67.卒業試合2
第一試合は魔法科の生徒を威圧して歩いていた大男で、対戦者の棄権による不戦勝となっていた。
対戦相手を念入りに威圧していたものね。先生方もなにも言わないってことは、この程度の威圧で降りるようならば、それまで、ということなのかしら。
威圧はすれども、地位や権力を盾に、ではなかったものね。
「第二試合、魔法騎士科ジャンクルーズ・ケイ・バロッグス。魔法科コーラル・ユリングス」
「はい」
「はいっ!」
名を呼ばれ、殿下と共に闘技場の中央に向かう。
闘技場内には数名の教師が、審判として立ち会っている。
「お互い、実力を出し合おう」
「はい」
闘技場の中央で一度国王陛下に向かって礼をして、それからお互いに向き合い、握手を交わしてから距離を取る。
殿下が腰のサーベルを抜き、私は魔法を詠唱する。
「素手の相手と戦うのは、心理的にやりづらいものだな」
「“氷の刃よ空を走れ”」
詠唱と同時に方向を定めるために左手を殿下へと向ければ。魔力により具現化された三日月形の氷の刃が殿下へ向かって走る。
「ふんっ!」
一刀の下に、空を走った氷が両断され、砕けた氷の破片がキラキラと舞い散った。
致命傷間違いなしの速さだったのに、簡単に打ち落とされたことに驚く。流石は、実力重視の魔法騎士科で選抜されるほどの腕前の持ち主。
驚きながらも、距離を取る。剣の間合いと魔法の間合いは違うから、広く距離を取っている方が魔法を使うこちらの有利となる。
「氷の魔法とは、手加減をしてくれる」
口の端を上げて凶悪な笑みを作る殿下が、地を蹴って間合いを詰めてくる。
「“氷の盾よ私の正面に出現せよ”」
私は目の前に透明な氷の盾を張り、次に備える。
「“風よ我が走りを助けよ”“火よ刃に宿れ”」
殿下の足が風の助力を受けて加速し、振りかぶられる剣に恐怖を感じるけれど、目の前にある氷に意識を凝らし。魔法を発動する。
殿下の火を纏った剣が振り下ろされた瞬間、氷の盾の向こうに、見えない程の高温の炎の盾を出現させる。
振り下ろされた剣は溶け、熱から自分を守る為に作っていた氷の盾も溶けて、壊れそうなほど薄くなっている。
「“氷の刃よ空を走れ”」
溶けた剣を手に、防御のできない殿下の胸元へ、私の放った氷の刃が肉薄し、当たる寸前で何かに弾かれたように霧散した。
「勝負あり! 勝者、コーラル・ユリングス!」
勝利を宣言する声を聞き、ホッとして緊張を解いた。
「剣を溶かす程の高温すら操れるのか」
感心するような殿下の声に、そちらを向けば。半ばまで溶けて曲がった自分の剣を、しげしげと眺めながら、殿下が近づいてきた。
「はい、あの。灰すら残さずに焼き尽くすことも、できますよ?」
自慢に聞こえたら恥ずかしいので、照れながらそう伝えれば。生暖かい視線が刺さった。
「可愛らしく言っているが、内容が凶悪すぎるな。まぁいい、多少なりとも、お前に炎を使わせる事ができたんだから、よしとしよう。一応、陛下に礼くらいしておくぞ」
思わずそのまま帰ろうとしていた私を引き留めた殿下に習い、貴賓席に居る陛下にスカートを小さく持ち上げ片足を引いて腰を落とした。隣で殿下も、左手を後ろに右手を胸に当てて深く礼をする。
周囲からの拍手を受けて立ち上がり、殿下と並んで歩き、中央から下がる。
「では、頑張れよ。上で観ている」
私の肩を叩いてから闘技場を去る殿下を見送った。




