68.卒業試合3
第三試合のゲイツが不戦勝で勝ち上がる。
ランが出場した第四試合。
試合開始と同時にランに切りつけていった男子生徒が、吹っ飛んだ。
「勝者! ラン・クレイロール!」
審判の宣言が上がり、呆然としていた会場が沸いたけれど。
「…………?」
胸の前で両手を握りしめたまま、なにが起きたかわからずに首を傾げる。
「防御魔法を重ね掛けして、それで相手を弾くのに使ったのか。タルブの剣をギリギリで躱し、振り下ろした腕の勢いを利用して吹っ飛ばしたんだな。素晴らしい技術だ」
いつの間に隣に居たのか、こんがりと日焼けした魔法騎士科の脳みそまで筋肉の彼が、腕を組んで目を細め、大きな声で独り言を言っていた。
「魔法科などには勿体ない逸材だ。だが、うむ、卒業後に手合わせを頼めるだろうか、いや、勝ち上がれば自ずと対戦することになるな、ふむふむ」
顎に手を当て、ぶつぶつと呟いている彼から、二歩ほど横に離れておく。
思い切り吹っ飛んだ男子生徒はどうやら気を失ってしまったらしく、闘技場の中央でランだけが陛下に向かって礼をし、私から離れた場所に立って観ていたゲイツの所へと戻った。
「うふふっ。ゲイツ君と特訓した成果、出せたでしょ?」
「ああ、見事だった」
彼は目を細め、愛しそうに彼女のふわふわの髪を撫でれば、彼女も本当に嬉しそうに、彼のその手を受け入れる。
「神聖な闘技場で、いちゃこきおってからに」
心底忌々しそうな口調で、隣の大男が呻いた。
「これより、二回戦に入ります――」
選手を呼ぶ審判の先生の声に、私の名が上がる。
「おぬしも、わしも、この場に恥じぬ試合をせねばならん。全力を、死力を尽くして、し合わねばならん。行くぞ」
彼は傍らに立てかけてあった大剣を取り上げると、闘技場内に入る前に深く一礼し、力強く足を踏み出して中央に歩き出した。
巨大な背中を追って、私も闘技場の中央へと小走りで続いた。
大きな体躯と、その体と同じくらい巨大な大剣を軽々と振り回す彼の名は、カルグール。
魔法を貶すような発言をするだけあって、魔法に頼らない力業が得意らしく、私が飛ばす氷の刃を軽々と剣で叩き落とす。素晴らしい反射神経に、客席が息を飲む。
「ヌルい、ヌルいぞ! お前の本気を見せてみろ! 行くぞ!」
切り込む時には、正しく声を出して突っ込んでくる。
どうしてわざわざ、隙を作るのかしら? いえ、きっと、誘いなのよ、隙に入れば何か仕掛けてくるに違いないわ、用心しなくては。
切り込んできた剣を受ける為に作った分厚い氷の盾を、一撃で粉砕される。
切り替えしてくる大剣を横に飛んで避け、ついでに大きく間合いを取る。
おかしいわね……直線的な攻撃しかしてこないわ。いえ、きっと、油断したところに、何か仕掛けてくるのよ。
「“氷の盾よ道を塞げ”“閃光よ散れ”“風の刃よ疾く駆けよ”」
剣を手に突っ込んでくる大男の前に氷の障壁をつくり、閃光で目くらましをして、風の刃で彼の足元を狙う。
「ふんっ! ふんっ! んがぁぁっ!」
大剣が氷の壁を二撃で破壊し、その瞬間瞬いた光に目を焼き、次に私の放った風の刃を目を瞑ったままで大きなそのブーツで踏みつぶした。
目では無く、感覚で察知して、力業で魔法を打ち消すなんて……っ。
「ふーっ、ふーっ……やるじゃねぇか。ちぃと、ヤバかったぞ」
痛めた目を顰めて鬼のような形相で見下ろされ、思わず身震いする。
腰を落とした彼が、地面を蹴ってこちらへ走る。
「――っ! “氷の刃よ疾く駆けよ”」
足を止めるための氷の刃を放ったけれど、切り伏せるのではなく俊敏に避けられ、慌てて逃げながら次の魔法を詠唱する。
「“氷柱よ乱立せよ”」
手を翳した先に、一抱えほどの氷の柱が、どんどんと立ち上がり彼の行く手を阻むけれど、彼はそれを避けたり手にした剣で叩き切ったり、ものともせずに突き進んでくる。
「“風の刃よ疾く駆けよ”“氷の壁よ行く手を塞げ”」
風の魔法で攻撃しつつ、周囲に氷の壁を築き上げる。
時間稼ぎの技に、彼は真正面から突っ込んで、重い大剣で氷を削ってゆく、その気合いにおののいたとき。
「コーラルさーん、相手にのまれたら駄目ー! そんな筋肉なんて虚仮威しよっ!!」
聞こえてきた観客席からの声に、私は怯みそうになった気持ちを持ち直す。
「んだこら! 誰の筋肉が虚仮威しだぁぁ!」
リコルさんの挑発に怒り狂う彼を見れば、余計に気持ちが落ち着く。
氷の壁を突破されたけれど、私の心は凪いでいた。
そうね、魔法で攻撃するのに、筋肉の有無なんて関係ないものね。
私自身では気付かなかったけれど、彼の筋肉に怖じけていたのかもしれない。
両手を開き、大きく前に差し出す。
「“風よ舞い上がれ”」
彼を中心に風が渦を巻いて巻き上がる。
「くっ! “自重増量ぉっ!”」
巻き上がる風に耐えるため、剣を地に突き刺し、魔法で体を重くする。
風を起こすだけでは殺傷能力が無いので、ヴィゼル先生の防御魔法は反応しない。
「くっくっく! この程度の風ぇっ! なまヌルいわっ!」
渾身の力で剣に縋り、さっき散々貶していた魔法まで使っているのに、まだまだ虚勢を張る彼に私は大きく頷いた。
温いのでしたら、もっとあたためてあげなくては。
「では、炎を追加いたしますね?」
追加した炎が、風の魔法と相まって……見事な火柱が上がり、防御魔法が砕けた瞬間に炎を完全に消した。
呆然とする彼に、火傷をした様子が無いのを見て、ホッとした。
「勝者、コーラル・ユリングス!」
勝敗の宣言を受けて、悔しげな顔の彼と一緒に陛下に一礼をしてから中央を去った。




