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優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる


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6.反省房3

 狭い反省房の中は何も無い。


 石造りの壁、床は板張りで部屋の隅に厚手の毛布が二枚、きちんと畳んで置いてある。

 一枚を床の上に敷き、その上に座ってもう一枚で体を包む。

 慣れている自分に苦笑いが漏れる。


 以前はここに入るまでに暴れ、入ってからも取り乱し、さんざん疲れてから毛布に包まっていた。 


 記憶の中では、この硬い毛布も惨めさを増す要因だったけれど。この毛布、こんな暗い湿気た房の中に置いてあるのに、お日様の良い匂いがする。ちゃんと洗濯して、干してあるのね。

 分厚いから、きっととても洗いにくいわよね、それなら普通の毛布にすればいいのに……ああ、そうか……分厚くなければ、きっとこの床では痛くて眠れないのね。


 初めて気付いた発見に、止まったはずの涙が零れた。


 気付いてみれば床だってそうだわ。わざわざ石の床の上に、木が敷いてあり、腐りやすそうなものなのに、腐食ひとつない。


 この房は生徒を苛む場所ではなくて、本当に反省を促す場所なのね。その為に、しっかりと手を入れられている。

 毛布に涙を吸い取ってもらいながら、心が軽くなる。


 前のときと違って、今回は街で彼と一緒にしっかりご飯を食べてきたお陰で、こんなに前向きで居られるのかもしれない。

 彼に出会わなければ、あの覚醒で死んでいたかもしれないし。

 深い青味が掛かった緑ターコイズグリーンの瞳と、彼の力強い腕を思い出すと、頬が勝手に熱くなった。

 ゲイツという婚約者がありながら、私ったら……っ。

 別に、あの方が好きってことではないもの! ただ、覚醒を手伝って貰ったし、私の周りにはちょっと居ない、たくましい体をしてらしたから……恥ずかしくて、照れてしまうだけだもの!


 そうよ、覚醒! 私、覚醒したんだもの、以前のように炎を扱えるはずだわ!



 毛布の合わせ目から右手を出して、手のひらの上に無詠唱で火を発現させる。

 手のひらの半分程のオレンジ色の炎の塊が宙に浮かび、房の中を仄かに照らし、その温もりを私に分けてくれる。記憶にあったとおり、何の問題も無く操れる私の炎。

 意識をすれば、小さくなり、望むならば人を飲み込む程大きな炎を操ることも出来る。

 炎の熱さを変えることだって出来る。

 こうして暖を取る事ができて、明かりも得られる。素敵な私の力。


 暖かい炎の塊を眺めながら、落ち着いて来たるべき未来を思い出してみる。



 そうだわ、私が破滅した時、お父様が行っていた悪事が露見するのよね。私の目の前で、私への見せしめとしてお父様が先に斬首された。思い出したく無い無残な記憶のせいか、お父様の様子をはっきりと思い出すことはないけれど、胸がむかむかと荒れ狂う。

 私の感情につられて目の前の炎も荒ぶり、慌てて気持ちを整える。



 お父様の罪状は確か……禁制の植物を地下で育てて隣国に売って、お金を儲けていたって。



 隣の国の第二だか第三王子だかが、卒業する時に行われる学科対抗の卒業試合に招待されてやってきていて。それが実は試合の観覧が目的ではなくて、我が家を秘密裏に調べて断罪するためって言ってたかしら。


 あの時の私は恐慌状態に陥っていたから、何があったのやらなかったのやら、はっきりとは覚えてはいないけれど。


 卒業まで一年を切ってしまった今……どうすれば、無事に卒業できるか、お父様を救えるのか。

 すぐに行動を起こさないと、時間なんてすぐになくなってしまうわ。



 まずは、実家の罪をなんとかしなくては。


 最近はランと一緒に居る事を優先して家に帰っていなかったから、問題の植物をどこで作っているのか皆目見当もつかないわ。情けないわね、私って。


 でも、あのお父様が……そんな禁制の植物なんかに手を出すかしら? 確かにお金が好きではあるけれども、道を踏み外してまで? そんな事が露見すれば、一代限りとはいえ、折角得た男爵という肩書きすら失ってしまうのに。



 湧き上がる疑問に、毛布の中で首をひねった。


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