表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/76

60.ティータイム3

「君が卒業試合で優勝したなら、君の大切な親友をプレゼントしよう。全力で、戦って手に入れたまえよ」


 彼がそう話を締めくくり立ち上がると、どこに居たのか三名の男性が、食堂の陰の方から現れて、床に倒れ伏す男性を二人が担ぎ、もう一人はクレイロール伯の肩にコートを掛ける。

 柔らかなコートを翻し背を向けた彼に、はっとする。

「待って下さい! 私に親友をプレゼントするというのは、どういうことなんですか」

 きっと彼女に掛けている魔法を解いてくれる事だとは思いつつも、言質を取れない曖昧な言葉を寄越した彼を睨む。

 彼は立ち止まり、少し上を向いて考える仕草をすると、半身を引いてこちらを向いた。

「ふむ。無粋だが、まぁいいだろう。君が卒業試合で優勝したならば、僕はランに掛けた魔法を解くと約束しよう」

「……彼女に掛けている魔法は、貴方を信じさせるものですよね。それを解いたとき、彼女は貴方の発言がウソだった事を知るのでしょう? それでは、彼女の心が壊れるのではありませんか?」

 睨み付けるようにそう尋ねれば、彼は愉快そうに声を上げて笑った。

「あはははっ! そうだね、きっと、彼女は希望を失ってしまうだろうね! もしかすると、抜け殻のようになってしまうかもしれない」

 危惧したとおりに、彼はひねくれた罠を仕掛けていた。

 どうすれば、いい? どうすれば、彼女を無事に彼の呪縛から解放できるの?

 落ち着いた風を装いながら、ゆっくりと口を開く。

「そんなものをプレゼントして頂いても嬉しくありません。彼女の希望は壊さずに、貴方を信じる心を消すことはできないのですか? できないのであれば……」

 両手に一つずつ炎の塊を出現させる。

「いっそ、今、この手であなたを屠ります」

 私の荒ぶる心に呼応するように、手の中の炎がうねると。主人を守るように男達がクレイロール伯の前に立ちふさがった。息絶えている従僕は、手放されてまた床の上に逆戻り。

「男爵令嬢が、伯爵に手を出せばどうなるか、おわかりか!」

 クレイロール伯にコートを着せ掛けていた男性が、私の炎に怯えながらも、毅然とした態度で意見してくる。


「私の炎は、地獄の業火よ。消し炭一つ残さず、焼き尽くすことだってできるわ」


 証拠の一つも残さないと言い切れば、男達は更に殺気立ち、どこに持っていたのかナイフを手にしている。

 伯爵子飼いの暗殺者なのかもしれない。それとも伯爵くらいの身分になれば、周囲に侍る人間は全て武に秀でているのかしら。

 三人の殺気を浴びて、冷たい汗が背中を流れ落ちるけれど。臆した様子は絶対に見せるものか。


「まぁ、待ちなさい」


 クレイロール伯がのんびりとした声で、男達に声を掛けると。三人はナイフを手にしたまま、殺気を鎮める。

「カードは僕が持ってるんだ、そんなに怯えなくても大丈夫だよ」

 三人を宥めるように肩を叩きながら前に出てきた彼は、炎を持ったままの私に微笑む。

「僕を殺せば、魔法は解けるだろう。だが間違いなく発狂するだろうね」

 誰が、とは言わない彼を、私は睨み付ける。

「それでは、そうならない方法を教えて下さい」

「なに、簡単な話さ。僕が堅く信じ込ませたその殻を、薄皮を剥くように、一枚一枚やさしく剥がしてやればいい。ゆっくり時間を掛けて、慈しみ深くね。そうすれば、心を壊すことなく彼女は自我を保てるだろう」

 魔法を行使した様子も、嘘を言っている様子も無い彼に、無理は承知で再度尋ねる。

「殻を剥く魔法を、教えていただけますか?」

「おや? なんでもかんでも教えを請うなんて、随分と甘いお嬢さんだ。生憎と、僕は魔法を使えるほどの魔力は持っていなくてね、魔法を習ったことすらないんだよ。僕の覚醒した魔法はね、僕の中にある、普通なら魔法を発動できないほど僅かな魔力で行使しているんだ。君も覚醒しているならわかるだろ? 覚醒魔法は、普通の魔法よりもずっと魔力の消費が少ないことを」

 その言葉には頷かざるを得なかった。

 覚醒してはじめて知る事だけれど、彼が言うように魔力の消費がとても少ない。だから、大きな魔法が使えるようになる。

「たとえ、彼女に掛けた魔法を解除できなくても、彼女はいまのままなだけだよ。元の世界へ帰る事を生きる希望に、この世界に染まる事無く、生きてゆくだけだ」

 それのどこに不都合があるのかと、彼の表情が言っている。

 悔しいけれど、ここで彼を殺すことはできないことだけは、よくわかった。


 両手に出した炎を消して、ただ手を握りしめた私を、彼は満足げに見て身を翻すと、振り返らずに食堂から出て行き。



 ――拳を握りしめる私が取り残された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ