41.学園
自宅の馬車で送ってもらって学園に戻った私なんだけれど……視線が、痛いわ。
それは、多分着ている服のせいなのだけれど。
今まで着ていた野暮ったい服を全部すらりとした形に誂え直したものだから。印象が違っているとは思うけれど、そんなにまじまじと見なくても……っ。
恥ずかしさに顔が熱くなるのを自覚しながら、だけど、恥ずかしがっているなんて知られるのも嫌で、家から持ってきた着替えを入れた鞄を持ち、しっかり顔を上げ背筋を伸ばして歩いて行く。
「ああ、誰かと思えば、ユリングス嬢か。随分と雰囲気の違う服を着ているから、わからなかった」
宰相のご子息であるカンドリック・シソーリム様に声をかけられ、戸惑いながら足を止める。
「シソーリム様。そんなに、変、でしょうか」
フレイムにも家の者にも好評だったけれど、学園にはふさわしくなかったかしら……。そ、そうよね胸が強調されてるし、体の線も出ていますし。
心配になり声を掛けてくれた彼に尋ねると、茶色の目を細めて首を横に振って否定してくれた。
「同級生なんだ、私の事はカンドリックで構わないよ。服は君にとてもよく似合っている、見違えたよ。今までの君とは違って、なんだか声も掛けやすい気がするね」
ゆっくりとした口調でそう言う彼に、ホッと安堵する。
「ありがとうございます。私の事も、コーラルとお呼びください。そう言えば、今日は殿下とご一緒ではないのですね?」
いつも彼と一緒に居るジャンクルーズ殿下の姿が無いのに気付きそう尋ねれば、苦笑いを返された。
もしかしたら、もう何度もこの質問を受けているのかもしれないということに思い当たる。
「……すみません。なんとなく、お二人が一緒に居るのが当たり前になっていたので。深い意味はないのです。女の子ではないのだから、御手洗いに一緒に行ったりもしませんものね」
「いや、アイツが便所に行っているわけではないが。ああ、そうだ丁度良いな。コーラル嬢、ちょっと時間をもらえるかい?」
今は穏やかに微笑んでいる彼だけれど、実は短気なことで有名で。二人の前で粗相をした者があると、彼が激しく怒り、殿下が宥めるという事が何度もあったらしい。
でもこうして話していると、そんなことが嘘のようにとても穏やかで話しやすい方だと思う。
そうよね……噂話なんて、あてにならないものね。私は私の目で見たことを信じなくては。
「荷物を部屋に置いてからでもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わないよ。では、食堂で待ってる」
「はい。すぐに参りますね」
足下に置いた大きな鞄を持ち上げ、部屋に向かう。
そう言えば、こんな風に男子生徒と気軽に言葉を交わしたのははじめてかも知れない。
それにしてもなんの御用なのかしら。もしかして、ランがらみで何か言われるのかしら。彼も最近ランと仲が良いみたいだから、ゲイツのように私に苦言でも……。
ぶるりと体が震えたけれど、彼はゲイツではないのだからと思い直して。大急ぎで女子寮へ持っていた荷物を運び込み、指定された食堂へと急いだ。