69.卒業試合4
「おぬし、最後の魔法、詠唱しなかっただろう」
「……あの風の中で、聞こえたんですか」
隣を歩く彼を見上げれば、正面を向いたままこちらを見ずに「否」と答えた。
「口の動きでわかる」
「読唇術ですか」
感心すれば、向こうも感心してくる。
「ほぉ、知っているのか。その通り、読唇術だ。魔法は詠唱がわかれば、対処が容易いからな」
詠唱する言葉と、魔法の発動する時間との誤差で魔法を見切るのだと教えてくれたけれど。……その誤差というのは、常人では反応し得ない僅かなものなので、多分そんなことができるのはこの人くらいなのではないかしら。
「よい試合をした、今度はルール無用でやりたいものだな」
「申し訳ありませんが、遠慮させていただきます」
「遠慮はするな。そうだ、おぬし程の腕ならば、宮廷勤めをするのだろう、わしは武官を目指しておるから、卒業したらそちらで戦うのもいいな」
「ご遠慮……いえ、私はあなたとは戦いませんから」
「なに、ちょっと訓練所の端を借りればいいだろう、場所はどうにでもなろう」
「聞いてますか? やらないと言っているでしょう」
「嫌よ嫌よもと言うからな! では、わしはここまでじゃ。おぬしの健闘を祈ろう」
自分勝手な事をひとしきり言い、無理矢理私の手を取って握手すると、大股で闘技場を去った。
……あ、後ろ髪が、ちょっとチリチリになって……。
見なかったことにして、視線を闘技場に戻した。




