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優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる


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35/76

35.帰宅

※ランダム更新継続中

 攫いたいと言ってくれたフレイムの思いが嬉しくて、とても心強い。

 だけど、そうしたら父様はどうなるの? きっと、今生で会う事は二度と叶わないわ。


 この言葉をもらっただけで、私は幸せなのだものね。


 フレイムの言葉に元気を貰った私は、彼に寄り添っていた体をそっと離す。

「大丈夫、大丈夫よフレイム。さっきは泣き言ばかり言ってしまったけれど、友人が……私を助けてくれる友人が二人も居るのよ。彼女達も、少しだけ記憶を持っていて、私の事を助けてくれるの」

「君の他に二人も、同じ記憶を?」

 確認してくる彼に頷く。

「ええ。二人は、観月祭で私が『覚醒』したところだけ覚えていたのだけれど、二人ともそれぞれ別の視点だったのよ。だから、やっぱり私が……私達が持っているのは記憶なの」

「これから、起こる……未来の記憶か。不思議な話しだな。未来視ならば聞いた事があるが、経験した未来をもう一度なぞるような話は……それも、複数の人間がそれを記憶している等というのははじめて聞いた」

 未来視なんていうのがあるの? それこそ初めて聞いたわ。

 ああそうよ! 彼は学園の先輩なのだから、私の知らない魔法の事を知っているのかもしれないわ。

「フレイム、記憶を消す魔法、というのは知っている?」

「記憶を消す? 無いわけじゃないが。記憶を消すというのは、人間の頭に強い負担をかけるから、大なり小なり人格の破綻をきたす。だから、その魔法が使われたというのは一目でわかる。君の父上のように、普通どおり“何も無かったかのように”なんてことは無いはずだ」

 だからその魔法を使うのが許されるのは犯罪者に対してのみだと続けた彼に、私は泣きそうになる。

「じゃぁ……なぜ、お父様は忘れてしまわれたのかしら……」

「もしかしたら。『忘却』の魔法を覚醒した者が居るのかもしれないな。少し調べてみよう」

「忘却の魔法を覚醒?」

 そんなもの、あるの? 驚く私に、フレイムは「君だから教えるんだが」と口外を禁じてから教えてくれた。


 『覚醒』をする魔法には、特殊なものがあるということ。現在知られているものでは、記録の魔法、次元を超える魔法、眠らせる魔法、未来視の魔法、疲れない魔法等があるという。

「だから『忘却』の魔法があったとしてもおかしくはないんだ。だが、特殊な魔法を覚醒した人間はそれに気付かない場合が多いし、気付いたとしても隠すことのほうが多い」

 そうね、私も自分の覚醒を内緒にしているものね。

「だから覚醒者名鑑これに載っている名は、ほんの一部でしかない。私の場合は、王族ということもあるから、逃れられなかったがな」

 豪華な装丁の表紙を指先で叩いて、少し忌々しそうにそう零す。


 カタン―― 一階から乾いた音がし、顔を上げたフレイムはため息を付いて、一度ぎゅっと私を抱きしめなおした。


「もう時間のようだ。こんな時間まで引き止めてすまなかった、父上の記憶については私のほうでも調べよう」

 膝の上から降ろされて立つと、彼も椅子から立ち上がった。

「は……い、お願いします。あ、いえ、やっぱり、駄目! 貴方の記憶まで無くなってしまったら、私……っ」

 もしかしたら、私に関わることで、記憶が消えるのかもしれない可能性が脳裏を過ぎり、慌てて否定したが、フレイムは首を横に振って拒否する。

「大丈夫だ、私の記憶は無くならないよ。ちゃんと、保存しているからね」

 彼がそう言うと、もう一度どこからか――カタン――と音がした。

「ふ、余計な事を言うなと怒られてしまった。さあ、送っていくよ」


 彼にエスコートされてひとけの無い図書館を出れば、そこに無人の小さな馬車が止まっていて、私を席に乗せると彼は自ら御者台に着いた。夜道を危なげなく走らせる彼の手綱捌きは、御者並みだった。


 我が家の門前に横付けされた馬車から、彼の手を借りて地に足を下ろす。


「明日、もう一度教会に行くのだろう? 私も一緒に行ってもいいだろうか。君の母上に挨拶もしたいしな」

 右手の甲に口付けを落としてそう言ってくれるフレイムの優しさに泣きそうになる。

「とても……心強いわ。ありがとう」

 声が震えないように頑張ったのに、彼に抱きしめられる。

「アイシスは本当に泣き虫だな。今夜は私の夢を見て眠りなさい」


 遅い時間に帰宅した私は「連絡はございましたが、妙齢の女性がこんな時間まで外出するとは何事ですか」とマコットとハルバードに怒られ。スカートの裾を焦がしたのを着替えを手伝ってくれたメリーに見つかり、大慌てで怪我はないかと確認され、無事を確認されると涙目で「もういいお年なんですから、火遊びなんてやめてください」なんて怒られてしまった。


 濃厚な一日が終わりベッドに入った私だったけれど、別れ際に長い口付けをひとつ残していった彼のお陰で、私は幸せな夢に包まれて眠った。


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