魔法を使おうとするとは思いませんでした」


 伯爵を上から押さえつけたまま、冷静な様子でそう謝罪するレイランは、今までの幼げな雰囲気を払拭し、まるで私よりも年上の女性のように見えた。


「ぐぅぅっ! 貴様、父を、父を足蹴にしおって! 見つけたのだぞ! お前の探していた、覚醒魔法を操る人間を!」


 ふわりと漂う魔法の気配に、彼がレイランに向かって魔法を放ったことを知る。

 彼女の元へ行こうとしたとき、レイランは大人びた表情で悲しげに笑った。


「もう……とうの昔に、貴方の魔法への耐性はできているんですよ。……それでも、信じたかった」


「な、んだと。馬鹿な! お前は、いつだって言いなりだった!」


 わめく彼の脇腹に、彼女は上に乗ったまま膝で蹴りを入れた。


「ごふっ」

「黙りなさい。貴方の魔法は決して強くは無い。一度に掛けられる相手はひとりのみ、それも射程範囲はとても短い」


「だ……っ、黙れっ――ごふっ」


 もう一度同じ場所に膝蹴りを受けた伯爵が、白目を剥いて昏倒したところで、レイランが彼の上から退く。


「お見苦しい所をお見せし、申し訳ありませんでした」


 気まずそうに陛下に謝罪する彼女に、陛下は鷹揚に頷いた。


「よい。シロウネ草に関する一切の黒幕である、クレイロール伯爵を捕らえ、審問の後、然るべき刑に処す。レイラン、耐性のあるおぬしも同行を願えるか」


「承知致しました」


 ぐったりとしたクレイロール伯爵を、扉の前を守っていた兵士二人が両脇を抱えて引きずり、レイランもそれに続いて退室した。





「さて、待たせたな。コーラル・ユリングスよ、此度の試合、見事であった。最後の炎龍など、造形も美しく、素晴らしいできだった」


「ありがたきお言葉、嬉しく思います」


 国王陛下の御前で膝を落とし、緊張しながら謝辞を伝える。

 一国の主たる陛下は、気安い様子で声を掛けてくださるけれど。その存在感に気圧されて、早く御前を辞したい気持ちでいっぱいになるけれど、努めて冷静さを保つ。


「そなたの魔法に敬意を表し、褒美をとらせようと思うのだが。欲しいものはあるか?」


 陛下の問いかけに、自問する。

 レイランは罪問われず、クレイロール伯爵も捕まった。

 ゲイツは……規則は破ったけれど、罰せられるようなことはない。

 だとすれば、お父様の罪の軽減の嘆願だったのだけれども、それを願えば、陛下の右後ろに控えていた宮廷魔道師の方が罪には問わないと応えて下さった。


「父君はこちらで保護させていただいている。ひとしきり話し合いもしたが、実際に彼の手が掛かって作られた麻薬は出回る前だったこともあり、不問に付すことに決定している」


「ああ、本当に……っ。ありがとうございます」


 嬉しくて、泣きそうになりながらお礼を言えば、魔道師の方も微笑んで頷いてくださった。


「では、そなたの願いはなんとする?」


 国王陛下に促されてもう一度考えるけれど、お父様の事でほっとして気が抜けて頭が回らない。

 早く答えなければと焦る私の側へ、王太子殿下の隣に立っていたエイシェン殿下が進み出ると、私の腰に腕を回して国王陛下へと向き直った。


「では、私と彼女の婚姻を認めていただきたい」

 え? こん、いん?

 彼の言葉に、国王陛下は困ったように顎を撫でる。


「ううむ、しかしなぁ。希有たる、炎の覚醒者であり。我が国の宝となりえる娘だ」


 宝と言いつつも、国防の為の駒であるということは私自身も理解できる。

 国の長が、私のような……危険な能力を持つ人間を、他国に渡したいと思わないことも、理解の範疇だった。


「国王陛下、彼女がエイシェン殿下と婚姻を結ぶ事により、彼の国と我が国が一層結びつきが強固なものとなるでしょう」


 ジャンクルーズ殿下が、父である陛下に向き合いそう進言する。

 まさか、彼から援護があるとは思わなかった……だって、国のために力を使えと。殿下の駒となれと仰っていたのに。

 なんだか楽しそうな顔をする国王陛下に、ヴィゼル先生も進み出る。


「エイシェン殿下とは旧知の仲ではありますが。彼は一度決めたことは、容易に曲げない、しつこい……いえ、粘り強さを持つ男です。彼の希望を叶えるならば、こちらの無理も聞き入れて、今回の麻薬の件も丸く収めて下さると、確約を頂いておりますので。何卒、私からも、お願い致します」


 ヴィゼル先生の言葉に、国王陛下はいよいよ楽しそうな顔をする。


「そうか、既に根回しは済んでいるようだな。ならば、いいだろう。不足なく結婚できるよう、手はずを整えよう。それでよいか? コーラル・ユリングス」



 私に否などなく、陛下のご厚情をありがたく受け入れた。


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