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37.神父様

 私が先に立ち、炎の魔法で足下を照らしながら地下への階段を降りる。

 たどり着いたドアの隙間から、やはりあの花の香りがする。

 ドアを引き開ければ、一面にシロウネ草が咲き乱れていた。


「これがシロウネ草か。確かに、伝え聞く形と同じだな」

 しゃがみ込み、指先で花弁を捉えたフレイムが、興味深そうに観察する。

「ええそうね。ねぇ、もう燃やしてもいいかしら?」

 左手に灯りの炎を、右手には業火を持って微笑む私に、フレイムは「存分にやればいい」と場所を空けてくれた。


「熱は私の魔法で相殺する。好きなだけ燃やし尽くせ」


 楽しそうなフレイムの声に背を押され、私は小振りな炎の龍を出現させシロウネ草を食らい尽くした。


 私が純粋に炎としての力を発揮する時に一番使いやすいのがこの龍の形だった。

 通常の炎よりもずっと高温になるのに、フレイムの魔法が一片の熱も私の肌に通さない。

 私の行使する魔法を阻害することもなく氷の魔法特有の寒さも無い。


 過不足無く熱を相殺する彼に、その凄さを実感する。


 炎の龍から私だけでなく壁も天井も守ってくれていた彼のお陰で、焦土と化した地面以外の被害は出なかった。

 土は真っ黒に焼け、ぷすぷすと煙を出している。

 熱は受けなかったけれど、集中して魔力を使った私は額に浮かんだ汗をハンカチで拭う。

「ありがとう、フレイム。お陰で思い切りやれたわ」

 思わず笑顔で振り返った私を見て、彼は愉快そうに肩を震わせて笑った。

「どうしたの?」

「いや、今まで見てきた中で、一番の笑顔だと思ってね」


 ドアの向こうで硬質な音が鳴り、フレイムが力いっぱいドアを押し開こうとしてもびくともしない。

「閉じ込められたのかな?」

 頑丈なドアに耳を付けて向こう側の様子を窺っていた彼だが、ドアから体を離すと手のひらをドアに向けた。

 次の瞬間ドアが凍り、内側から破裂するように砕けた。


「埋めるくらいしてもらわないと。この程度で足止めできるとでも?」

 砕けたドアの先に立つ神父様へ訊ねながら、フレイムは砕け散ったドアの破片を足で避け、前を向いたまま後ろに立つ私に手を伸ばした。

 私はその手を取り彼の横に並べば、彼に腰を抱き寄せられ寄り添うように立つことになる。


 神父様の手にしていた蜀台の火が揺れ、神父様が笑っているような影を作り出した。

「おや、これはこれは、オルフィズ大公殿下ではありませんか。このようなむさ苦しいところまで足をお運びになるとは、うわさたがわぬ行動力。一国民として、尊敬いたします」

 慇懃無礼な言葉と共にされた右手を胸に置き腰を折る彼の礼は我が国と少し違う……隣国のものだった。

 もう何年もこの教会に勤めてくれている彼が、隣国の人間だとはじめて知った。

 胸の内の動揺を無表情で覆い隠し彼を見ていると、不意に彼の視線が私に移った。

「コーラルお嬢様が殿下とお知り合いとはついぞ知りませんでしたが、随分と親密なご様子。男爵家でしかない御身分で殿下の隣に並ぶなど、少しは恥ずかしく思うべきですよお嬢様」

 優しげに掛けられる言葉は、鋭いナイフのように私の心に傷をつける。

 背中に回されたフレイムの手に宥めるように背を叩かれ、私は小さく笑ってフレイムを見上げてからそのままの顔を神父様に向ける。

「神父様はオルラング国の方でしたのね? 神職の方が経歴を詐称するとは思いませんでしたわ。神様も足元はよく見えないのかもしれませんね」

 ふふふ、と声を出して笑えば、彼の目が細く弧を描く。

「神の御心は只人ただびとにははかれない事を知ることができましたね。良い経験となったでしょう? それにしても、今日も良く焼かれましたねぇ。折角ここまで成長させた金の成る木……いえ、花ですね。そう何度も焼かれてはたまったものではないのですが……」

 頭を振り心底困ったような顔をする神父様だったが、急にしゃっきりと頭を上げると地上へ続く階段を見上げた。


 硬質な足音がゆっくりと階段を下りてきていた――


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