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4.反省房1

 無事に夕食の時間までに寮に戻ることができた私は、身だしなみを整えて何食わぬ顔で食堂へ向かう。

 学園生が揃って食事をする食堂の席が、半分ほどしか埋まっていないのは、三日間ある休みに実家へ帰る生徒が多いから。


 私の実家もこの街にあるので、本当はいくらでも帰ることができるのだけれど……。


 一足先に帰っていたランも交えた級友たちが居る席に着いて、隣の席の女生徒と談笑しながら、街でしっかり彼と屋台を巡っておなかを膨らましてしまったのをちょっと後悔しながら食事が始まるのを待っていた私のところへ、学園で最も厳しいと定評のある魔法の授業を担当しているヴィゼル・エルゲルス先生がいつも以上に厳しい表情でやってきた。

 高位の魔法使いの証である瑪瑙のブローチでマントを留めた長身の彼は、正面を向いて座る私の背後で足音を止めた。


「コーラル・ユリングス、立ちたまえ。理由は、わかっているな?」


 低く威圧感のあるその声に、ラン以外の級友達は不安げに顔を見合わせるなか、私は音を立てないように椅子を引いて立ち上がる。

 心配そうに見上げる彼女達に、ヴィゼル先生から見えない角度で心配しないようにと小さく微笑みを浮かべる。

 ちらりと見たランは……眉尻を下げて、心配そうな顔でこちらを見ていたけれど。視線を外すほんの一瞬、口の端がククッと上がり、猫のように大きな目が弧を描くように細められた。


 記憶が無ければ、気のせいだと思えたのに。




「ついて来い」


 低い声でそう命じて歩き出した彼の後を、食堂に居る生徒たちの視線を浴びながら、しっかりと顔を上げてついてゆく。


 生徒が教師に歯向かうことは許されていないので、命じられれば従わなければならない。

 我が学園の教師陣は学びに対して真摯な人たちばかりなので、生徒が理不尽事な思いをする事は無いけれど。


 決して手荒に扱われる事は無くとも、彼の咎めを含んだ空気は心に刺さる。


「コーラル……」


 食堂の出口近く、男子生徒が固まって座る場所から聞こえた声の方へ視線を巡らせれば、魔法剣士科に通う私の婚約者であるゲイツの琥珀色の目が心配そうに此方を見ている。


 そう言えば、明日は朝から彼とデートの予定だったわね。

 明日は珍しくランとの約束も無く、久しぶりに彼と一緒にいられるから楽しみにしていたのに。


 残念だわ、記憶の通りなら明日の晩まで反省房に居なくてはならないんだもの。でも大丈夫よ、あの子……ランが、動揺している貴方を慰めて、それから私の代わりを申し出てくれるもの。

 反省房に入っている私の事を気にしつつも、きっと貴方は楽しむわ。だって、憔悴して反省房を出た私を抱きしめて、そう言っていたもの「すまない、君がこんな目に遭っているときに僕は彼女と……」ええ、貴方は彼女と楽しくデートしたんだものね。

 私が反省房を出る前に、デートから帰った彼女は真っ先に反省房にやってきてわざわざ教えてくれたもの「コーラル、ごめんなさい。悲しむゲイツ様を見ていられなくて、あたし、貴方の代わりを申し出てしまったの。彼、とてもステキね、エスコートもスマートで、二人で一緒に噴水を見ながらランチを食べたわ」ってね。


 初めて抱きしめられたのに、彼の腕の中がとても居心地悪かったのを覚えてるわ。



 ……あら、いけない、私、オーガのような顔になってなかったかしら。すぐあの記憶に引きずられてしまいそうになるわね。ふふふっ。

 自嘲する内心を押し隠しながら、明日の約束を破ることになる彼に小さく視線で謝罪し、顔を前に向け背筋を伸ばして背の高いヴィゼル先生の背中を追う。


 好奇の目に晒されながら食堂を抜けた私達は、職員室に向かっている。

 初めて行く場所なのに、職員室の奥にある飾り気のない扉が地下の反省房への入り口になっていることを、私は良く知っている。


 蘇った記憶の中。私は度々その房の中で過ごしていたのだから。




 はじめは、自分でやった覚えの無い咎で


 ――やがて


 婚約者の愛情を奪われ、覚醒で身を焦がし癒えぬ傷を負った私は、そのすべての怒りを彼女へ向かわせ、事ある毎に彼女を苛むようになる。

 級長という立場を利用し……彼女をよく思わない女性達を味方につけ。



 陰日向に、彼女を追い詰めていく。



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