66.卒業試合1
観覧席に防御魔法の掛けられた闘技場の真ん中に、私達は並んでいた。
正面の貴賓席の中央は国王様の席らしいけれど、革張りの立派な椅子にはまだ主賓は座っていない。その代わり、両脇にはこの学園の卒業生である王女様とジャンクルーズ殿下の兄君でいらっしゃる皇太子殿下が既に席に着かれている。
そして、フレイム……隣国の第五王子であるエイシェン・オルフィズ殿下も皇太子殿下の隣に、凜々しく正装して席に着いている。
先程入場して見上げた彼と目が合った時に小さく頷かれ、気持ちが引き締まった。
「“強固なる守りを与える”」
ヴィゼル先生が、出場者ひとりひとりに丁寧に守りの魔法を掛けてゆく。
最後に私の前に来た先生が、他の選手と同じように魔法を掛けてから、ちらりと私の目を見たけれど、なにも言わずに先生方が並んでいる列へと戻った。
「いま掛けた魔法が壊れれば負け、あるいは本人が戦意喪失を宣言すれば負けとなる。後は教師が試合続行が不可能だと判断すれば試合終了だ。武器の使用は各人一つまで、魔法の波状攻撃及び守りの魔法が壊れた後の攻撃は厳禁とする、禁止事項に抵触したものは失格だ。何か質問はあるか」
ヴィゼル先生の問い掛けに誰も声を上げないのを確認し、説明の終了を宣言した後、私達生徒は闘技場の端の控えの場へ戻った。
「では、組み分けを発表する――」
学園長先生が浪々と読み上げていく組み合わせに、私がジャンクルーズ殿下を見れば、彼も私を見ている。
王子なのだから、できれば貴賓席にて観覧して頂きたかったわ。よりにもよって、初戦で当たるなんて……。
「よろしく頼むよ」
彼が臨むならば、私は不戦敗しなければいけないと、戸惑った私に気付いたのか、彼は苦笑いを零す。
「そう心配そうにしなくていい。ちゃんと、全力で戦おう」
「承知致しました。よろしくお願い致します」
ホッと胸をなで下ろし、笑顔で頷いた。
「こちらとしてもメンツはある。そう簡単に決着を付けるつもりは無いか――」
「魔法科主席だが知らんが! 今年も優勝は魔法騎士科がもらい受ける! 魔法科は例年通り、早々に棄権するがいい」
殿下の言葉を遮った猛者は、隆々とした体躯のよく日焼けした青年で。彼は、何か恨みでもあるのか、威圧的に私を見下ろしてきた。
「格好だけは一人前なようだな。だが、その細い体でなにができる。詠唱している間に、打ち倒してくれようぞ」
この人が魔法騎士科の……実技部門一位の方ね。私、できれば、この方と当たりたかったわ。だって、心置きなく戦えそうだもの。
「彼、魔法騎士科なのに、魔法を否定されてましたね……」
言いたいことだけ言って、魔法科の他の生徒の所にも棄権を促しに行く彼の背を見送る。
「すまんな。訓練のしすぎで、脳みそまで筋肉が詰まってしまったんだ」
真顔でそう言う殿下に、冗談の気配が感じられないのが少し怖い。
突然ファンファーレが鳴り、国王陛下が貴賓席に着席すると、場内の空気がぴりっと引き締まる。
会場中が立ち上がり、陛下に向かって一堂礼をし、陛下が右手を挙げてから、全員が着席する。
今回は陛下がいらっしゃるので、必然として場内外の警備が強化されている。陛下の後ろに、宮廷魔術師の正装を着た方も数名控えているし、闘技場のそこかしこに騎士の方達が配されている。
「陛下を呼べば、付属が増えるだろうと思ったが。まぁ、これだけ居ればなんとかなるだろう」
私の隣でそう呟いた殿下を見上げると、彼はちらりと私を横目で見下ろし、口の端を上げた。
「使えるものは親でも使うもんだ」
陛下にまで該当する言葉ではないと思うのですけれど。
でも、これだけ厳重な警備ならば、きっとなにが起こっても大丈夫。……たとえば、私が魔法を暴走させたとしても、止めてくださるわね。
「陛下がよく、来て下さいましたね」
「コーラル・ユリングス。呑気にしてるなよ」
安堵と感心を混ぜて呟いた私に、殿下は呆れたような声を出した。
「お前はここで、自分の価値を知らしめなければならないんだ。いいか、誰もが、納得する勝利を勝ち取れ」
真剣な目でそう望まれたから、私も表情を引き締めて頷いた。
「承知いたしました」
元々勝利するつもりではあったけれど、殿下はただの勝利ではなく、誰もが納得する勝利をせよと求められた。
なにかあるのでしょうけれど、敢えてなにも聞かずに頷いた。
私の望みと、殿下の要望は合致しているのだから、なにも問題は無い。
――私は力一杯戦えばいいだけだもの。




