54.特訓
翌朝、憔悴したリコルさんに詰られながら起床した。
「ひどい! ひどいよぅ、コーラルさんっ! ずっと一人でカティールさんの訓練を受けてたのよーっ! ずっと待ってたんだからぁっ!」
布団の上に飛び乗り、さめざめと泣くリコルさんの下からなんとか這いだす。
そういえば、昨夜はランの部屋に行って……動揺のまま鍵を掛けないで寝てしまったことを思い出し。そして、カティールさんとの特訓も、すっぽかしてしまった事も思い出した。
「ご、ごめんなさい。リコルさんっ!」
ベッドの上で彼女の前に座って慌てて謝れば、じーっと彼女に顔を見られる。
「コーラルさんが、なにも無く約束を反故にするわけがないでしょう? 理由も聞かずに一方的に詰るのはおやめなさい」
リコルさんと一緒に来ていたらしいカティールさんが、リコルさんを窘めてくれる。
「いいえ、私が悪いんです。本当にごめんなさいリ――」
再度謝罪しようとした口を、リコルさんの手に塞がれる。
「目、真っ赤よ? そんな顔で謝られるわけにはいかないわ」
リコルさんの優しさに、胸がじんわりと熱くなる。
「そうね、悔やむ時間があるなら、その分特訓しなくてはね?」
カティールさんの言葉に、リコルさんと私は恐る恐る彼女の方を向く。
怒ってらっしゃる……。
「さぁ! 昨日の分を取り戻しますわよ!」
いつもより充実した早朝訓練をこなし、朝食をしっかり食べ、授業を受ける。
そして、合間の休憩時間に、少しでも多くの魔法を覚える為に図書室へ通い、持ち出し禁止の図書を閲覧。
授業が終われば、またカティールさんの訓練を受け、訓練の終わりには魔法の課題が出され、夜間にそれを習得する。
同じ教室で学ぶランも、日々真面目に勉強し、小さな試験では私と同じに満点を取り。『回復魔法の覚醒』をしないまま、各種授業の実習でも、優秀な成績を出していた。
その合間に、ゲイツとの学園内デートと、殿下達との昼食等、彼等との時間もしっかりと取っているようだった。
私はすっかりと体力が付き、授業では教わらない類いの魔法を覚え、気がつけば、卒業試合の代表の一人に選ばれていた。
そして、彼女も成績優秀者として、卒業試合の代表となっていた。
「騎士課は殿下とゲイツ・グレンドルが入っているそうよ」
カンドリック様は肉体派と言うよりも、頭脳派なので、卒業試験の代表に選ばれる程の腕は無いらしい。殿下はどの科目についても平均して高得点であるとのこと。
卒業試合があと数日に迫っている。
フレイムには私にできることを頑張ると言ったものの。カティールさん達と特訓をして、心身共に鍛える以外……できることが思いつかない。
何度かこっそりランに接触をしているけれど、まるっきり無視されるし。
姿を消して、そっと手を繋いで声を掛けてもすぐに振りほどかれる。
それならと、心話の進化系である遠話を覚えて、触れる事無く声を掛けたけれど、最初は冷たい視線を向けてくれたのに、最近では眉を動かしてくれることさえ無くなってしまった。
それに卒業に向けての学園での授業外の準備もあって、時間も全然足りない。
放課後、基本の訓練を終えた後、突然カティールさんが
「今日は、野営の実地訓練を致しましょう」
そう宣言した。