34.伝える
泣き濡れる私を抱きしめ、あやすように背を撫でながら、フレイムは根気良く私の話に耳を傾けてくれる。
私は彼に解かれるように、記憶を吐き出していった――
「――そうして、私は……処刑されるの。その頃には意識が混濁していて、どうやって死んだのか覚えてはないのだけれど、それ以降の記憶がないから、あの時に私の命は終わったのだと思うわ」
記憶を吐き出し終えた私は、彼の胸に凭れたまま口を閉ざす。
ゆっくり背を撫でてくれる手が心地よく、目を閉ざし彼の反応を待つ。
「俄かには信じがたいが。私がこの国に来た理由は、君の言ったとおり……わが国を蝕もうとしている、薬物の元を押さえるためのものだ。君の父上が、原料となる植物の育成に携わっているという情報も、最近になって入手した」
やっぱり……。フレイムはお父様の事を。
体を強張らせた私を強く抱きしめる彼の背に腕を回し、縋りつく。
「でも、ね。でも、お父様、シロウネ草が栽培を禁止されている植物だとは知らなかったの。薬になる薬草だと信じて……。これで、多くの人が助かるならと張り切っていて」
お父様の思いを踏みにじって、シロウネ草を作らせて、お父様に罪を被せようとした伯爵家。
「禁じられている植物だと知って苦しんでいらした。なのに……私にまで累が及ぶからと、誰がお父様に話を持ってきたのかも教えてくれなくて」
一人で抱え込んでいこうとしてるのなんてわかっているけれど、私には口を閉ざしたお父様から聞きだす術が無い。
それに――
「それに、お父様……。私としたシロウネ草の会話を忘れてしまっているの。本当にすっぽりと、私と話したことを忘れているのよ。それに」
「それに?」
静かに促され、震える息を零す。
「昨日、確かに燃やし尽くしたシロウネ草が、元に戻っていたの。私の炎で燃やし、灰にして、土の魔法で埋めたのに。心配になって見に行ったら、元通りに……っ」
信じられない、信じたくない光景が脳裏に蘇り、唇を噛み締めてから、もう一度口を開いた。
「もう一度。昨日よりも強い炎で燃やし尽くしてきたけれど。また元通りになっているんじゃないかと思って、怖いの。まるで、世界が、辿るべき運命から逸れるのを赦さないみたいで……っ」
世界が私の死を望んでいるように感じる恐怖に身を震わせる。
「わ……たしは、生きていては駄目なのかしら。お父様も、死ななければいけないのかしら。彼女は……幸福にならなければいけないのかしら」
「彼女?」
訝る声に、自嘲の笑みを零す。
「ええ、ラン・クレイロール。クレイロール伯爵家の娘で――少し先の未来で治癒の魔法を『覚醒』する女性」
「さっき言っていた、君がいじめていたという女生徒か」
「ええ、そう。あ、今はいじめたりなんかしてないわよ。だけど、私の婚約者だったゲイツは彼女を選んでしまったわ……」
肩を落としてため息をつくと、私を抱きしめる彼の腕が強くなった。
「君はまだその婚約者が、好きなのか?」
囁くような声で問われ、反射的に首を横に振った。
やがて夫婦になるのだという約束は、私の中に無条件でゲイツへの情を湧かせたけれど――フレイムへの思いを知った今では、あの気持ちは家族への情と同じ種類のものだと認めるしかなかった。
私が首を横に振ると、顎に指がかけられ上向かされた。
暗がりの中、彼の真剣な瞳に射竦められる。
「それならば、私が君を攫ってしまっても問題ないな」
「フレイ……んっ」
彼の名を紡ぐ唇が塞がれる。
深く求めるような口づけに彼の熱情を感じ、胸の奥から熱があふれ出す。
口の中を味わい尽くされ、頭の中がぐずぐずに溶けたころ、やっと唇が開放された。
「このまま君を攫ってしまいたいが、それをしてしまえば、私は悪党になってしまうな」
離れた唇が、名残惜しそうに何度も小さく啄ばんでいった。




