38.ラン
前回までのお話(ザックリと)
主人公コーラルは、フレイムと共に協会の地下へ。
シロウネ草を燃やし尽くしたところへ、神父が降りてきて彼が隣国の人間だと知る。
そして三人の居る地下へ、硬質な足音がゆっくりと階段を下りてきていた――
ふんわりとした明るい色のワンピースに上着を着た彼女が、ふわふわの髪を揺らしながら降りてくる。
「……ラン」
私の前に立った彼女は、少し唇を尖らせて怒った顔を作る。
「もうっ! コーラルったら。こんな素敵な彼を独り占めするなんてっ! 新しい彼氏ができたら、教えてよねっ。あたしたち、親友でしょっ?」
右肩を小さく上げて、片目を瞑ってにっこりと笑う彼女に何も言えずに立ちすくむ。
この期に及んで、何を言っているの?
怯えるように半歩後ずさった私に、フレイムが心配そうな視線を送ってくる。
「でもぉ、ゲイツ君はどうするの? 婚約者でしょ? あっ! ごっめーん! もしかして、二股だった?」
後半を小声で内緒話をするように言ってきたけれど。隠す気が無いその声は大きい。
「もうっ、コーラルったら、顔に似合わず派手なんだから。ちょっとは自重しなきゃ駄目よ?」
親切ごかして言っているけれど、行動が派手なのは貴女でしょ? 私の記憶の中で、二股も三股もしていたのは貴女じゃないの。ぎゅっと私が唇を噛んでランを睨んだのを見た神父様が咳払いをする。
「ラン様。コーラルお嬢様で遊ぶのもその辺にしてください」
神父様がランを窘めると。
「えーっ。久しぶりだし、いいじゃなーい。神父サマが呼んだから、ゲイツとジャンとリックと四人でデートしてたの、切り上げてきたのにー」
神父様に向けて口を尖らせ、ゲイツばかりでなくジャンクルーズ殿下とカンドリック様とも一緒に居たと言って神父様に触れた彼女の手を、神父様は少し荒い動作で払いのけ、触られたところの汚い埃でも落とすように執拗に手で払った。
「身の程を知りなさい。お前が伯爵家の娘になれたのは、その能力があってこそ。お前自身に価値があるなどと思い上がるのではありませんよ」
吐き捨てるように言われた酷い言葉。だけどランは笑顔を崩さないばかりか、おどけたように肩を竦める。
「はぁーい。わかってまぁす! じゃぁ、あとはあたしにまかせてねっ。ほらほらぁ、巻き込んじゃうよ? 早く上に行ってってば」
急かすランに、鋭く舌打ちをした神父様は「ドアは開けておきます、会話には充分お気をつけなさい」そう言いおいて階段を登っていった。
「わかってるってばぁ、もうっ、心配性なんだからっ!」
頬を膨らませる彼女は、いつも通りで。
あれ程の態度を取られてもなお顔色一つ変えていない。
「君は、あの男に、何か弱みでも握られているのか?」
聞かずには居られないその疑問が、フレイムの口から出て、ランの表情が明るく輝く。
「えー? あたしの事、心配してくれるんですかぁ? コーラルが目の前に居るのに。もうっ、あたしってば罪作りよねっ」
恥ずかしそうに身を捩る彼女に暗い影はない。
何故あんな酷いことを言われて平気で居られるの?
「ラン……あなた……」
もしかして、貴女が私にしたことも彼らの指示で?
「あーっ、コーラルったら、その顔、またあたしを信じようとしてるぅー。本当にあんたって――救いようがないくらい、おめでたい人間よね」
最後の一瞬に苛立ちが溢れる。
階段の上からコンコンコンと忙しなく床石を蹴る音が聞こえ、上を見上げた彼女は「もうっ、ホントーにせっかちなんだからっ」と大きな声で呟くと、フレイムを見てにっこりと笑った。
「さてと、さっさと片付けますかっ! どうぞ、見てみて! あたしの取っておき!」
彼女がそう叫ぶと同時に、彼女から魔力があふれ出す。
目を開けていられないほどのその圧力に、思わずフレイムにしがみつき、彼も私を抱きしめてくれた。




