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優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる.


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40/76

40.約束

 教会から充分に離れたところで、思い切ってフレイムに訊ねた。

「フレイム、地下へ行ったこと覚えてる?」

 彼の左腕肘に手を掛け、連れだって歩きながら彼を見上げ、その表情を注意して見守る。

「地下へは行けなかったじゃないか。花を供えて祈っていたところに神父が戻ってきたんだ。だから地下には行けず、こうして歩いて――まさか」


 ――やっぱり……彼は、あの地下に行ったことを忘れていた。

 注意して見ていた彼の表情や態度に不審な点は無く、彼が嘘をついているとは思えない。

 視線を前に戻し、努めて穏やかな声で伝える。

「……地下へは、行ったわ。私が、炎で焼いて。貴方が氷の魔法で守ってくれて……なのに、彼女がやってきて――」

 小さく震えてしまった声に気づき、私の顔を覗き込んだフレイムの顔が曇る。

「彼女? 君が言っていた、親友だったという、あの?」

「ええ。その彼女が来て、魔法を使ったの。無詠唱だから何の魔法か、わからないけれど」

 言葉を濁した私に、彼の眉間に深いしわができる。

「まさか、俺は記憶を消されているのか?」

 消されて……? いいえ、いいえ違うわ。

 私は彼の腕を掴んでいる手に少しだけ力を込めて、彼の目を見つめ返す。


「違うわ。きっと、彼女は、時間を巻き戻せるのよ」


 カチンと何かが噛み合った気がする。この予想は正しいと、私の中のなにかが肯定している。

「巻き戻す?」

「ええ、そうすれば辻褄が合うもの。消し炭になった花も元に戻り、お父様は私と話したあの昼食の時間を失い、貴方は地下に入る前まで時間を戻されて地下での記憶は無かったことにされた」

 彼だけに聞こえるように小さな声で言いながら、背中に冷たいものが伝うのを感じる。

 歩く速度は遅くなったものの、歩みは止めないままで彼は顔を正面に戻す。

「では、君は? 君は覚えているんだろう? さっき、地下であった出来事を」

 訊ねられて頷いた。

「ええ、覚えているわ。彼女は言っていたわ、私に魔法を掛けすぎて、耐性が、できていると」

「魔法耐性……」

 言葉にしてゾッとする。私は一体どれだけ時間を戻されていたの? 魔法の耐性ができてしまう程、私は彼女に良いように時間を……奪われて。

 フレイムの肘に手を引かれていたから、なんとか足が歩みを止めず前に進み続ける。


 でも、待って――彼女の魔法が効かないということは、私は彼女に対抗しうるということ……?


 胸に湧いた希望にしっかりと自分の意思で足を動かし、彼を見上げる。

 見上げた彼の眉間は寄り、私を鋭く見下ろしていた。

「コーラル。君は案外、考えている事が顔に出やすいたちなんだな」

「初めて言われたわ」

 彼の視線に脅えながら、だけど、逃げずにその視線を受け止める。

「私、逃げたくないの。生きて卒業したいし、お父様も助けたい」


 ――それに、最後に彼女が言っていた「もうアンタに絆されたりしない、あたしの力で幸せを掴むんだ」という言葉が引っかかる。

 どういうことなの? だって、私の記憶の中で、彼女はたくさんの男性に求愛されて、幸せそうに笑っていたのに。

 それは彼女の幸せじゃ無かったの?


「私、ランと話がしたい……。いいえ、話をしなきゃいけない」

 きっと彼女はもっと何かを隠している。重要ななにか。

 そう決意したとき、昼を知らせる鐘の音が町に響き渡った。

 そちらに意識を取られたフレイムの肘から手を離し、しっかりと自分の足で立つ。

「もう、学園に戻らなくては」

 学園に戻ったらなんとしても彼女と話をしよう。

 離れた私の腕を彼の大きな手が捕まえる。

「君の目は正直だ。頼む、自ら危険な事に関わらないでくれ。君の父上の事はこちらがなんとかする、だから君は無事に学園を卒業することだけを考えるんだ」

 真摯な目が私を見下ろす。

 その目をしっかりと見返し、私の腕を掴む彼の手を取って両手で包み込む。

「卒業まであと少しですもの。大丈夫、私はちゃんと卒業するわ。だから、お父様のこと頼んでもいい?」

 厚かましいとはわかっていても、縋るような気持ちで彼にそうお願いすると、ホッとしたように笑みを返された。

「ああ、任せておけ。拒否されたら、学園などに返さずにこのまま攫ってしまおうかと思ってたのに、残念だ」

 そう言った彼だったけれど、真剣な表情になり彼の手を包んでいた私の手にもう片方の手を重ね、低い声で囁くように続ける。

「覚えておいてくれ。最終手段として、俺は君を攫う」

「……わかったわ。ありがとう」

 私に逃げ道を示してくれる彼の優しさが嬉しい。

 男爵家の……それも一代限りの男爵位を貰っているだけの我が家と、王族である彼に共に歩く未来は無いと理解はしているけれど。彼なら本当に攫ってくれそう。

 彼の温かい手に包まれた手を離して笑顔を返す。

「じゃぁ、頑張って参りますね」

「ああ」

 彼に背を向けて、振り返らずに歩いて行く。


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