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49.欠伸

 医務室を出た私は部屋へは戻らず、薄暗い廊下を早足で図書館へ向かう。


「おや、ユリングス嬢」

 鍵を閉めに来ていた当番の先生を見つけて、どうしても借りたい本があるとお願いし、少しだけ待って貰った。

 私は目的の棚から一冊の本を迷わずに抜き出し。カウンターで手続きを行って、急いで図書室を出た。

「申し訳ございません。ありがとうございました」

「どういたしまして。随分難しそうな本を読むんだね」

 初老の先生は、私の持っていた分厚い本を見て感心するようにそう言うと、ドアの鍵を閉め。他の施錠もあるからと行ってしまった。

 一抱えもある本を大事に抱え、部屋に戻る。

 この本に書かれているのは、私がどうしても覚えたい魔法。

 部屋に鍵を掛け、カーテンをしっかりと閉める。

 ランプの明かりを灯すのももどかしく魔法で光を作り、机について本を捲る。


「あった……」


 やっぱり、記憶にあったとおり、この本に書かれている。

 あの時は移動魔法のことを調べていたから、気にもしていなかったけれど。

 私は彼女と、何度も何度もあそこで魔法を調べた。見落としを危惧して、何度も……。

 その中で見つけていた、視認を防ぐ魔法と声を遮断する魔法、他にも色々あるけれど。あの頃は、こういった魔法は研究職や専門分野に進まなければ習得できないものと思っていた。

 でもそうじゃなかった。

 ものを動かす魔法ができた、それならもっと他のも自力で覚えることができる――一度見た魔法ならば、きっと。


    ◇◆◇◆◇


「あふ……っ」

 誰もこちらを見ていないのを確認して、小さく欠伸を零す。

 今朝方まで魔法の練習をしていたから、とっても眠い。このまま机に突っ伏して目を閉じてしまいたいわ。

 目尻に浮いた涙を指先で拭って、あともう一息だと教壇の方を見れば、ヴィゼル先生と目が合ってしまった。

 ジッと見つめられ、思わず顔が熱くなり、慌てて下を向く。

 は……っ、恥ずかしいっ!

 耳の先まで熱くなりながら、なにも無かった顔をして教科書の文字を追う。

 先生は私の欠伸に対して、なにも注意する事無く授業を進めてくださったので、ホッとしていたのに。


「コーラル・ユリングス。後で職員室に来るように」

 教室を出がけに、そう厳しい声音で言ったヴィゼル先生に、生徒達が顔を見合わせる。

「――っ。はい、承知しました」

 やはり見逃しては下さらないのね。

 周囲の同級生達が何事かと私の方を見る中、しょんぼりと返事をすれば、頷いて先生は行ってしまった。

「どうしたの? コーラルさん」

 席が近かったリコルさんに尋ねられ、恥ずかしさに頬を熱くしながら、教科書を鞄にしまう。

「実は……ちょっと寝不足で、授業中に欠伸を……」

 小さな声で言ったのに、リコルさんは目を丸くして、それから弾けるように笑った。

「あはははは。コーラルさん、珍しいわね! だけど、そんなの普通よ。そりゃヴィゼル先生の授業じゃ恐ろしくてできないけど。薬草学の時間に、わたし居眠りしたこともあるわよ!」


「だから、赤点ギリギリでしたのね?」


 カティールさんの冷ややかな声に、リコルさんが硬直する。

「コーラルさんも用事ができたことですし。ちょっとお話し合いしましょうねリコルさん」

「ひぇっ! いや、あ、あのね? カティールさん?」

 帰る準備をすぐ整えるように命じられたリコルさんは肩を落とす。

「用事が終わりましたらすぐに参りますね」

「ええ、いつもの場所で」


「早くきてねっ。お願いよっ」

 リコルさんの悲痛なお願いに頷いて、足早に職員室へと向かった。


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